交差
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普通の人間より遥かに頑丈になった静雄の身体は、しかし心臓まではそうならなかったようだ。
●●の思わぬ言動に、堪え性もなく早鐘を打つ。
覆いかぶさられたときには、口には出せなかったが、顔に女の膨らみが押しつけられていた。
正直、サングラスが当たる痛みなど意識に及ばなかった。…これを言うと、変態染みていて嫌なのだが。
睡眠不足の静雄を心配して、●●曰く眠気を誘うらしい肌のぬくもりを提供してくれている。
ベンチは静雄の長い足には寸足らずだったが、気にならなかった。
膝の弾力が堪らないと思う。これじゃあ本物の変態か。
(柔らけぇ手……薄いな)
皮膚の厚い自分の手とは大違いだ。
この手が、欲しいと思う。できることなら、ずっと触れていてほしい。
心地よくまどろみながら、静雄は数日前の夢を思い出す。一度きりの悪夢。
また見てしまうのが怖くて、深く眠れなかった。
現実ではありえないとわかっていても、傷つく●●をたとえ夢であっても見たくなかったのだ。
(忘れるわけ、ないよな。俺が●●を忘れるなんて…)
実際にあるとすれば、それは●●が離れていくことだった。
いつかは、静雄の圧倒的な力を恐れて離れていくかもしれない。誰もがそうであるように。
●●は最初に身をもって思い知ったはずだ。
ただ不思議と傷つくことなく、恐れもせず、彼女から自分に近づいてきてくれた、その事実にどうしようもなく喜びが湧き上がる。
傍にいれば傷つけてしまうかもしれない。恐れる気持ち。
でも、それ以上に傍にいてほしいという想い。ましてや触れてほしいなんて、贅沢な望みだとわかっているのに。
(なんの躊躇いもなく、お前は俺に手を伸ばしてくれる)
欲深くなる。貪るように、求めそうになる。
当たり前のように触れてくれるから、もっと望んでもいいと許されている――そんな錯覚をしてしまう。
「しずさん」
(いつまでも、浸っていたくなっちまう)
「きもちいいですか。わたしも、しずさんに触れていると」
(傷つけたくないんだ。お前を、守りたい)
「ずうっと。こうして此処に、いたくなっちゃいます」
どれくらい時間が流れたのだろう。
静雄はゆっくり手を動かして、触れている細い手を目の上からよけた。
視界に光が戻ってくる。その中に優しい微笑みを見つけた静雄は、眩しそうに目を細めた。
「あ、目が覚めましたか。具合はどうです?」
「ああ、よくなった。…ありがとな」
位置をずらすふりをして、静雄は白い手のひらに唇を掠めさせた。
そして何事もなかったように、●●の手を解放し、自身も身体を起こす。
寝心地のいいベッドとはいかなかったため、僅かに違和感が残ったが、些細なこと。
悪夢が心に落とした翳りは、今やすっかり取り払われていた。
「足、大丈夫か?痺れたか?」
「ん…平気ですよ」
サングラスを手渡しながら、●●はにこりと笑ってみせる。
どうしてそう頭を撫でてやりたくなるような笑顔を向けるのだろう。かわいい、と口をついて出そうになり、ぐっと飲み込んだ。
静雄がベンチから立ち上がり、●●も腰を浮かした、そのときだ。
●●の目がふっと通りのほうに向けられた。
あ、と薄く開いたその唇を凝視しそうになり、静雄は無理矢理視線を同じ方向に捻じ曲げる。
――首なしライダー。黒い影がまさにそこを通り過ぎようとしていた。
静雄は瞬間的に、大声を上げて引き止めていた。
「セルティ!」
セルティと●●を引き合わせる――。瞬間的な閃きは、なかなかいい案のように思えた。
●●は、いつも静雄だけを目指してやってくる。
他の誰かといるところは見たことがないし、この辺りに知り合いらしい知り合いがいるという話も聞かない。
思えば、●●の口から他の誰かの名前を聞いたことがなかった。
“平和島静雄”の傍にいることが、●●に災難をもたらしかねないという事実は無視できない。
もちろんこの手でなにがなんでも守り抜くつもりだが、もし自分の目の届かないところで、なにかあったら。
自分の他に、●●を気にかけてくれる存在が必要だ。味方は多いほうがいい。
セルティはいい奴だ。頼めば、きっと力になってくれるだろう。
静雄の呼びかけに応えて、黒バイクが公園へと入ってくる。
静雄は隣の●●の反応を窺ったが、恐怖はそこになく、純粋な喜びと好奇心が見て取れた。
ほっと息をつく。この調子なら、●●もセルティといい関係を築けそうだ。
風に揺れる黒髪。そっと手で触れると、静さん?と見上げてくる、黒い瞳。
