交差
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8、夢であることだけが救いだった
静さん。呼びかけに、足を止めて振り向く“静雄”――を、静雄は見ていた。
その先には、女というよりは少女という形容がまだ似合う、●●。
自分を見つけただけで、どうしてあんなに嬉しそうな顔ができるのだろう。
不思議に思い、くすぐったいような、だが心地の悪くない気分で駆け寄ってくる彼女を待つのである。
これは夢だった。静雄はいつもの光景を、第三者の視点で見ていた。
(すげぇ笑顔…。あれじゃあ誤解されても文句は言えねえよなあ…)
どう誤解するかは、まあさておき。
こうやって客観的に見られる機会など普通はない。
夢とはいえ、いったい自分はいつもどんな顔をして●●を待ち受けているのだろうかと見やって、静雄は目を疑った。
“静雄”は確かに●●がやってくるのを見ていた。しかし、少しも嬉しそうではない。
そればかりか、まるで見知らぬ他人を見るかのように、不審そうに眉間に軽く皺を寄せていて。
――お前、誰だ?
――静、さん……?
――あー…どっかで会ったこと、あったか?
呆然と立ち尽くす●●の傷ついた顔は見ていられなかった。
違う、と静雄は叫んだ。それは俺じゃない。俺はお前を忘れたりなんかしない!
届くはずがなかった。夢の中で●●と向き合っている平和島静雄は“静雄”であって静雄ではない。
衝撃を受けた顔は、やがて緩やかに変わっていった。
息を呑み、なにかに気づき、諦め、惜しみ、切なそうに微笑んだ。
――ごめんなさい。
風が●●の黒髪を揺らした。彼女の瞳は水分を湛えていたが、決して零れ落ちはしなかった。
――終わりが、来たみたいですね。
――あ?……悪いが、まったく話が見えねえ。
――いいんです。ごめんなさい、変なこと言っちゃって。あの……これだけ、言わせてもらえませんか。
「さようなら、静さん。…どうか、お元気で」
最後に笑顔を向けると、●●は踵を返して歩き出した。振り返るまいという意志の見える背中は、酷く哀しかった。
“静雄”は訝しげに彼女の後ろ姿を見ていたが、すぐに視線を外した。
離れていく●●に僅かな関心さえ向けない“静雄”に、静雄は咆哮した。
引き止めろ。ぼさっとしてんじゃねえ、今すぐ追いかけて引き止めろよ!
離れていく。二人の距離は広がる一方で、●●が二度と静雄の手の届かないところに行くことを暗示しているようだった。
静雄は“静雄”に代わって●●の名を呼び続け、手を伸ばした。
●●は振り返らず、やがて掻き消されるようにいなくなった。
「――行くな、行かないでくれ、●●……!」
跳ね起きた静雄は肩で息をしていた。荒い呼吸音が部屋に響く。汗が顎をつうと滴り落ちた。
ぐったりと俯くと、両手で頭を抱えてうずくまった。なん…て、悪夢だ。
静さん。呼びかけに、足を止めて振り向く“静雄”――を、静雄は見ていた。
その先には、女というよりは少女という形容がまだ似合う、●●。
自分を見つけただけで、どうしてあんなに嬉しそうな顔ができるのだろう。
不思議に思い、くすぐったいような、だが心地の悪くない気分で駆け寄ってくる彼女を待つのである。
これは夢だった。静雄はいつもの光景を、第三者の視点で見ていた。
(すげぇ笑顔…。あれじゃあ誤解されても文句は言えねえよなあ…)
どう誤解するかは、まあさておき。
こうやって客観的に見られる機会など普通はない。
夢とはいえ、いったい自分はいつもどんな顔をして●●を待ち受けているのだろうかと見やって、静雄は目を疑った。
“静雄”は確かに●●がやってくるのを見ていた。しかし、少しも嬉しそうではない。
そればかりか、まるで見知らぬ他人を見るかのように、不審そうに眉間に軽く皺を寄せていて。
――お前、誰だ?
――静、さん……?
――あー…どっかで会ったこと、あったか?
呆然と立ち尽くす●●の傷ついた顔は見ていられなかった。
違う、と静雄は叫んだ。それは俺じゃない。俺はお前を忘れたりなんかしない!
届くはずがなかった。夢の中で●●と向き合っている平和島静雄は“静雄”であって静雄ではない。
衝撃を受けた顔は、やがて緩やかに変わっていった。
息を呑み、なにかに気づき、諦め、惜しみ、切なそうに微笑んだ。
――ごめんなさい。
風が●●の黒髪を揺らした。彼女の瞳は水分を湛えていたが、決して零れ落ちはしなかった。
――終わりが、来たみたいですね。
――あ?……悪いが、まったく話が見えねえ。
――いいんです。ごめんなさい、変なこと言っちゃって。あの……これだけ、言わせてもらえませんか。
「さようなら、静さん。…どうか、お元気で」
最後に笑顔を向けると、●●は踵を返して歩き出した。振り返るまいという意志の見える背中は、酷く哀しかった。
“静雄”は訝しげに彼女の後ろ姿を見ていたが、すぐに視線を外した。
離れていく●●に僅かな関心さえ向けない“静雄”に、静雄は咆哮した。
引き止めろ。ぼさっとしてんじゃねえ、今すぐ追いかけて引き止めろよ!
離れていく。二人の距離は広がる一方で、●●が二度と静雄の手の届かないところに行くことを暗示しているようだった。
静雄は“静雄”に代わって●●の名を呼び続け、手を伸ばした。
●●は振り返らず、やがて掻き消されるようにいなくなった。
「――行くな、行かないでくれ、●●……!」
跳ね起きた静雄は肩で息をしていた。荒い呼吸音が部屋に響く。汗が顎をつうと滴り落ちた。
ぐったりと俯くと、両手で頭を抱えてうずくまった。なん…て、悪夢だ。