交差
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
11、情報屋さんといっしょ
てくてくてく。すたすたすた。
てくてくてく。すたすたすた。
歩けばついてくる。止まれば立ち止まる。ちらと振り返れば、にこりと笑いかけられる。
放っておけばそのうち飽きるだろうと思ったのに、依然状況は変わらず。
●●はついに足を止めると、完全に身体ごと後ろに向き直った。そこには、フード付きの黒いコートの男。
「あのー……折原さん。どこまでついてくる気ですか?」
「もちろん、〇〇ちゃんの目的地まで」
悪びれもせず、爽やかな声で告げられる。●●は溜め息をつきたくなった。
「……折原さんは、わたしの邪魔をしたいんですか」
「えー?俺にはこれっぽっちもそんなつもりはないんだけどなあ」
なんというか、白々しすぎていっそ清々しい。
臨也は●●が静雄の家を訪ねようとしているのを知っていて、後ろに張り付いてくるのである。
そうすれば、●●が目的地へ向かうのを躊躇わざるを得ないということまで見通して。
●●が“何時”“何処”からこの世界に現れるかは定まっていない。特に“何処”から入るかは●●自身にもわからない。
なのに、同じく神出鬼没の折原臨也は、高確率で●●を見つけ出す。
新宿を根城にする情報屋が、あまりにも池袋に来すぎているのではないか。
暇なのだろうか、と思うが、そう問うのも失礼なので胸に秘めておく。
「〇〇ちゃんもよく飽きないね。姿を現したと思ったら、行き先は決まってあいつだ」
臨也は腰を軽く折ってひょいと●●の手にある買い物袋を覗き込んだ。
「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉…か。なるほど、今晩はカレーかな」
「そうですけど…あの、」
「俺はシズちゃんがどんなに味気ない手料理をご馳走されようが、別に構わないんだけどさぁ。ていうか、超絶不味いもんでも食わされて腹を壊せばいいと考えてる」
人差し指を買い物袋に向けて、親切にも臨也は指摘した。
「だが敢えて〇〇ちゃんのために一言助言しよう。……肝心のルーが、どこにも見当たらないよ?」
「えっ、嘘!」
●●は慌てて袋の口を大きく開いた。確かに、カレールーの姿はそこになかった。
臨也に言われなかったら、後で買いに走らなければならなかっただろう。
●●はほっと息をついて、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます、折原さん」
「……いや、うん。そんなに素直にお礼を言われても、調子が狂うんだけどさ」
居心地悪そうにされる理由は、よくわからない。
相手の様子に首を傾げつつ、●●は再び歩き出した。当然、臨也もついてくる。
付かず離れずではなく、今度は隣に並んできた。
興味深そうな視線を横から感じたので、視線を返してみる。
「折原さんも…」
「なに?」
「夕食をご一緒しますか?」
一瞬面食らった顔になった臨也は、次の瞬間には真顔になり、さらにとても嫌そうな顔をした。
「……え、なにそれ。君、本気で言ってんの?俺にシズちゃんと同じテーブルに着けって?」
「まあ、大半は冗談なんですけどね」
「ふうん。冗談、ね」
あ、視線に少し棘が加わった。痛い。刺さってます。
臨也の機嫌を損ねようという意図はなかったのだが。敢えて言うなら、反応が見たかったというところか。
いけない、いけない。あまりにも観察されるから、こちらもなにか仕返し(?)をしたくなったのだ。
あれから、●●が“不運”に見舞われることはなくなった。
折原臨也は宣言どおり、自ら池袋に赴いては●●を見つけ出し、かといって特になにか仕掛けてくるでもなく、話をして帰る。
