交差
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22、幸せという時間
「ねえ、ひょっとしてカレシできた?」
「え?」
――高校時代の同級生の家。別々の大学に進んだが、今でも連絡を取り合っている友人だ。
今日はお互いに予定が空いていたため、会おうということになり。
時々そうしているように、お菓子作りを趣味にしている彼女に教わりながら、●●はせっせと手を動かしていた。
その最中、唐突に尋ねられ、思わずきょとんとしてしまった。
「カレシ…って、あの彼氏?」
「うん。で、どうなの」
興味津々、期待感漂う調子で顔を寄せてくる。脈絡のない質問に、残念ながらと●●は笑って首を横に振った。
「相変わらず、そういう人はおりません」
「えー。今度こそは絶対そうだと思ったのにぃ」
勘の鋭さに自負のある友人は、何故か●●に対しては発揮することができずにいる。
高校生から大学生になっても、それは変わらないらしい。
ちなみに、彼女は高校の同級生である彼と今もラブラブだ。確かに想い合う二人を見ていると、いいなあと羨ましくなるけれど。
「でも、なんで彼氏ができたと思ったの?」
恋とて最近はしていないのに、恋人がいると思われるのは不思議な感じがする。
理由を知りたくて、ついじっと友人の目を見つめた。止まっている手を指摘されたので、ボールの中を泡立て器で混ぜながら。
彼女は砂糖の分量を量りつつ、言い訳するように言った。
「だって●●、表情が前と違うんだもん」
「…そう?」
「そうですー。ぱっと明るいっていうか、こう、ほわほわ幸せ~っていうか…」
友人はびしっとこちらに指先を突きつけた。
「と・に・か・く!そんな顔をしておきながら、実は好きな人もいないの、なんて言わせないからねっ」
――そんなやりとりを、ふと思い出す。目の前では、静雄がスプーンでプリンを掬っていた。
ぷるんと震える黄色いものが、形のいい唇の間に運ばれる。
見た目はまあまあだが味はお墨付きのそれは、友人に教わって作ったお菓子だった。
●●は今回、プリンとクッキーを持参して静雄に会いに来たのである。
「初めてだから、絶品とは言えないけど…静さんに食べてほしくて、持ってきました」
そう言って差し出した袋を、彼は躊躇いもなく受け取ってくれた。
静雄は黙々と口に運んで食べていたが、●●の視線に気づくと、
「……俺の好きな味だ」
照れたように目を逸らして、ぶっきらぼうにそう呟いた。
●●の頬が熱を持つ。好きな味。おいしいという言葉をもらえるよりも、心が高揚する。
●●もくすぐったいような照れを感じてしまって、それを誤魔化すように、クッキーもどうぞと勧めた。
(そっか…。わたしが作ったの、静さんの好きな味になってるんだ)
何気なく手を胸元に持っていく。服の下には、固い金属の感触があった。
鎖に通して首にかけているのは、少し前に静雄から渡された合鍵だ。
アクセサリーにするようなものではないが、肌身離さず持っていたい気持ちがあった。
鍵を渡されて、戸惑いを感じなかったわけではない。
だが、喜びが遥かに上回り、さらに静雄の言葉の後押しもあって、受け取ることにしたのだ。
これは、信頼の証のようなものだと思う。心の距離が形になったもの。
(恋人じゃないけど、いいんだよね…?)
