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27、失われる彼女
――最近、平和島静雄が荒れている。
そんな風の便りを耳にしたのか、セルティが様子を見に来たとき、ちょうど静雄は倒れた男達の真ん中に立っていた。
難癖を付けてきた奴らを容赦なくぶちのめした直後のことだった。
『静雄……どうしたんだ?』
場所を移動し、セルティはそっとPDAを差し出した。
静雄は荒立った気を鎮めるため、煙草を銜えて火をつける。深呼吸をするように吸い込んだ煙を吐いた。
苛々する。この苛立ちの原因ははっきりしていた。…不安によるものだ。
音信不通になった●●。ケータイは繋がらない。自宅を訪ねようにも、場所がわからない。
以前にも似たようなことがあった。だが、あのときとは違う。
こまめに連絡を取り合うようになってから、一度だってこんなことは起こらなかった。
なんの音沙汰もないのは――彼女の身に、なにかあったからではないのか。
以前とは違うといっても、これではなんら進歩が見られない。
またか、と呆れられるのを承知で、静雄はセルティに事情を告げた。
「……あいつが、来ねぇんだよ」
『あいつ?』
「●●だ。言っとくが、今回は八日じゃねぇぞ?」
●●に会えなくなって、すでに四週間近くになる。
その間メールのひとつも来ないなど、彼女の意思が自由にならない状況だと考えても大袈裟ではないはずだ。
静雄は友人に向き直ると、僅かな期待を込めて尋ねた。
「なあ、どっかであいつを見かけたりしてないか?」
可能性は低いが、なんらかの理由で自分を避けているという場合もある。
それならまだいい。彼女が元気でいるなら、それで。
しかし、返ってきた言葉は静雄の期待を打ち砕き、あろうことが最悪の事態の到来を教えた。
『〇〇……静雄の知り合いか?』
「は?」
一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。
両者が顔を見合わせたまま沈黙する中、静雄は、背筋に這い寄るぞっとしたものを確かに感じた。
なに言ってんだ、と苦笑を作ろうとして顔を歪めながら、
「冗談はよせよ。●●だ、わかるだろ?何度も会ってんじゃねぇか」
『すまない。本当に覚えがないんだが』
「覚えがない、って……」
静雄は●●の容姿を説明し、いつ何処でどう出会ったかなど、自分の知る範囲のことはすべて話した。
ところがいくら言葉を積み重ねても、相手は首を傾げるばかり。
セルティがいたずらに、しかもこれほど悪意のある嘘をつくとは思えない。
(つまり……どういうこと、なんだ……?)
口から煙草が零れ落ちたことにも気づかず、静雄は呆然としていた。
セルティと●●は友人だ。静雄が引き合わせ、その後も二人の交流は続いていた。
それが、全部なかったことになっているというのか。●●が、姿を消したから?
――しずさん。
いつだってその声を容易く思い出せるのに、あどけない笑顔が、霞んでいく。
気づいてしまった。気づかなければよかった。静雄は震える己の肩を掴む。爪を、立てる。
「なんで、だよ……」
切なそうに微笑む顔。さようならと言って、消えていく細い背中。
あれは夢だ。遠い日に見た夢であって、現実には起こり得ない悪夢。
なのに、どうして彼女の笑顔を鮮明に思い出せない。たかが一ヶ月会わなかったくらいで、何故その存在が揺らぐ。
「ッ……!」
歯を食いしばり、傍にあった塀を力の限り殴りつけた。拳が傷つく。どうでもいい、構わない。
ばらばらと崩れ落ちるその音が、まるで自分の中で起こっているように錯覚する。
慌てたように制止をかけるセルティを振り切り、静雄は走り出した。
●●のことを知っているのは誰だ。静雄と、セルティと、それから。
普段なら自ら会いに行こうとは思わない。だが、どうしても確かめる必要があった。
静雄は自分の感情を後回しにして、●●の存在を直接知るもう一人を目指した。
「やあ、シズちゃんじゃないか。こんなところまで君がわざわざ――ぐっ…!?」
喉元を掴み上げ、引き寄せる。無駄なやりとりはごめんだ。
静雄は人を射殺せるほどぎらついた眼差しで、折原臨也を問い詰めた。
「てめぇのご託なんざどうでもいい。俺の質問に答えろ」
「…し、絞まってる、から…」
「●●――知ってるよなあ?てめぇが頻繁にちょっかいをかけてる女だ、覚えがねぇとは言わせねえ」
そろそろ相手の顔色が変わってきたため、しかたなく手を離す。