ひょっとすると、●●の知らないところでなにかを企んでいるのかもしれないが。
とにかく、危惧したような出来事は今のところ起こっていない。
静雄に迷惑がかからないのなら、それでいい。自分が付き纏われる分には●●は平気だった。
「ねえ。シズちゃんなんかのために、どうしてそこまで尽くすの?」
なにかというと臨也はこうして●●に質問をぶつけてくる。
●●のほうも答えられる範囲内のことは答え、返答が難しければきっぱり答えられないと返すことにしていた。
彼に下手な誤魔化しは通用しない。言葉を巧みに操る相手に、こちらは正直さで応えるしかない。
「えっと、尽くしてるつもりはないんですが…」
「なにか見返りでも求めてるわけ?ま、そんなものを期待できる相手でもないか」
●●をしげしげと眺める赤の眼が、弓形に歪んだ。「変わった子だよ、君は」
「今までに会ったことのないタイプの人間だ。あ、君が人間か否かという点についてはまだ保留だよ?」
「はあ…」
「結論を出すのは、俺が君をもっともっと調べてからだ」
臨也は頭の後ろで手を組むと、「あーあ」と息を吐いた。
愉快そうに、苛立たしげに、言う。
「〇〇ちゃんに対する疑問はどんどん湧くのに、まったく答えを引き出せない。信じられる?情報屋のこの俺が、だ」
軽く鼻で笑って、吐き捨てる。
「これじゃあまるで俺が君に踊らされてるみたいじゃないか。あーなんていうのかな、こういうのって――うん、酷い屈辱?」
「……」
●●は返すべき言葉を見つけられず、黙って受け止めていた。
いくら凄腕の情報屋だろうが、無理もない。●●の情報を手に入れられるはずがないのだ。
この世界のどこにも、▲▲●●に関する情報はないのだから。
(あったとしても、同姓同名の別人さんのだろうし…)
それを臨也に言えるはずもない。
軽い口調ながら発せられる空気がなんとも言えず、怒らせただろうかと不安になる。
臨也はたまにどう接すればいいのかわからなくなる雰囲気を醸し出して、●●を困らせる。
そんなとき、静雄なら、と思う。彼は臨也より感情に素直だ。
こんなふうに相手を困惑させるような顔はしない。
「――折原さんは、わたしのことをどのくらい知ってますか?」
このタイミングで問うのは危険かと思ったが、それでも●●はわざわざ立ち止まって、臨也に尋ねた。
二歩ほど先を行った臨也は、ゆっくりと振り返る。
無表情。真意を探り当てようと、抉る鋭い眼差し。
怯むことなく見つめ返した結果、臨也は不意に笑った。
「ははは……ハハハハハハハハハハ!」
「ふえっ?」
びくっと●●の身体が震えた。え、ここでまさかの笑い声?
臨也は肩を揺らしながら、堪えきれないように口角を上げて答えた。
「俺が君をどのくらい知ってるかって?だから言ってるだろ、全然わかんないんだって。俺が知ってることといえば、〇〇ちゃんが週に数回シズちゃん目当てで池袋に現れることや、むしろ池袋以外に君が“いた”ことがないこと、非現実的なほど身体が頑丈で人間かどうか疑わしくて、他人の記憶に残りにくい、だけど外見上は極めて平凡な女の子で、俺に会うたびに微妙な顔をすること、紅茶はミルクティーやレモンティーより微糖のストレートが好み、スーパーでおまけつきのお菓子を買いたいのに人目を気にして買えず終いだったり、雑貨屋で自分好みの小物を見つけてはじっと眺めて最終的に買ってしまうとか――情報屋の名が泣くようなその程度のことだけさ」
饒舌に語った臨也は肩を竦めて両手を上げて見せた。
「知らないことが多すぎて、知ろうとしても思い通りにいかなくて。おかげで俺はいつまで経っても満たされない。ほーんと、このままじゃあ欲求不満になっちゃうねえ!」
「……」
気になるといえば、すべてが気になる言葉だった。が、それよりなにより。
(………ストーカー?)
