交差
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10、わたしはここにいる
都市伝説の首なしライダー、セルティと静雄が友人であることは知っていた。
しかし、まさか自分がその仲間入りをできようとは。
●●は静雄に彼女を紹介されたとき、心の底から嬉しいと思う反面、困ってしまった。
●●の存在は、この世界とは本来相容れないものである。
よって、摂理が必要以上の●●の情報を排除しようと働きかける――らしい。
静雄のためにこの世界にやってきたことを思えば、なんだか矛盾しているようなのだが。
この世界の人間に自分の記憶が残りにくいことを、●●は一応そう解釈することにしていた。
臨也の話が現状把握に一役買ったとは、彼も知らないだろう。
この世界の人間から見た、客観的な“事実”を手に入れた●●は、特異な現象を外側から見ることができた。
(あのセルティと友達になれるなんて、すごく嬉しい)
しかし、静雄以外と密な関係を築くことは、正直難しいと感じていた。
一定の頻度でなんらかの接触をし続けなければ、●●は相手の記憶に留まれない。
静雄と友人関係に至るまでの日々を思えば、それは確かだった。
彼と違って、セルティを見つけることはなかなか困難である。しかし、そうも言っていられない。
「――あっ、セルティさん!」
その姿を見かけるや、猛然と●●は走り出した。
声を張り上げて呼び止めたおかげで、黒バイクは速度を緩めて路肩に寄った。
●●は急いで駆け寄る。期待と不安を交えて、挨拶をした。
「こんにちはっ。いいお天気ですね」
セルティは、ライダースーツのポケットからPDAを取り出すと、文字を打ち出した。
『お前は……確か、●●、か?』
「はい!●●です」
自信なさそうに尋ねられたが、●●は名前を覚えてもらえていたことに安堵する。
●●は静雄の名前を出しつつ、密かに印象付けと想起を促す。
案の定、思い出したように猫耳ヘルメットが頷くように上下に動いた。
少しずつでいい。焦らずに自分を相手に浸透させていくことができれば、それで。
(デュラハンっていう妖精さん、だっけ?妖精っていったら、小さくて背中に羽が生えてるイメージがあるなあ…)
そういえば。臨也が何気なく彼女の正体のことを口にしたことがあった。
特になにも思わなかったが、あのとき、ひょっとしてなんらかの反応を示したほうがよかったのだろうか。
妖精だなんて荒唐無稽だ、とか、なんとか。
(でもあれ、別にわたしに答えを求めてなかったよね…?)
まあ、今となっては過ぎたことだ。気にしてもしかたない。
『静雄とはうまくやってるか?あいつは普段はいい奴なんだが…キレると手がつけられなくなるからな』
「あはは…確かに、そうですね」
『怒りに我を忘れて周りが見えなくなるんだ。お前を狙って物を投げることはないとしても、巻き込まれないように気をつけるんだぞ?』
「あ、はい。でも大丈夫です」
セルティの忠告をありがたく受け止めながら、●●は笑顔で言った。
「静さん、優しいですから」
『そう、だな。あいつは優しい。もっとも相手にもよるだろうが…』
キーボードに滑らせていた指を止めると、セルティは●●の顔を見つめた、ようだった。
視線と呼んでいいものを感じる。●●も黒いフェイスカバーを見つめ返した。
そこには、自分の顔が映っていた。 ああ、ちょっと不安そうな目をしている。
『うん。●●なら大丈夫だ』
セルティはなにを思ったのか、ぽんぽんと●●の頭を軽く叩いた。
親しみのこもったそれに、●●は僅かに息を呑む。次いで、どうしようもなく頬が緩むのを止められなかった。
それから少し言葉を交わして、セルティと別れた。
影のような姿を小さくなるまで見送って、●●もまた静雄と会うために歩き出した。
初対面のやりとりを繰り返す段階は終わっていた。
これからは、“普通”の人間のようにすんなり思い出してもらえるようになりたい。
(静さんは……なにか、気づいたかな…)
●●はふと静雄のことを思ったが、おぼろげな不安に気づかないふりをした。
早く、セルティにとって確たる存在感のある人間にならなければ。
静雄がせっかく引き合わせてくれた縁を、●●が無下にするわけにはいかないのだ。
――そして今日もまた、静雄と会うための時間を割いて、●●は黒バイクを探して街中を歩き回る。
