交差
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1、こうして出逢いました
――玄関を一歩出たら、そこは何故か道路のど真ん中でした。
●●は呆気にとられ、呆然と立ち尽くした。口は「行ってきます」を言いかけた「ま」の形で固まっている。
一瞬にして見知らぬ場所に放り出され、瞬きを繰り返す。
現状を把握しようと脳が動き出すより先に、なにやら騒音がこちらに向かってくる。
破壊音、怒号、とにかくそんな感じの騒がしさの正体は、すぐに●●の目の前に迫ってきた。
黒。そんな印象の男が一人、道を颯爽と駆けてきた。
後ろに気をとられていたのか、ふと視線を前方に戻して――つまり、●●を見て驚いたように目を開いた。
そのまま真っ直ぐに●●に向かって走ってくる。なぜそんなにも笑顔で突っ込んでくるのか。
「やあ、いいところにいるねえ!悪いけどちょっと借りるよ?」
「――は、」
男はそう一方的に言葉を放ったかと思うと、●●の肩を掴んで自分の背後へと突き飛ばした。
●●の視界から男は去り、代わりに飛び込んできたのはなんと、宙を飛ぶはずのないもの。自動販売機!
「っ!?」
スローモーションで迫ってくるように見える塊、悲鳴を上げる余裕さえない。
目を瞑ったかもわからない。次の瞬間には全身に衝撃を受けていた。
ああ、死んだ。●●は思った。自動販売機に当たって死ぬ、なんて前代未聞に違いない。なんて稀有な死因だ。
軽やかな笑い声の中に、しずちゃん、という言葉を聞き取った。
その後続いた怒声に、いざや、という言葉を拾った。
言い争いか喧嘩か乱闘か。なんにせよ、とにかく●●の視界は真っ暗で、だが意識ははっきりとしていた。
●●は死んだと思っていた肉体が実際生きていて、そこにあるべきものがないことに気づいた。
「ぁ、たた…?んん?……あれ。痛く、ない…?」
痛みがない――症状として、痛覚を失うのは非常にやばい段階である。
しかし意識の鮮明さは合点がいかないと、試しに地面に手を着いて、倒れた身体を起こしてみた。
そして、上体は事もなく起きた。視界も復活した。ああ、なるほど。目の前が暗かったのは、自販機の陰にいたせいか。
●●は安堵して、よっこらしょと立ち上がろうとし、さらなる影に気がついた。
「あ……」
「……お前、」
そこに立っていたのは一人の男だった。長身なのか、かなり高い位置に頭がある。
金髪にバーテンダーのような服装、サングラスの奥の目は、驚きに見開かれている。
男は僅かに腰を屈めていた。不自然な位置で手が止まっている。
恐らく自動販売機と衝突した自分を気遣って差し出された手なのだろう、と●●は察した。
「あ、どうも」
だから、ありがたくその手を借りることにした。
勝手に手を伸ばそうとすると、どういうわけか男は躊躇いを見せた。
引っ込められる前に●●がその手を取ってしまったから、男の逡巡はなきものにされたのだが。
手と手が触れた瞬間、伝わってきたものはなんだったのだろう。
刹那の浮遊感の後、●●は男の胸板に勢いよく顔をぶつけていた。ものすごい強さで引き上げられたせいだった。
「っ、わり…」
息を呑む、酷く驚いたような狼狽えたような声は、●●の耳を素通りした。
気がつけば、●●は腕を男の背中に回していた。
服を掴んで握りしめる。二人の間にある隙間を埋めるべく、擦り寄り、寄り添った。
男女の身体の形からして異なる凹凸が、ぴたりと重なる。まるでそうあるべくして存在するかのように。
「なっ……!?」
「――ああ、」
●●は一人、確信する。そうか、そうだったんだ。
説明不可能、理解不能な瞬間移動も。空飛ぶ自動販売機も、それに殺されかけてもへっちゃらな身体も。
そんなものはどうでもよくて、今はただ、このひとつが解っていればそれでいいと思えた。
見知らぬ女に高密着度で抱きつかれて硬直する男。彼を見上げて、●●は微笑みかけた。
「わたし、あなたのために此処に来たみたい」
その言葉は、男をさらに絶句させるに事足りていた。
――玄関を一歩出たら、そこは何故か道路のど真ん中でした。
●●は呆気にとられ、呆然と立ち尽くした。口は「行ってきます」を言いかけた「ま」の形で固まっている。
一瞬にして見知らぬ場所に放り出され、瞬きを繰り返す。
現状を把握しようと脳が動き出すより先に、なにやら騒音がこちらに向かってくる。
破壊音、怒号、とにかくそんな感じの騒がしさの正体は、すぐに●●の目の前に迫ってきた。
黒。そんな印象の男が一人、道を颯爽と駆けてきた。
後ろに気をとられていたのか、ふと視線を前方に戻して――つまり、●●を見て驚いたように目を開いた。
そのまま真っ直ぐに●●に向かって走ってくる。なぜそんなにも笑顔で突っ込んでくるのか。
「やあ、いいところにいるねえ!悪いけどちょっと借りるよ?」
「――は、」
男はそう一方的に言葉を放ったかと思うと、●●の肩を掴んで自分の背後へと突き飛ばした。
●●の視界から男は去り、代わりに飛び込んできたのはなんと、宙を飛ぶはずのないもの。自動販売機!
