交差
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31、「はじめまして」
●●にしか見えない白いドア。それは、本来ならば干渉し合えない世界と世界を繋ぐもの。
同一世界の中を移動する手段には使えない。
冷静に考えればわかっただろうことをぼんやり思いながら、●●は少しずつ意識がはっきりしていくのを感じた。
「――ぃ……、おい」
軟禁されていた部屋に出現したドアに飛び込んだはずの●●は、なぜかどこかに横たわっているようだった。
背中には固い感触。身体の前面を包む、日差しのあたたかさ。そして、落ちてくる誰かの声。
白く閉ざされた視界がふっと暗くなる。近くなった誰かの気配に、重い目蓋を震わせながら、ゆっくり持ち上げた。
「あんた、大丈夫、か…?」
逆光で相手の顔がよく見えない。しかし、気遣わしげな声を聞き、輝く金髪を目に入れた●●は跳ね起きた。
「静さんっ!」
「っ…!?」
会いたくても会えなかった人。静雄だと認識した瞬間、もはや我慢ができなかった。
会いたかった、と勢いよく首筋に飛びつけば、懐かしささえ感じるぬくもりに涙が滲みそうになる。
やっと自分の居場所に戻れたのだ。もうなにも心配ない――そう思って心底安堵した直後、急に強い不安が●●に襲いかかった。
(本当に、なにも、心配ないの?)
そして●●は、歓喜を押しのけるほどの圧倒的な違和感にようやく気づいた。
とっくに慣れたはずの抱擁を受け、強張って動かない腕。緊張によって柔らかさをなくした身体。当惑と動揺と、見え隠れする警戒心。
今まで静雄が●●のことを、あんた、と呼んだことがあっただろうか。それに、こんなに近くにいるのに、いつもの煙草の匂いがしない。
(あ、れ……?)
恐る恐る顔を上げた●●の目が、完全に相手を映し出す。
そこにいたのは、紛れもなく平和島静雄だった。しかし、顔立ちにはどことなく幼さが残る。
それが見間違いではない証拠に、彼が身に纏うのはバーテン服ではなく、なんと制服だった。
サングラスのない目は真っ直ぐに●●を見ていたが、そこに優しさや親しみは宿っていない。
「ぁ……」
「……あの。いい加減、放してほしいんすけど」
思いもしない姿を捉え、目を見開いて硬直した●●に向かって、彼はぼそぼそと小さな声で言った。
その他人行儀な口調はまるで、●●に関するすべての記憶を失った静雄が話しているかのようで。
ぽろり。呆然とした顔で一粒の涙を流した見知らぬ女を見て、高校生の静雄は今度こそ狼狽えたのだった。
世界を繋ぐだけだと思っていたドアによって、どういうわけか時を渡ってしまったようだ。
あの不思議なドアの機能をきちんと把握できていなかったということだろうか。
そもそもが不可解な存在だ。自分の意思で使いこなせるものなら、もっとも望む場所に繋がったはず。
すでに高校生の静雄は立ち去っていた。どうやら今は朝らしいので、今頃学校で授業を受けているだろう。
見えなくなった背中を未練がましく目で探す●●は、閑散とした公園の滑り台の上にいた。
気がついた場所がここだったことに意味があるのなら、下手に動かないほうがいいと判断したのだ。
それに、室内にいた●●は靴を履いていなかった。いざとなったら裸足で移動するしかなさそうだ。
しかし、滑り台の傾斜で横たわる不審者に、よく物怖じせず声をかけてくれたものだと思う。
あの後、落ち着きを取り戻した●●は滑り台の一番下にある平らな場所に正座し、頭を下げた。
人違いで抱きついてしまったと謝る●●に対して、静雄はしどろもどろに気にするなというようなことを言ってくれた。
それから少し言葉を交わして別れたが、一人公園に残されると、酷く寂しい気持ちになった。
(また、来てくれないかな…)
いつまでこの場所にいればいいのかわからない。時間を飛んだ理由がわからない。
あの高校生が、●●の知る静雄であるという保証もない。もしかしたら、ここもまた別の世界であるかもしれない。
不安だらけの中で唯一●●の支えとなるのは、やはり“平和島静雄”という人間だった。
滑り台の一番高いところに座って膝を抱えながら、●●はただ一人の姿を求めて辺りを眺め続けた。
時々、確かめるように胸元に触れる。幸いにも臨也に取り上げられることなく、今も●●に寄り添う金属の感触。
この合鍵だけが、静雄との絆を繋ぎ止めてくれるもののように思えた。
●●にしか見えない白いドア。それは、本来ならば干渉し合えない世界と世界を繋ぐもの。
同一世界の中を移動する手段には使えない。
冷静に考えればわかっただろうことをぼんやり思いながら、●●は少しずつ意識がはっきりしていくのを感じた。
「――ぃ……、おい」
軟禁されていた部屋に出現したドアに飛び込んだはずの●●は、なぜかどこかに横たわっているようだった。
背中には固い感触。身体の前面を包む、日差しのあたたかさ。そして、落ちてくる誰かの声。
白く閉ざされた視界がふっと暗くなる。近くなった誰かの気配に、重い目蓋を震わせながら、ゆっくり持ち上げた。
「あんた、大丈夫、か…?」
逆光で相手の顔がよく見えない。しかし、気遣わしげな声を聞き、輝く金髪を目に入れた●●は跳ね起きた。
「静さんっ!」
「っ…!?」
会いたくても会えなかった人。静雄だと認識した瞬間、もはや我慢ができなかった。
会いたかった、と勢いよく首筋に飛びつけば、懐かしささえ感じるぬくもりに涙が滲みそうになる。
やっと自分の居場所に戻れたのだ。もうなにも心配ない――そう思って心底安堵した直後、急に強い不安が●●に襲いかかった。
(本当に、なにも、心配ないの?)
