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36、手放せない
一度静雄の中から消失した●●の存在は、静雄自身が忘却を撥ね退けたことで、再び彼の中に息づいた。
●●は以前とは異なる、確かな結びつきが生まれたことを感じていた。
それが不安を幾分か和らげてくれたが、それはどうやら●●だけが有する感覚らしい。
太陽が傾き、建物や地面をオレンジ色に染めていく。
街中で抱き合い、再会に涙した後。思い出したように、そろって周囲の目を気にした。
静雄と顔を合わせた●●は照れて笑ったが、同じように笑みを浮かべた静雄の表情は、すぐにふっと陰りを帯びた。
(静さん……?)
静雄はケータイを取り出して操作すると、電話の相手に仕事を休ませてほしいと頼んだ。
そうして話す間も、もう一方では●●の手をぎゅっと握って放さない。
まるで手を放した途端、●●が消えてしまうと思っているかのように、彼の頑なさと弱さが伝わってきた。
「……●●」
「はいっ」
「腹、減ってねぇか」
「あ、うん、そうですね…」
「…なんか買って帰るか、晩飯」
お互い話したいことは山ほどあるはずだったが、二人は手を繋いだまま黙々と歩いた。
途中、コンビニに立ち寄ってそれぞれ食べたいものを選んだ。
●●は自分がなにも所持していないことに気づいたが、静雄はさも当然のように二人分の会計を済ませた。
その際はやむなく手を放さなければならなかったが、静雄は●●とどこかが触れ合うように寄り添った。
静雄の部屋を訪れるのは久しぶりのことだった。
そこかしこに彼の気配が宿っていて、ちゃんと戻ってこられたのだという実感がますます深まる。
時間は少し早いが夕食にしようと、●●は静雄の顔を見上げた。
「買ってきたごはん、あたためましょうか?」
「…ああ」
ずっとこちらを見ていたらしい静雄は、どこかぼんやりしながら頷いた。
しかし、繋いだ手を放すそぶりは見られない。●●は少し困った。
「静さん?あの、手を…」
「……ん」
こくりと頷いて、静雄は握っていた手を躊躇いがちに、そっと解放した。
●●が流し台で手を洗う間も、彼はすぐ後ろに立っていた。
買ってきた弁当やパスタをレンジであたためようと移動すれば、目で追い、急いで傍に寄ってくる。
「●●」
「はい?」
「……なんでもねえ」
夕食の準備はすぐに整った。いつもの場所に●●が座り、静雄はその前に座るはずだったが。
彼は●●の隣に腰を下ろすと、向かい側に置いてあった弁当をずりずり引き寄せた。
さすがに静雄の異変に気づいたが、●●は敢えてそのことに触れなかった。
テレビをつけることはなく、かといって会話が弾むこともなく。
ぽつりぽつりと当たり障りのない言葉を交わしながら、懐かしささえ覚える二人きりの夕食は進んだ。
おそらく静雄は多くの疑問を抱えていることだろう。それを●●にぶつけたいと思っているはずだ。
そして、●●は答えなければならない。これまでずっと話さずにいた、真実を。
恐れていた事態に陥ってしまった以上、乗り越えられたとはいえ、打ち明けるべきなのだろう。
この先もずっと、彼と交流を続けたいと望むのなら。
(なんだか、怖いな……)
●●はパスタとともに口の中に入れたプラスチックのフォークを、きゅっと噛んだ。
この世界では酷く存在が希薄な自分は、人間だが、きっと普通の人間とは言えない。
今回のような不測の事態が起こってしまった場合、また、苦しめることになるかもしれない。
わかっているのに、傍にいたいと思ってしまう。
静雄のためにこの世界にやってきた、と。そう信じながらも、不安定な関係の押しつけだとも理解していた。
(わたしって、こんなに欲深いんだ…)
こんなにも誰かに執着するのは、生まれて初めてのことだった。
一度静雄の中から消失した●●の存在は、静雄自身が忘却を撥ね退けたことで、再び彼の中に息づいた。
●●は以前とは異なる、確かな結びつきが生まれたことを感じていた。
それが不安を幾分か和らげてくれたが、それはどうやら●●だけが有する感覚らしい。
太陽が傾き、建物や地面をオレンジ色に染めていく。
街中で抱き合い、再会に涙した後。思い出したように、そろって周囲の目を気にした。
静雄と顔を合わせた●●は照れて笑ったが、同じように笑みを浮かべた静雄の表情は、すぐにふっと陰りを帯びた。
(静さん……?)
静雄はケータイを取り出して操作すると、電話の相手に仕事を休ませてほしいと頼んだ。
そうして話す間も、もう一方では●●の手をぎゅっと握って放さない。
まるで手を放した途端、●●が消えてしまうと思っているかのように、彼の頑なさと弱さが伝わってきた。
「……●●」
「はいっ」
「腹、減ってねぇか」
「あ、うん、そうですね…」
「…なんか買って帰るか、晩飯」
お互い話したいことは山ほどあるはずだったが、二人は手を繋いだまま黙々と歩いた。
途中、コンビニに立ち寄ってそれぞれ食べたいものを選んだ。
●●は自分がなにも所持していないことに気づいたが、静雄はさも当然のように二人分の会計を済ませた。
その際はやむなく手を放さなければならなかったが、静雄は●●とどこかが触れ合うように寄り添った。
静雄の部屋を訪れるのは久しぶりのことだった。
そこかしこに彼の気配が宿っていて、ちゃんと戻ってこられたのだという実感がますます深まる。
時間は少し早いが夕食にしようと、●●は静雄の顔を見上げた。
「買ってきたごはん、あたためましょうか?」
「…ああ」
ずっとこちらを見ていたらしい静雄は、どこかぼんやりしながら頷いた。
しかし、繋いだ手を放すそぶりは見られない。●●は少し困った。
「静さん?あの、手を…」
「……ん」
こくりと頷いて、静雄は握っていた手を躊躇いがちに、そっと解放した。
●●が流し台で手を洗う間も、彼はすぐ後ろに立っていた。
買ってきた弁当やパスタをレンジであたためようと移動すれば、目で追い、急いで傍に寄ってくる。
「●●」
「はい?」
「……なんでもねえ」
夕食の準備はすぐに整った。いつもの場所に●●が座り、静雄はその前に座るはずだったが。
彼は●●の隣に腰を下ろすと、向かい側に置いてあった弁当をずりずり引き寄せた。
さすがに静雄の異変に気づいたが、●●は敢えてそのことに触れなかった。
テレビをつけることはなく、かといって会話が弾むこともなく。
ぽつりぽつりと当たり障りのない言葉を交わしながら、懐かしささえ覚える二人きりの夕食は進んだ。
おそらく静雄は多くの疑問を抱えていることだろう。それを●●にぶつけたいと思っているはずだ。
そして、●●は答えなければならない。これまでずっと話さずにいた、真実を。
恐れていた事態に陥ってしまった以上、乗り越えられたとはいえ、打ち明けるべきなのだろう。
この先もずっと、彼と交流を続けたいと望むのなら。
(なんだか、怖いな……)
●●はパスタとともに口の中に入れたプラスチックのフォークを、きゅっと噛んだ。
この世界では酷く存在が希薄な自分は、人間だが、きっと普通の人間とは言えない。
今回のような不測の事態が起こってしまった場合、また、苦しめることになるかもしれない。
わかっているのに、傍にいたいと思ってしまう。
静雄のためにこの世界にやってきた、と。そう信じながらも、不安定な関係の押しつけだとも理解していた。
(わたしって、こんなに欲深いんだ…)
こんなにも誰かに執着するのは、生まれて初めてのことだった。