臨也は盛大に噎せて涙目になりながら、静雄の横暴な振る舞いを非難した。
「っ…顔を合わせたと思ったら、いきなり人の首絞めてさあ。それがものを尋ねる態度なわけ?」
「いいから答えろ!」
「まったく、これだからシズちゃんは嫌いだよ。だいたい、〇〇…って言ったっけ。女って、まさかシズちゃんの女とか言わないよね?」
首を摩りつつ、臨也は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「君にそんな存在がいたとは驚きだなー。どんな子なの?俺にも紹介してよ」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ。これ以上知らねぇふりするなら、殺す」
「ふりもなにも、本当に知らないんだって……その本気の殺意、やめてくれるっ?」
静雄の血の滲む拳が今にも襲いかかってきそうに見えたのか、臨也は反射的に後ずさりをした。
これは、演技なのだろうか。そうであってほしいとさえ思う。
もしも今回の件が臨也の仕業なら、すぐにでも●●を取り戻すための行動をとれる。
だが、いくらなんでも他人の記憶を操作することは不可能だろう。静雄自身、誰かになにかされた覚えはない。
静雄の目には、臨也が本気で●●のことを知らないと言っているように映った。
「本当に、知らねぇんだな…?」
「しつこいな。知らないよ、そんな女。シズちゃんにそんな子ができたら、とっくに俺が目をつけてる。そうだろう?」
「……」
「仮にその子が実在していて、行方がわからないっていうのなら、協力してあげないこともないけど?」
俺は優秀な情報屋だからさ、と笑う男から“協力”などという台詞が出るとは。
その違和感は静雄の感覚に残らず、決定的となった事実にただ愕然としてしまっていた。
そのうえ「疑って悪かったな」という謝罪まで無意識に口から出てしまい、驚く臨也を放って、静雄はふらふらと来た道を引き返した。
「――……期待以上の大ダメージ、か」
残された情報屋は、圧迫感の生々しく残る喉を撫でて、目を細めた。
――最近、平和島静雄が荒れている。
そんな風の便りを耳にしたのか、セルティが様子を見に来たとき、ちょうど静雄は倒れた男達の真ん中に立っていた。
難癖を付けてきた奴らを容赦なくぶちのめした直後のことだった。
『静雄……どうしたんだ?』
場所を移動し、セルティはそっとPDAを差し出した。
静雄は荒立った気を鎮めるため、煙草を銜えて火をつける。深呼吸をするように吸い込んだ煙を吐いた。
苛々する。この苛立ちの原因ははっきりしていた。…不安によるものだ。
音信不通になった●●。ケータイは繋がらない。自宅を訪ねようにも、場所がわからない。
以前にも似たようなことがあった。だが、あのときとは違う。
こまめに連絡を取り合うようになってから、一度だってこんなことは起こらなかった。
なんの音沙汰もないのは――彼女の身に、なにかあったからではないのか。
以前とは違うといっても、これではなんら進歩が見られない。
またか、と呆れられるのを承知で、静雄はセルティに事情を告げた。
「……あいつが、来ねぇんだよ」
『あいつ?』
「●●だ。言っとくが、今回は八日じゃねぇぞ?」
●●に会えなくなって、すでに四週間近くになる。
その間メールのひとつも来ないなど、彼女の意思が自由にならない状況だと考えても大袈裟ではないはずだ。
静雄は友人に向き直ると、僅かな期待を込めて尋ねた。
「なあ、どっかであいつを見かけたりしてないか?」
可能性は低いが、なんらかの理由で自分を避けているという場合もある。
それならまだいい。彼女が元気でいるなら、それで。
しかし、返ってきた言葉は静雄の期待を打ち砕き、あろうことが最悪の事態の到来を教えた。
『〇〇……静雄の知り合いか?』
「は?」
一瞬、なにを言われたのか理解できなかった。
両者が顔を見合わせたまま沈黙する中、静雄は、背筋に這い寄るぞっとしたものを確かに感じた。
なに言ってんだ、と苦笑を作ろうとして顔を歪めながら、
「冗談はよせよ。●●だ、わかるだろ?何度も会ってんじゃねぇか」
『すまない。本当に覚えがないんだが』
「覚えがない、って……」
静雄は●●の容姿を説明し、いつ何処でどう出会ったかなど、自分の知る範囲のことはすべて話した。
ところがいくら言葉を積み重ねても、相手は首を傾げるばかり。
セルティがいたずらに、しかもこれほど悪意のある嘘をつくとは思えない。
(つまり……どういうこと、なんだ……?)
