交差
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19、あなたに繋がりますか?
親しくなれば連絡先を教え合うことはごく自然なことだ。
例に漏れず、先日●●は静雄からケータイの番号が書かれたメモを手渡された。
静雄との仲も順調に深まっているということで、しかも彼のほうからこうして連絡先を教えてくれたことを、素直に嬉しく思う。
しかし、ここでひとつの問題に突き当たってしまったのである。
「静さんに繋がるのかな、これ…」
●●は手にしたメモと自分のケータイにじっと視線を注いだ。
こちらの世界に住む●●と、あちらの世界に生きる静雄。
電波はどうなるのか、とか、この番号で繋がる相手はこちらの世界の誰かかもしれない、とか。
考えるほどに繋がらないような気がしてきて、●●は尻込みしてしまう。
(――……でも)
待ってる、と微笑んだ静雄を思い出す。
まさか電話を握りしめて今か今かと待っているのではないだろうが、少しくらいは楽しみにしてくれているに違いない。
世界を越えて出会えたのだ。電話だって、きっと繋がるはず。
非通知だと出てもらえないかもしれないと思い、●●はケータイが通知設定になっていることを確認した。
メモの上からひとつひとつ、数字を拾い、指先で慎重に番号を押していく。
こちらは深夜。向こうは昼時だ。この時間帯なら、仕事をしている静雄が休憩中である可能性は高い。
繋がれ、と祈るような気持ちで呼び出し音を数えて待とうとしたが、三つと数える間もなく電話は繋がった。
〈……はい〉
低い男性の声。●●は反射的にベッドの上で正座をすると、背筋をぴんと伸ばした。
「あっ、あの、もしもし…!」
〈……〉
「あの、えっと…●●です、けども…」
〈……〉
相手は沈黙している。●●は、あれ、と冷や汗を浮かべた。
やはり、通じなかったのだろうか。いや、通じてはいるが、誰か見知らぬ人間に繋がってしまったのか。
「……静、さん?平和島、静雄さん…ですか?」
――否定されたら謝って、すぐに切ろう。
相手がキャラクターとしての“平和島静雄”を知っていたらどうしよう。なに言ってるんだこいつ、と思われたかもしれない。
そんなことよりも、繋がらなかったという事実にすごく落ち込みそうだ。
●●が耳に押し当てたケータイをぎゅっと握ったそのとき、相手が通話開始以来、二言目を発した。
〈●●、だな。…ちゃんと聞こえてるから、んな不安そうな声出すなよ〉
「し、静さん…っ。静さんですよね、わたし間違ってませんよねっ?」
〈ん。合ってる〉
「よ……よかった」
へにょんと背中が曲がる。どっと力が抜けた。
本当によかった。そうだ、異なる世界を渡って出会えたくらいなのだ。今さら電話が障害になろうはずがない。
むしろ、自分と静雄を隔てるものがあるなら打ち破ってやる、くらいの気概がなければ。
もっと自信を持てばいい。●●が願い、彼が望んでくれるなら、それは叶うと信じればいい。
たとえば向こうの世界で買ったものを、こちらに持ち帰ることは何度もしている。
だが、静雄と関係のあるなにかをこの世界に渡したことはなかった。
向こうへ行くことでしか、●●だけが知る“生きた”平和島静雄の存在を確かめられなかった。
(これからは、こっちでも声を聞けるんだ…)
嬉しい。すごく、すごく嬉しい。こんな気持ち、初めてだ。彼はどう感じているだろう。
それから少し話をして、明後日には会いに行けそうだということを伝えると、電話を切った。
その日、新たにアドレス帳に追加された、ひとつの電話番号。●●は指先で数字に触れると、そっと微笑んだ。
――さて、余談ではあるが、あちらの世界の池袋にて。
●●に連絡先を渡したその日から、静雄がケータイを肌身離さず持ち歩いていること。
始終どこかしらそわそわと落ち着かなかったことや、着信音が鳴るやいなや、その見知らぬ番号の電話に即座に出たこと。
通じた後の沈黙のわけが、“繋がった”喜びで胸いっぱいになったせいだったとか。それらの事情を●●が知るはずもなく。