合鍵が●●の手に収まったとき、静雄はほっとしたように表情を緩めた。
彼が喜んでくれるのなら、なんだってしてあげたい。衝動のように、そう思った。
仲のいい友人でも、合鍵を渡すようなことは滅多にない。
そう気づいてはいたが、世界を越えた自分と静雄の友人関係は、一般的なそれとは少し異なっても不思議はないだろう。
また、食いたい。食べ終わった静雄が小さく言う。
催促とも呼べない控えめな願い事に、●●は満面の笑顔で頷いた。
ああ、なんて平和で、満たされた時間なのだろう。
どこにでもあるような、珍しくもないはずの小さなひとつひとつが、愛おしい。
確かに胸にある不安から、目を逸らした。目の前の幸福に気をとられていた。
まさかそう遠くない日に、この“日常”が崩されるなんて、二人は知りもしなかった。
「ねえ、ひょっとしてカレシできた?」
「え?」
――高校時代の同級生の家。別々の大学に進んだが、今でも連絡を取り合っている友人だ。
今日はお互いに予定が空いていたため、会おうということになり。
時々そうしているように、お菓子作りを趣味にしている彼女に教わりながら、●●はせっせと手を動かしていた。
その最中、唐突に尋ねられ、思わずきょとんとしてしまった。
「カレシ…って、あの彼氏?」
「うん。で、どうなの」
興味津々、期待感漂う調子で顔を寄せてくる。脈絡のない質問に、残念ながらと●●は笑って首を横に振った。
「相変わらず、そういう人はおりません」
「えー。今度こそは絶対そうだと思ったのにぃ」
勘の鋭さに自負のある友人は、何故か●●に対しては発揮することができずにいる。
高校生から大学生になっても、それは変わらないらしい。
ちなみに、彼女は高校の同級生である彼と今もラブラブだ。確かに想い合う二人を見ていると、いいなあと羨ましくなるけれど。
「でも、なんで彼氏ができたと思ったの?」
恋とて最近はしていないのに、恋人がいると思われるのは不思議な感じがする。
理由を知りたくて、ついじっと友人の目を見つめた。止まっている手を指摘されたので、ボールの中を泡立て器で混ぜながら。
彼女は砂糖の分量を量りつつ、言い訳するように言った。
「だって●●、表情が前と違うんだもん」
「…そう?」
「そうですー。ぱっと明るいっていうか、こう、ほわほわ幸せ~っていうか…」
友人はびしっとこちらに指先を突きつけた。
「と・に・か・く!そんな顔をしておきながら、実は好きな人もいないの、なんて言わせないからねっ」
――そんなやりとりを、ふと思い出す。目の前では、静雄がスプーンでプリンを掬っていた。
ぷるんと震える黄色いものが、形のいい唇の間に運ばれる。
見た目はまあまあだが味はお墨付きのそれは、友人に教わって作ったお菓子だった。
●●は今回、プリンとクッキーを持参して静雄に会いに来たのである。
「初めてだから、絶品とは言えないけど…静さんに食べてほしくて、持ってきました」
そう言って差し出した袋を、彼は躊躇いもなく受け取ってくれた。
静雄は黙々と口に運んで食べていたが、●●の視線に気づくと、
「……俺の好きな味だ」
照れたように目を逸らして、ぶっきらぼうにそう呟いた。
●●の頬が熱を持つ。好きな味。おいしいという言葉をもらえるよりも、心が高揚する。
●●もくすぐったいような照れを感じてしまって、それを誤魔化すように、クッキーもどうぞと勧めた。
(そっか…。わたしが作ったの、静さんの好きな味になってるんだ)
何気なく手を胸元に持っていく。服の下には、固い金属の感触があった。
鎖に通して首にかけているのは、少し前に静雄から渡された合鍵だ。
アクセサリーにするようなものではないが、肌身離さず持っていたい気持ちがあった。
鍵を渡されて、戸惑いを感じなかったわけではない。
だが、喜びが遥かに上回り、さらに静雄の言葉の後押しもあって、受け取ることにしたのだ。
これは、信頼の証のようなものだと思う。心の距離が形になったもの。
(恋人じゃないけど、いいんだよね…?)
合鍵が●●の手に収まったとき、静雄はほっとしたように表情を緩めた。
彼が喜んでくれるのなら、なんだってしてあげたい。衝動のように、そう思った。
仲のいい友人でも、合鍵を渡すようなことは滅多にない。
そう気づいてはいたが、世界を越えた自分と静雄の友人関係は、一般的なそれとは少し異なっても不思議はないだろう。
また、食いたい。食べ終わった静雄が小さく言う。
催促とも呼べない控えめな願い事に、●●は満面の笑顔で頷いた。
ああ、なんて平和で、満たされた時間なのだろう。
どこにでもあるような、珍しくもないはずの小さなひとつひとつが、愛おしい。
確かに胸にある不安から、目を逸らした。目の前の幸福に気をとられていた。
まさかそう遠くない日に、この“日常”が崩されるなんて、二人は知りもしなかった。