セルティ・ストゥルルソンの中に、己の存在を植えつけるために。
都市伝説の首なしライダー、セルティと静雄が友人であることは知っていた。
しかし、まさか自分がその仲間入りをできようとは。
●●は静雄に彼女を紹介されたとき、心の底から嬉しいと思う反面、困ってしまった。
●●の存在は、この世界とは本来相容れないものである。
よって、摂理が必要以上の●●の情報を排除しようと働きかける――らしい。
静雄のためにこの世界にやってきたことを思えば、なんだか矛盾しているようなのだが。
この世界の人間に自分の記憶が残りにくいことを、●●は一応そう解釈することにしていた。
臨也の話が現状把握に一役買ったとは、彼も知らないだろう。
この世界の人間から見た、客観的な“事実”を手に入れた●●は、特異な現象を外側から見ることができた。
(あのセルティと友達になれるなんて、すごく嬉しい)
しかし、静雄以外と密な関係を築くことは、正直難しいと感じていた。
一定の頻度でなんらかの接触をし続けなければ、●●は相手の記憶に留まれない。
静雄と友人関係に至るまでの日々を思えば、それは確かだった。
彼と違って、セルティを見つけることはなかなか困難である。しかし、そうも言っていられない。
「――あっ、セルティさん!」
その姿を見かけるや、猛然と●●は走り出した。
声を張り上げて呼び止めたおかげで、黒バイクは速度を緩めて路肩に寄った。
●●は急いで駆け寄る。期待と不安を交えて、挨拶をした。
「こんにちはっ。いいお天気ですね」
セルティは、ライダースーツのポケットからPDAを取り出すと、文字を打ち出した。
『お前は……確か、●●、か?』
「はい!●●です」
自信なさそうに尋ねられたが、●●は名前を覚えてもらえていたことに安堵する。
●●は静雄の名前を出しつつ、密かに印象付けと想起を促す。
案の定、思い出したように猫耳ヘルメットが頷くように上下に動いた。
少しずつでいい。焦らずに自分を相手に浸透させていくことができれば、それで。
(デュラハンっていう妖精さん、だっけ?妖精っていったら、小さくて背中に羽が生えてるイメージがあるなあ…)
そういえば。臨也が何気なく彼女の正体のことを口にしたことがあった。
特になにも思わなかったが、あのとき、ひょっとしてなんらかの反応を示したほうがよかったのだろうか。
妖精だなんて荒唐無稽だ、とか、なんとか。
(でもあれ、別にわたしに答えを求めてなかったよね…?)
まあ、今となっては過ぎたことだ。気にしてもしかたない。
『静雄とはうまくやってるか?あいつは普段はいい奴なんだが…キレると手がつけられなくなるからな』
「あはは…確かに、そうですね」
『怒りに我を忘れて周りが見えなくなるんだ。お前を狙って物を投げることはないとしても、巻き込まれないように気をつけるんだぞ?』
「あ、はい。でも大丈夫です」
セルティの忠告をありがたく受け止めながら、●●は笑顔で言った。
「静さん、優しいですから」
『そう、だな。あいつは優しい。もっとも相手にもよるだろうが…』
キーボードに滑らせていた指を止めると、セルティは●●の顔を見つめた、ようだった。
視線と呼んでいいものを感じる。●●も黒いフェイスカバーを見つめ返した。
そこには、自分の顔が映っていた。 ああ、ちょっと不安そうな目をしている。
『うん。●●なら大丈夫だ』
セルティはなにを思ったのか、ぽんぽんと●●の頭を軽く叩いた。
親しみのこもったそれに、●●は僅かに息を呑む。次いで、どうしようもなく頬が緩むのを止められなかった。
それから少し言葉を交わして、セルティと別れた。
影のような姿を小さくなるまで見送って、●●もまた静雄と会うために歩き出した。
初対面のやりとりを繰り返す段階は終わっていた。
これからは、“普通”の人間のようにすんなり思い出してもらえるようになりたい。
(静さんは……なにか、気づいたかな…)
●●はふと静雄のことを思ったが、おぼろげな不安に気づかないふりをした。
早く、セルティにとって確たる存在感のある人間にならなければ。
静雄がせっかく引き合わせてくれた縁を、●●が無下にするわけにはいかないのだ。
――そして今日もまた、静雄と会うための時間を割いて、●●は黒バイクを探して街中を歩き回る。
セルティ・ストゥルルソンの中に、己の存在を植えつけるために。