交差
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16、それはほんのささいな出来事から
静雄の様子が、いつもとなにか違う。どこかおかしい。
そうなったのは、静雄の仕事が休みで一日一緒にいられることになったあの日のことだった。
目が合ったと思えば、不自然にすぐ逸らす。
そのくせ、こちらが視線を外せばじっと見つめてくる目を感じる。
なにか言いたげに眼差しで訴えてくるのに、問うとなんでもないと言って誤魔化す。
それよりなにより●●が気になったのは、もはや恒例となった別れ際の抱擁のときだった。
「それじゃあ今日はこれで。また来ますね、静さん」
いつものように抱きしめるために伸ばされた●●の腕から、静雄が身を引いたのだ。
気のせいというには、あまりに明確に避けた。それも反射的に、本人の意志とは別のなにかによって。
「え?」
「――ぁ…」
●●はきょとんと静雄を見上げ、静雄は自分の行動に驚いたように声を漏らした。
二人の間に、一方的に気まずい空気が漂った。
固まる静雄。●●は所在のなくなった手を戻すと、「ええっと」と言いながら思考を巡らせて。
結局、場を取り繕うように笑うことにした。
「じゃあわたし、帰りますね」
「あ、いや、これは違…」
「だいじょーぶです。気にしないでください」
笑顔のまま扉を閉めて、●●は何事もなかったように歩き出した。
その向こうで静雄が「なにやってんだ、俺…」と項垂れていたことなど知るはずもなく。
(……びっくりした。ちょっと……うん、ちょっとだけね)
●●は●●で、思いがけない静雄の拒絶に純粋に驚いていた。
そう、驚いただけだった。最初のうちは。
だが、歩けば歩くほど、時間が経てば経つほどに、ずーんと頭にのしかかる。――そうか、あれは拒絶だったのか、と。
「わたし、なにかしちゃったのかな…」
せっかくずっと一緒にいられる日だったのに、顔を合わせてからというもの、静雄はなにか変だった。
もしかして、嫌だったのだろうか。
●●は一緒にいられることを素直に喜んだが、もしかしたら、静雄にとっては貴重な休日がまるまる潰れたということになるのかもしれない。
でも、嫌なら嫌って言ってくれるよね。ああでも、静さん、優しいから言い出せなかったのかも。
――そんなことがあったのが、数日前のことだった。
考えれば考えるほど、●●は落ち込んでいった。
時間を見つけては会いに行こうと湧き上がる気持ちも、あのときのことを考えると怯んでしまう。
二週間後に大学の講義で発表しなければならないということもあって、自然と●●の足はあちらの世界から遠退いた。
(少しだけ、時間を置こう。……二週間くらい、大丈夫だよね?)
今まで積み上げてきたものを思えば、たった二週間では消えてしまわないはず。
静雄の記憶はともかく、セルティのほうが彼より日が浅い分、少し心配だけれど。
●●自身、自分の落ち込みように驚きながら、この暗い気持ちをリセットするためと言い聞かせて。
「会いたい」という気持ちが膨れないように、自分の世界での現実に努めて意識を向けた。
(二週間だけ。二週間後には、きっといつものわたしになって、静さんに会いに行くから)
まさかその空白の時間が静雄を悩ませることになろうとは、●●はまったく気づいていなかった。
静雄の様子が、いつもとなにか違う。どこかおかしい。
そうなったのは、静雄の仕事が休みで一日一緒にいられることになったあの日のことだった。
目が合ったと思えば、不自然にすぐ逸らす。
そのくせ、こちらが視線を外せばじっと見つめてくる目を感じる。
なにか言いたげに眼差しで訴えてくるのに、問うとなんでもないと言って誤魔化す。
それよりなにより●●が気になったのは、もはや恒例となった別れ際の抱擁のときだった。
「それじゃあ今日はこれで。また来ますね、静さん」
いつものように抱きしめるために伸ばされた●●の腕から、静雄が身を引いたのだ。
気のせいというには、あまりに明確に避けた。それも反射的に、本人の意志とは別のなにかによって。
「え?」
「――ぁ…」
●●はきょとんと静雄を見上げ、静雄は自分の行動に驚いたように声を漏らした。
二人の間に、一方的に気まずい空気が漂った。
固まる静雄。●●は所在のなくなった手を戻すと、「ええっと」と言いながら思考を巡らせて。
結局、場を取り繕うように笑うことにした。
「じゃあわたし、帰りますね」
「あ、いや、これは違…」
「だいじょーぶです。気にしないでください」
笑顔のまま扉を閉めて、●●は何事もなかったように歩き出した。
その向こうで静雄が「なにやってんだ、俺…」と項垂れていたことなど知るはずもなく。
(……びっくりした。ちょっと……うん、ちょっとだけね)
●●は●●で、思いがけない静雄の拒絶に純粋に驚いていた。
そう、驚いただけだった。最初のうちは。
だが、歩けば歩くほど、時間が経てば経つほどに、ずーんと頭にのしかかる。――そうか、あれは拒絶だったのか、と。
「わたし、なにかしちゃったのかな…」
せっかくずっと一緒にいられる日だったのに、顔を合わせてからというもの、静雄はなにか変だった。
もしかして、嫌だったのだろうか。
●●は一緒にいられることを素直に喜んだが、もしかしたら、静雄にとっては貴重な休日がまるまる潰れたということになるのかもしれない。
でも、嫌なら嫌って言ってくれるよね。ああでも、静さん、優しいから言い出せなかったのかも。
――そんなことがあったのが、数日前のことだった。
考えれば考えるほど、●●は落ち込んでいった。
時間を見つけては会いに行こうと湧き上がる気持ちも、あのときのことを考えると怯んでしまう。
二週間後に大学の講義で発表しなければならないということもあって、自然と●●の足はあちらの世界から遠退いた。
(少しだけ、時間を置こう。……二週間くらい、大丈夫だよね?)
今まで積み上げてきたものを思えば、たった二週間では消えてしまわないはず。
静雄の記憶はともかく、セルティのほうが彼より日が浅い分、少し心配だけれど。
●●自身、自分の落ち込みように驚きながら、この暗い気持ちをリセットするためと言い聞かせて。
「会いたい」という気持ちが膨れないように、自分の世界での現実に努めて意識を向けた。
(二週間だけ。二週間後には、きっといつものわたしになって、静さんに会いに行くから)
まさかその空白の時間が静雄を悩ませることになろうとは、●●はまったく気づいていなかった。