失礼を承知の上で抱いてしまった、正直な感想だった。
眼差しに現れてしまったのかもしれない。気づいたように、こう言われる。
「ついでに言っとくと、俺はストーカーじゃない。単に〇〇ちゃんのことを知ろうと、こまめに観察を続けてるだけだから」
「そう、なんですか」
それってどう違いがあるのだろう。――いや、もうなにも言うまい。
歩みを再開した●●は、静雄の家ではなくスーパーを目指すことにした。
夕食に不可欠なカレールーを購入するためである。
まだついてくる気で隣に並ぶ臨也に、ふと思いついて尋ねることにした。
「カレールーってどこのスーパーが安いんでしょうか。折原さん、知ってますか?」
「教えてあげてもいいけど、俺は高いよ?」
情報屋とはいえ、そんな家庭的な情報まで知っているのか。
驚きつつ、●●はにやりと笑う臨也の言葉を丁寧に断った。不用意に情報を押し売りされでもしたら大変だ。
きっと●●には、とても支払えない金額なのだろうから。
てくてくてく。すたすたすた。
てくてくてく。すたすたすた。
歩けばついてくる。止まれば立ち止まる。ちらと振り返れば、にこりと笑いかけられる。
放っておけばそのうち飽きるだろうと思ったのに、依然状況は変わらず。
●●はついに足を止めると、完全に身体ごと後ろに向き直った。そこには、フード付きの黒いコートの男。
「あのー……折原さん。どこまでついてくる気ですか?」
「もちろん、〇〇ちゃんの目的地まで」
悪びれもせず、爽やかな声で告げられる。●●は溜め息をつきたくなった。
「……折原さんは、わたしの邪魔をしたいんですか」
「えー?俺にはこれっぽっちもそんなつもりはないんだけどなあ」
なんというか、白々しすぎていっそ清々しい。
臨也は●●が静雄の家を訪ねようとしているのを知っていて、後ろに張り付いてくるのである。
そうすれば、●●が目的地へ向かうのを躊躇わざるを得ないということまで見通して。
●●が“何時”“何処”からこの世界に現れるかは定まっていない。特に“何処”から入るかは●●自身にもわからない。
なのに、同じく神出鬼没の折原臨也は、高確率で●●を見つけ出す。
新宿を根城にする情報屋が、あまりにも池袋に来すぎているのではないか。
暇なのだろうか、と思うが、そう問うのも失礼なので胸に秘めておく。
「〇〇ちゃんもよく飽きないね。姿を現したと思ったら、行き先は決まってあいつだ」
臨也は腰を軽く折ってひょいと●●の手にある買い物袋を覗き込んだ。
「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉…か。なるほど、今晩はカレーかな」
「そうですけど…あの、」
「俺はシズちゃんがどんなに味気ない手料理をご馳走されようが、別に構わないんだけどさぁ。ていうか、超絶不味いもんでも食わされて腹を壊せばいいと考えてる」
人差し指を買い物袋に向けて、親切にも臨也は指摘した。
「だが敢えて〇〇ちゃんのために一言助言しよう。……肝心のルーが、どこにも見当たらないよ?」
「えっ、嘘!」
●●は慌てて袋の口を大きく開いた。確かに、カレールーの姿はそこになかった。
臨也に言われなかったら、後で買いに走らなければならなかっただろう。
●●はほっと息をついて、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます、折原さん」
「……いや、うん。そんなに素直にお礼を言われても、調子が狂うんだけどさ」
居心地悪そうにされる理由は、よくわからない。
相手の様子に首を傾げつつ、●●は再び歩き出した。当然、臨也もついてくる。
付かず離れずではなく、今度は隣に並んできた。
興味深そうな視線を横から感じたので、視線を返してみる。
「折原さんも…」
「なに?」
「夕食をご一緒しますか?」
一瞬面食らった顔になった臨也は、次の瞬間には真顔になり、さらにとても嫌そうな顔をした。
「……え、なにそれ。君、本気で言ってんの?俺にシズちゃんと同じテーブルに着けって?」
「まあ、大半は冗談なんですけどね」
「ふうん。冗談、ね」
あ、視線に少し棘が加わった。痛い。刺さってます。
臨也の機嫌を損ねようという意図はなかったのだが。敢えて言うなら、反応が見たかったというところか。
いけない、いけない。あまりにも観察されるから、こちらもなにか仕返し(?)をしたくなったのだ。
あれから、●●が“不運”に見舞われることはなくなった。
折原臨也は宣言どおり、自ら池袋に赴いては●●を見つけ出し、かといって特になにか仕掛けてくるでもなく、話をして帰る。
ひょっとすると、●●の知らないところでなにかを企んでいるのかもしれないが。
