交差
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2、彼の日常に溶け込んだ彼女
妙なことになった。その一言に尽きる。
仕事を終えて帰宅の途についた静雄は、ドアの前に立ち止まった。見えないその向こうの様子を見透かそうとでもいうように。
そんな自分に気づき、なんともいえない表情になる。
がちゃがちゃと音を立てて鍵を開け中に入ると、音を聞きつけた女は彼を出迎えた。
「おかえりなさい!」
「……ただいま」
「晩ごはん、準備できてますよ。あたためるので一緒に食べましょう」
「……ああ」
一拍遅れで言葉を返す静雄を気にすることなく、女はにこりと笑って先に部屋に入った。
その背中を追う形で後に続く。こんな光景にも慣れてきていた。
それがいいことなのか悪いことなのか、静雄は判断しかねている。
女――●●との出会いは、彼女にとって最悪だったに違いない。
性懲りもなく池袋に姿を現したノミ蟲に放った自販機が、あろうことか通りすがりの●●に直撃したのだ。
いや、よく覚えていないが、●●は奴に突き飛ばされて犠牲になったような気もする。
どちらにせよ、静雄の怒りの気が逸れるくらいには、ヤバイと瞬時に思ったものだ。
死んだ、と。冗談抜きで殺っちまったと思ったのである。
(――で、俺は殺したと思った女となんでこんなことになってんだ…?)
平和島静雄と▲▲●●は、一般的な括りで言うと“友人”になっていた。
ついこの間まで、道で擦れ違っても一瞥さえくれない赤の他人であったのに、今は留守に家を預けてもいいと思えるほどの仲になっている。
非常におかしい。解せない。何事もなく交流が続いているなんて。
「味付け、どうですか?」
「…悪くねぇな」
「よかった~。あ、お代わりありますんで、どんっどん食べてくださいね!」
よく笑う女。にぱっと笑顔になると、年齢よりも幼くに見える。実際、静雄より年下ではあるが成人しているという。
●●は、週に一度は訪ねてくる。
そのときは買い物袋を手に提げていることが多く、家で手料理を振る舞ってくれる。
街中で会えば鍵を渡して先に帰っているように言う。あるときは、仕事から帰るとドアの前に座って待っている。
今日のように朝にやってくることもあるので、その場合は家に入れてやり、留守番を任せる。
本人がいいというのでそうしているのだが、一日中籠ってなにをしているのかと問えば、「んー、寝てる?」の一言。
その返答に、思わずベッドのほうを見てしまった。……疚しい気持ちになったのは何故だろう。
「今日はそろそろお暇しますね」
夕食の後片付けを終えた●●は、時間を確認すると立ち上がった。
●●は手荷物を持って玄関へと向かう。静雄も後を追った。
「なあ…●●」
「はい?」
靴を履き終えた●●は静雄に向き合った。
静雄はぽりぽりと頬を掻きながら言葉を探す。視線は落ち着きなく彷徨ったが、自分の言いたいことはわかっていた。
「本当に送っていかなくていいのか?あ、言っとくが遠慮なんてすんなよ?」
女が夜道を一人歩くのは危ない。
それは●●自身わかっているだろうに、どういうわけか頑として首を縦に振らないのだ。
案の定、緊張感のない笑顔が返ってくる。
「だーいじょうぶです。ほんと、すぐそこなんで」
「すぐそこって…。だいたい、お前どこに住んで…」
「しーずさん」
その声に息をつめる。伸ばされる両腕。そのあたたかさを、柔らかさを、静雄は知っていた。
自動販売機の直撃を受けても掠り傷ひとつ負わなかったこの身体が。
驚くほど女性的で、自分とは正反対であることを。
●●は帰り際、いつもこうやって静雄を優しく抱きしめる。
「また来ます」
そう言われると、他になにも言えなくなった。ただ、気をつけろよと、ありきたりな言葉だけ。
声として表に出ることはなかったが、心はこうも言う。待ってる、と。
●●は妙な女だった。
あれだけ衝撃的な出会いをしたのに、その印象は酷く希薄だった。
それが何度も何度も顔を合わせるうちに、水が透過するように静雄の内側に染み込んでいって。
今ではいい意味で空気のように、傍に寄り添っている。
――じゃあ、友達からお願いします!
それが二人の関係の始まり。
意味深な言い方しやがって、と静雄は最近、●●の最初の言葉を思い返しては頭を抱えたいような燻りを感じていた。
(その先を、期待してもいいのか?)