そして●●は、歓喜を押しのけるほどの圧倒的な違和感にようやく気づいた。
とっくに慣れたはずの抱擁を受け、強張って動かない腕。緊張によって柔らかさをなくした身体。当惑と動揺と、見え隠れする警戒心。
今まで静雄が●●のことを、あんた、と呼んだことがあっただろうか。それに、こんなに近くにいるのに、いつもの煙草の匂いがしない。
(あ、れ……?)
恐る恐る顔を上げた●●の目が、完全に相手を映し出す。
そこにいたのは、紛れもなく平和島静雄だった。しかし、顔立ちにはどことなく幼さが残る。
それが見間違いではない証拠に、彼が身に纏うのはバーテン服ではなく、なんと制服だった。
サングラスのない目は真っ直ぐに●●を見ていたが、そこに優しさや親しみは宿っていない。
「ぁ……」
「……あの。いい加減、放してほしいんすけど」
思いもしない姿を捉え、目を見開いて硬直した●●に向かって、彼はぼそぼそと小さな声で言った。
その他人行儀な口調はまるで、●●に関するすべての記憶を失った静雄が話しているかのようで。
ぽろり。呆然とした顔で一粒の涙を流した見知らぬ女を見て、高校生の静雄は今度こそ狼狽えたのだった。
世界を繋ぐだけだと思っていたドアによって、どういうわけか時を渡ってしまったようだ。
あの不思議なドアの機能をきちんと把握できていなかったということだろうか。
そもそもが不可解な存在だ。自分の意思で使いこなせるものなら、もっとも望む場所に繋がったはず。
すでに高校生の静雄は立ち去っていた。どうやら今は朝らしいので、今頃学校で授業を受けているだろう。
見えなくなった背中を未練がましく目で探す●●は、閑散とした公園の滑り台の上にいた。
気がついた場所がここだったことに意味があるのなら、下手に動かないほうがいいと判断したのだ。
それに、室内にいた●●は靴を履いていなかった。いざとなったら裸足で移動するしかなさそうだ。
しかし、滑り台の傾斜で横たわる不審者に、よく物怖じせず声をかけてくれたものだと思う。
あの後、落ち着きを取り戻した●●は滑り台の一番下にある平らな場所に正座し、頭を下げた。
人違いで抱きついてしまったと謝る●●に対して、静雄はしどろもどろに気にするなというようなことを言ってくれた。
それから少し言葉を交わして別れたが、一人公園に残されると、酷く寂しい気持ちになった。
(また、来てくれないかな…)
いつまでこの場所にいればいいのかわからない。時間を飛んだ理由がわからない。
あの高校生が、●●の知る静雄であるという保証もない。もしかしたら、ここもまた別の世界であるかもしれない。
不安だらけの中で唯一●●の支えとなるのは、やはり“平和島静雄”という人間だった。
滑り台の一番高いところに座って膝を抱えながら、●●はただ一人の姿を求めて辺りを眺め続けた。
時々、確かめるように胸元に触れる。幸いにも臨也に取り上げられることなく、今も●●に寄り添う金属の感触。
この合鍵だけが、静雄との絆を繋ぎ止めてくれるもののように思えた。