口から煙草が零れ落ちたことにも気づかず、静雄は呆然としていた。
セルティと●●は友人だ。静雄が引き合わせ、その後も二人の交流は続いていた。
それが、全部なかったことになっているというのか。●●が、姿を消したから?
――しずさん。
いつだってその声を容易く思い出せるのに、あどけない笑顔が、霞んでいく。
気づいてしまった。気づかなければよかった。静雄は震える己の肩を掴む。爪を、立てる。
「なんで、だよ……」
切なそうに微笑む顔。さようならと言って、消えていく細い背中。
あれは夢だ。遠い日に見た夢であって、現実には起こり得ない悪夢。
なのに、どうして彼女の笑顔を鮮明に思い出せない。たかが一ヶ月会わなかったくらいで、何故その存在が揺らぐ。
「ッ……!」
歯を食いしばり、傍にあった塀を力の限り殴りつけた。拳が傷つく。どうでもいい、構わない。
ばらばらと崩れ落ちるその音が、まるで自分の中で起こっているように錯覚する。
慌てたように制止をかけるセルティを振り切り、静雄は走り出した。
●●のことを知っているのは誰だ。静雄と、セルティと、それから。
普段なら自ら会いに行こうとは思わない。だが、どうしても確かめる必要があった。
静雄は自分の感情を後回しにして、●●の存在を直接知るもう一人を目指した。
「やあ、シズちゃんじゃないか。こんなところまで君がわざわざ――ぐっ…!?」
喉元を掴み上げ、引き寄せる。無駄なやりとりはごめんだ。
静雄は人を射殺せるほどぎらついた眼差しで、折原臨也を問い詰めた。
「てめぇのご託なんざどうでもいい。俺の質問に答えろ」
「…し、絞まってる、から…」
「●●――知ってるよなあ?てめぇが頻繁にちょっかいをかけてる女だ、覚えがねぇとは言わせねえ」
そろそろ相手の顔色が変わってきたため、しかたなく手を離す。
臨也は盛大に噎せて涙目になりながら、静雄の横暴な振る舞いを非難した。
「っ…顔を合わせたと思ったら、いきなり人の首絞めてさあ。それがものを尋ねる態度なわけ?」
「いいから答えろ!」
「まったく、これだからシズちゃんは嫌いだよ。だいたい、〇〇…って言ったっけ。女って、まさかシズちゃんの女とか言わないよね?」
首を摩りつつ、臨也は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「君にそんな存在がいたとは驚きだなー。どんな子なの?俺にも紹介してよ」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ。これ以上知らねぇふりするなら、殺す」
「ふりもなにも、本当に知らないんだって……その本気の殺意、やめてくれるっ?」
静雄の血の滲む拳が今にも襲いかかってきそうに見えたのか、臨也は反射的に後ずさりをした。
これは、演技なのだろうか。そうであってほしいとさえ思う。
もしも今回の件が臨也の仕業なら、すぐにでも●●を取り戻すための行動をとれる。
だが、いくらなんでも他人の記憶を操作することは不可能だろう。静雄自身、誰かになにかされた覚えはない。
静雄の目には、臨也が本気で●●のことを知らないと言っているように映った。
「本当に、知らねぇんだな…?」
「しつこいな。知らないよ、そんな女。シズちゃんにそんな子ができたら、とっくに俺が目をつけてる。そうだろう?」
「……」
「仮にその子が実在していて、行方がわからないっていうのなら、協力してあげないこともないけど?」
俺は優秀な情報屋だからさ、と笑う男から“協力”などという台詞が出るとは。
その違和感は静雄の感覚に残らず、決定的となった事実にただ愕然としてしまっていた。
そのうえ「疑って悪かったな」という謝罪まで無意識に口から出てしまい、驚く臨也を放って、静雄はふらふらと来た道を引き返した。
「――……期待以上の大ダメージ、か」
残された情報屋は、圧迫感の生々しく残る喉を撫でて、目を細めた。