(――俺だけの、●●)
不意に浮かんだ甘い誘惑を押しのけて、静雄はやってきた友人に協力を求めた。
●●の思わぬ言動に、堪え性もなく早鐘を打つ。
覆いかぶさられたときには、口には出せなかったが、顔に女の膨らみが押しつけられていた。
正直、サングラスが当たる痛みなど意識に及ばなかった。…これを言うと、変態染みていて嫌なのだが。
睡眠不足の静雄を心配して、●●曰く眠気を誘うらしい肌のぬくもりを提供してくれている。
ベンチは静雄の長い足には寸足らずだったが、気にならなかった。
膝の弾力が堪らないと思う。これじゃあ本物の変態か。
(柔らけぇ手……薄いな)
皮膚の厚い自分の手とは大違いだ。
この手が、欲しいと思う。できることなら、ずっと触れていてほしい。
心地よくまどろみながら、静雄は数日前の夢を思い出す。一度きりの悪夢。
また見てしまうのが怖くて、深く眠れなかった。
現実ではありえないとわかっていても、傷つく●●をたとえ夢であっても見たくなかったのだ。
(忘れるわけ、ないよな。俺が●●を忘れるなんて…)
実際にあるとすれば、それは●●が離れていくことだった。
いつかは、静雄の圧倒的な力を恐れて離れていくかもしれない。誰もがそうであるように。
●●は最初に身をもって思い知ったはずだ。
ただ不思議と傷つくことなく、恐れもせず、彼女から自分に近づいてきてくれた、その事実にどうしようもなく喜びが湧き上がる。
傍にいれば傷つけてしまうかもしれない。恐れる気持ち。
でも、それ以上に傍にいてほしいという想い。ましてや触れてほしいなんて、贅沢な望みだとわかっているのに。
(なんの躊躇いもなく、お前は俺に手を伸ばしてくれる)
欲深くなる。貪るように、求めそうになる。
当たり前のように触れてくれるから、もっと望んでもいいと許されている――そんな錯覚をしてしまう。
「しずさん」
(いつまでも、浸っていたくなっちまう)
「きもちいいですか。わたしも、しずさんに触れていると」
(傷つけたくないんだ。お前を、守りたい)
「ずうっと。こうして此処に、いたくなっちゃいます」
どれくらい時間が流れたのだろう。
静雄はゆっくり手を動かして、触れている細い手を目の上からよけた。
視界に光が戻ってくる。その中に優しい微笑みを見つけた静雄は、眩しそうに目を細めた。
「あ、目が覚めましたか。具合はどうです?」
「ああ、よくなった。…ありがとな」
位置をずらすふりをして、静雄は白い手のひらに唇を掠めさせた。
そして何事もなかったように、●●の手を解放し、自身も身体を起こす。
寝心地のいいベッドとはいかなかったため、僅かに違和感が残ったが、些細なこと。
悪夢が心に落とした翳りは、今やすっかり取り払われていた。
「足、大丈夫か?痺れたか?」
「ん…平気ですよ」
サングラスを手渡しながら、●●はにこりと笑ってみせる。
どうしてそう頭を撫でてやりたくなるような笑顔を向けるのだろう。かわいい、と口をついて出そうになり、ぐっと飲み込んだ。
静雄がベンチから立ち上がり、●●も腰を浮かした、そのときだ。
●●の目がふっと通りのほうに向けられた。
あ、と薄く開いたその唇を凝視しそうになり、静雄は無理矢理視線を同じ方向に捻じ曲げる。
――首なしライダー。黒い影がまさにそこを通り過ぎようとしていた。
静雄は瞬間的に、大声を上げて引き止めていた。
「セルティ!」
セルティと●●を引き合わせる――。瞬間的な閃きは、なかなかいい案のように思えた。
●●は、いつも静雄だけを目指してやってくる。
他の誰かといるところは見たことがないし、この辺りに知り合いらしい知り合いがいるという話も聞かない。
思えば、●●の口から他の誰かの名前を聞いたことがなかった。
“平和島静雄”の傍にいることが、●●に災難をもたらしかねないという事実は無視できない。
もちろんこの手でなにがなんでも守り抜くつもりだが、もし自分の目の届かないところで、なにかあったら。
自分の他に、●●を気にかけてくれる存在が必要だ。味方は多いほうがいい。
セルティはいい奴だ。頼めば、きっと力になってくれるだろう。
静雄の呼びかけに応えて、黒バイクが公園へと入ってくる。
静雄は隣の●●の反応を窺ったが、恐怖はそこになく、純粋な喜びと好奇心が見て取れた。
ほっと息をつく。この調子なら、●●もセルティといい関係を築けそうだ。
風に揺れる黒髪。そっと手で触れると、静さん?と見上げてくる、黒い瞳。
(――俺だけの、●●)
不意に浮かんだ甘い誘惑を押しのけて、静雄はやってきた友人に協力を求めた。