とにかく、危惧したような出来事は今のところ起こっていない。
静雄に迷惑がかからないのなら、それでいい。自分が付き纏われる分には●●は平気だった。
「ねえ。シズちゃんなんかのために、どうしてそこまで尽くすの?」
なにかというと臨也はこうして●●に質問をぶつけてくる。
●●のほうも答えられる範囲内のことは答え、返答が難しければきっぱり答えられないと返すことにしていた。
彼に下手な誤魔化しは通用しない。言葉を巧みに操る相手に、こちらは正直さで応えるしかない。
「えっと、尽くしてるつもりはないんですが…」
「なにか見返りでも求めてるわけ?ま、そんなものを期待できる相手でもないか」
●●をしげしげと眺める赤の眼が、弓形に歪んだ。「変わった子だよ、君は」
「今までに会ったことのないタイプの人間だ。あ、君が人間か否かという点についてはまだ保留だよ?」
「はあ…」
「結論を出すのは、俺が君をもっともっと調べてからだ」
臨也は頭の後ろで手を組むと、「あーあ」と息を吐いた。
愉快そうに、苛立たしげに、言う。
「〇〇ちゃんに対する疑問はどんどん湧くのに、まったく答えを引き出せない。信じられる?情報屋のこの俺が、だ」
軽く鼻で笑って、吐き捨てる。
「これじゃあまるで俺が君に踊らされてるみたいじゃないか。あーなんていうのかな、こういうのって――うん、酷い屈辱?」
「……」
●●は返すべき言葉を見つけられず、黙って受け止めていた。
いくら凄腕の情報屋だろうが、無理もない。●●の情報を手に入れられるはずがないのだ。
この世界のどこにも、▲▲●●に関する情報はないのだから。
(あったとしても、同姓同名の別人さんのだろうし…)
それを臨也に言えるはずもない。
軽い口調ながら発せられる空気がなんとも言えず、怒らせただろうかと不安になる。
臨也はたまにどう接すればいいのかわからなくなる雰囲気を醸し出して、●●を困らせる。
そんなとき、静雄なら、と思う。彼は臨也より感情に素直だ。
こんなふうに相手を困惑させるような顔はしない。
「――折原さんは、わたしのことをどのくらい知ってますか?」
このタイミングで問うのは危険かと思ったが、それでも●●はわざわざ立ち止まって、臨也に尋ねた。
二歩ほど先を行った臨也は、ゆっくりと振り返る。
無表情。真意を探り当てようと、抉る鋭い眼差し。
怯むことなく見つめ返した結果、臨也は不意に笑った。
「ははは……ハハハハハハハハハハ!」
「ふえっ?」
びくっと●●の身体が震えた。え、ここでまさかの笑い声?
臨也は肩を揺らしながら、堪えきれないように口角を上げて答えた。
「俺が君をどのくらい知ってるかって?だから言ってるだろ、全然わかんないんだって。俺が知ってることといえば、〇〇ちゃんが週に数回シズちゃん目当てで池袋に現れることや、むしろ池袋以外に君が“いた”ことがないこと、非現実的なほど身体が頑丈で人間かどうか疑わしくて、他人の記憶に残りにくい、だけど外見上は極めて平凡な女の子で、俺に会うたびに微妙な顔をすること、紅茶はミルクティーやレモンティーより微糖のストレートが好み、スーパーでおまけつきのお菓子を買いたいのに人目を気にして買えず終いだったり、雑貨屋で自分好みの小物を見つけてはじっと眺めて最終的に買ってしまうとか――情報屋の名が泣くようなその程度のことだけさ」
饒舌に語った臨也は肩を竦めて両手を上げて見せた。
「知らないことが多すぎて、知ろうとしても思い通りにいかなくて。おかげで俺はいつまで経っても満たされない。ほーんと、このままじゃあ欲求不満になっちゃうねえ!」
「……」
気になるといえば、すべてが気になる言葉だった。が、それよりなにより。
(………ストーカー?)
失礼を承知の上で抱いてしまった、正直な感想だった。
眼差しに現れてしまったのかもしれない。気づいたように、こう言われる。
「ついでに言っとくと、俺はストーカーじゃない。単に〇〇ちゃんのことを知ろうと、こまめに観察を続けてるだけだから」
「そう、なんですか」
それってどう違いがあるのだろう。――いや、もうなにも言うまい。
歩みを再開した●●は、静雄の家ではなくスーパーを目指すことにした。
夕食に不可欠なカレールーを購入するためである。
まだついてくる気で隣に並ぶ臨也に、ふと思いついて尋ねることにした。
「カレールーってどこのスーパーが安いんでしょうか。折原さん、知ってますか?」
「教えてあげてもいいけど、俺は高いよ?」
情報屋とはいえ、そんな家庭的な情報まで知っているのか。
驚きつつ、●●はにやりと笑う臨也の言葉を丁寧に断った。不用意に情報を押し売りされでもしたら大変だ。
きっと●●には、とても支払えない金額なのだろうから。