「……って、なに考えてんだかなぁ、俺」
妙なことになった。その一言に尽きる。
仕事を終えて帰宅の途についた静雄は、ドアの前に立ち止まった。見えないその向こうの様子を見透かそうとでもいうように。
そんな自分に気づき、なんともいえない表情になる。
がちゃがちゃと音を立てて鍵を開け中に入ると、音を聞きつけた女は彼を出迎えた。
「おかえりなさい!」
「……ただいま」
「晩ごはん、準備できてますよ。あたためるので一緒に食べましょう」
「……ああ」
一拍遅れで言葉を返す静雄を気にすることなく、女はにこりと笑って先に部屋に入った。
その背中を追う形で後に続く。こんな光景にも慣れてきていた。
それがいいことなのか悪いことなのか、静雄は判断しかねている。
女――●●との出会いは、彼女にとって最悪だったに違いない。
性懲りもなく池袋に姿を現したノミ蟲に放った自販機が、あろうことか通りすがりの●●に直撃したのだ。
いや、よく覚えていないが、●●は奴に突き飛ばされて犠牲になったような気もする。
どちらにせよ、静雄の怒りの気が逸れるくらいには、ヤバイと瞬時に思ったものだ。
死んだ、と。冗談抜きで殺っちまったと思ったのである。
(――で、俺は殺したと思った女となんでこんなことになってんだ…?)
平和島静雄と▲▲●●は、一般的な括りで言うと“友人”になっていた。
ついこの間まで、道で擦れ違っても一瞥さえくれない赤の他人であったのに、今は留守に家を預けてもいいと思えるほどの仲になっている。
非常におかしい。解せない。何事もなく交流が続いているなんて。
「味付け、どうですか?」
「…悪くねぇな」
「よかった~。あ、お代わりありますんで、どんっどん食べてくださいね!」
よく笑う女。にぱっと笑顔になると、年齢よりも幼くに見える。実際、静雄より年下ではあるが成人しているという。
●●は、週に一度は訪ねてくる。
そのときは買い物袋を手に提げていることが多く、家で手料理を振る舞ってくれる。
街中で会えば鍵を渡して先に帰っているように言う。あるときは、仕事から帰るとドアの前に座って待っている。
今日のように朝にやってくることもあるので、その場合は家に入れてやり、留守番を任せる。
本人がいいというのでそうしているのだが、一日中籠ってなにをしているのかと問えば、「んー、寝てる?」の一言。
その返答に、思わずベッドのほうを見てしまった。……疚しい気持ちになったのは何故だろう。
「今日はそろそろお暇しますね」
夕食の後片付けを終えた●●は、時間を確認すると立ち上がった。
●●は手荷物を持って玄関へと向かう。静雄も後を追った。
「なあ…●●」
「はい?」
靴を履き終えた●●は静雄に向き合った。
静雄はぽりぽりと頬を掻きながら言葉を探す。視線は落ち着きなく彷徨ったが、自分の言いたいことはわかっていた。
「本当に送っていかなくていいのか?あ、言っとくが遠慮なんてすんなよ?」
女が夜道を一人歩くのは危ない。
それは●●自身わかっているだろうに、どういうわけか頑として首を縦に振らないのだ。
案の定、緊張感のない笑顔が返ってくる。
「だーいじょうぶです。ほんと、すぐそこなんで」
「すぐそこって…。だいたい、お前どこに住んで…」
「しーずさん」
その声に息をつめる。伸ばされる両腕。そのあたたかさを、柔らかさを、静雄は知っていた。
自動販売機の直撃を受けても掠り傷ひとつ負わなかったこの身体が。
驚くほど女性的で、自分とは正反対であることを。
●●は帰り際、いつもこうやって静雄を優しく抱きしめる。
「また来ます」
そう言われると、他になにも言えなくなった。ただ、気をつけろよと、ありきたりな言葉だけ。
声として表に出ることはなかったが、心はこうも言う。待ってる、と。
●●は妙な女だった。
あれだけ衝撃的な出会いをしたのに、その印象は酷く希薄だった。
それが何度も何度も顔を合わせるうちに、水が透過するように静雄の内側に染み込んでいって。
今ではいい意味で空気のように、傍に寄り添っている。
――じゃあ、友達からお願いします!
それが二人の関係の始まり。
意味深な言い方しやがって、と静雄は最近、●●の最初の言葉を思い返しては頭を抱えたいような燻りを感じていた。
(その先を、期待してもいいのか?)
「……って、なに考えてんだかなぁ、俺」