「っ!?」
スローモーションで迫ってくるように見える塊、悲鳴を上げる余裕さえない。
目を瞑ったかもわからない。次の瞬間には全身に衝撃を受けていた。
ああ、死んだ。●●は思った。自動販売機に当たって死ぬ、なんて前代未聞に違いない。なんて稀有な死因だ。
軽やかな笑い声の中に、しずちゃん、という言葉を聞き取った。
その後続いた怒声に、いざや、という言葉を拾った。
言い争いか喧嘩か乱闘か。なんにせよ、とにかく●●の視界は真っ暗で、だが意識ははっきりとしていた。
●●は死んだと思っていた肉体が実際生きていて、そこにあるべきものがないことに気づいた。
「ぁ、たた…?んん?……あれ。痛く、ない…?」
痛みがない――症状として、痛覚を失うのは非常にやばい段階である。
しかし意識の鮮明さは合点がいかないと、試しに地面に手を着いて、倒れた身体を起こしてみた。
そして、上体は事もなく起きた。視界も復活した。ああ、なるほど。目の前が暗かったのは、自販機の陰にいたせいか。
●●は安堵して、よっこらしょと立ち上がろうとし、さらなる影に気がついた。
「あ……」
「……お前、」
そこに立っていたのは一人の男だった。長身なのか、かなり高い位置に頭がある。
金髪にバーテンダーのような服装、サングラスの奥の目は、驚きに見開かれている。
男は僅かに腰を屈めていた。不自然な位置で手が止まっている。
恐らく自動販売機と衝突した自分を気遣って差し出された手なのだろう、と●●は察した。
「あ、どうも」
だから、ありがたくその手を借りることにした。
勝手に手を伸ばそうとすると、どういうわけか男は躊躇いを見せた。
引っ込められる前に●●がその手を取ってしまったから、男の逡巡はなきものにされたのだが。
手と手が触れた瞬間、伝わってきたものはなんだったのだろう。
刹那の浮遊感の後、●●は男の胸板に勢いよく顔をぶつけていた。ものすごい強さで引き上げられたせいだった。
「っ、わり…」
息を呑む、酷く驚いたような狼狽えたような声は、●●の耳を素通りした。
気がつけば、●●は腕を男の背中に回していた。
服を掴んで握りしめる。二人の間にある隙間を埋めるべく、擦り寄り、寄り添った。
男女の身体の形からして異なる凹凸が、ぴたりと重なる。まるでそうあるべくして存在するかのように。
「なっ……!?」
「――ああ、」
●●は一人、確信する。そうか、そうだったんだ。
説明不可能、理解不能な瞬間移動も。空飛ぶ自動販売機も、それに殺されかけてもへっちゃらな身体も。
そんなものはどうでもよくて、今はただ、このひとつが解っていればそれでいいと思えた。
見知らぬ女に高密着度で抱きつかれて硬直する男。彼を見上げて、●●は微笑みかけた。
「わたし、あなたのために此処に来たみたい」
その言葉は、男をさらに絶句させるに事足りていた。