幸せを噛みしめるように、ケータイを大切そうに手で包み込む池袋最強の男を、彼の上司だけが不思議そうに見ていたという。
親しくなれば連絡先を教え合うことはごく自然なことだ。
例に漏れず、先日●●は静雄からケータイの番号が書かれたメモを手渡された。
静雄との仲も順調に深まっているということで、しかも彼のほうからこうして連絡先を教えてくれたことを、素直に嬉しく思う。
しかし、ここでひとつの問題に突き当たってしまったのである。
「静さんに繋がるのかな、これ…」
●●は手にしたメモと自分のケータイにじっと視線を注いだ。
こちらの世界に住む●●と、あちらの世界に生きる静雄。
電波はどうなるのか、とか、この番号で繋がる相手はこちらの世界の誰かかもしれない、とか。
考えるほどに繋がらないような気がしてきて、●●は尻込みしてしまう。
(――……でも)
待ってる、と微笑んだ静雄を思い出す。
まさか電話を握りしめて今か今かと待っているのではないだろうが、少しくらいは楽しみにしてくれているに違いない。
世界を越えて出会えたのだ。電話だって、きっと繋がるはず。
非通知だと出てもらえないかもしれないと思い、●●はケータイが通知設定になっていることを確認した。
メモの上からひとつひとつ、数字を拾い、指先で慎重に番号を押していく。
こちらは深夜。向こうは昼時だ。この時間帯なら、仕事をしている静雄が休憩中である可能性は高い。
繋がれ、と祈るような気持ちで呼び出し音を数えて待とうとしたが、三つと数える間もなく電話は繋がった。
〈……はい〉
低い男性の声。●●は反射的にベッドの上で正座をすると、背筋をぴんと伸ばした。
「あっ、あの、もしもし…!」
〈……〉
「あの、えっと…●●です、けども…」
〈……〉
相手は沈黙している。●●は、あれ、と冷や汗を浮かべた。
やはり、通じなかったのだろうか。いや、通じてはいるが、誰か見知らぬ人間に繋がってしまったのか。
「……静、さん?平和島、静雄さん…ですか?」
――否定されたら謝って、すぐに切ろう。
相手がキャラクターとしての“平和島静雄”を知っていたらどうしよう。なに言ってるんだこいつ、と思われたかもしれない。
そんなことよりも、繋がらなかったという事実にすごく落ち込みそうだ。
●●が耳に押し当てたケータイをぎゅっと握ったそのとき、相手が通話開始以来、二言目を発した。
〈●●、だな。…ちゃんと聞こえてるから、んな不安そうな声出すなよ〉
「し、静さん…っ。静さんですよね、わたし間違ってませんよねっ?」
〈ん。合ってる〉
「よ……よかった」
へにょんと背中が曲がる。どっと力が抜けた。
本当によかった。そうだ、異なる世界を渡って出会えたくらいなのだ。今さら電話が障害になろうはずがない。
むしろ、自分と静雄を隔てるものがあるなら打ち破ってやる、くらいの気概がなければ。
もっと自信を持てばいい。●●が願い、彼が望んでくれるなら、それは叶うと信じればいい。
たとえば向こうの世界で買ったものを、こちらに持ち帰ることは何度もしている。
だが、静雄と関係のあるなにかをこの世界に渡したことはなかった。
向こうへ行くことでしか、●●だけが知る“生きた”平和島静雄の存在を確かめられなかった。
(これからは、こっちでも声を聞けるんだ…)
嬉しい。すごく、すごく嬉しい。こんな気持ち、初めてだ。彼はどう感じているだろう。
それから少し話をして、明後日には会いに行けそうだということを伝えると、電話を切った。
その日、新たにアドレス帳に追加された、ひとつの電話番号。●●は指先で数字に触れると、そっと微笑んだ。
――さて、余談ではあるが、あちらの世界の池袋にて。
●●に連絡先を渡したその日から、静雄がケータイを肌身離さず持ち歩いていること。
始終どこかしらそわそわと落ち着かなかったことや、着信音が鳴るやいなや、その見知らぬ番号の電話に即座に出たこと。
通じた後の沈黙のわけが、“繋がった”喜びで胸いっぱいになったせいだったとか。それらの事情を●●が知るはずもなく。
幸せを噛みしめるように、ケータイを大切そうに手で包み込む池袋最強の男を、彼の上司だけが不思議そうに見ていたという。