眠りから醒めるまで
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「おい、●●」
と呼びかけたのは銀時ではない。最近松下村塾に入った高杉晋助である。
高杉が●●に何事か話し出すより先に、銀時は目の前に割って入ると不良のようにずいっとガンを付けた。
「おい●●、じゃねーよ。何馴れ馴れしく呼んじゃってんの、お前」
「は?……●●は●●だろうが。他にどう呼べっていうんだ」
「りんごでいいだろ、りんごで。みんなそう呼んでるんだし」
「お前に指図される謂れはねェよ」
腕を組んで正論を言われるとぐうの音も出ない。悔しがる銀時の横から会話に加わったのは高杉と同じ新入りの桂小太郎だった。
「りんご殿はりんご殿ではなかったのか!?……すまない、ずっとりんご殿だと思っていた」
「ううん、気にしないで。好きなように呼んでね」
りんごを連呼する桂に●●はおかしそうに笑った。はにかみながら気軽に許可を出す●●に、そら見ろと高杉が視線を送ってくる。ほいほい許すんじゃねーよと銀時は●●を睨んだ。
●●のことをりんごと呼ぶのは銀時が始めたことだったと思うが、今ではそれが浸透して当たり前になっていた。
そうなると本名で呼ぶことのほうが特別に思えて、なんとなく優越感を覚えていたのだ。
それを他人に横取りされたような気持ちになったとは、あまりにも子どもじみている。
しかし、気に食わないものは気に食わないのだからしかたない。
あの日、道場破りにやってきた高杉は銀時の剣を受けて気を失った。道場から運び出したのは松陽だが、手当てを施したのは●●だった。
それ以来、勝負を挑みにやってきては負傷する高杉を●●は毎度甲斐甲斐しく世話してやっていた。
こちらに身に覚えのない傷を増やしてくれば、家で折檻されてるんじゃないかな、と心配そうにしていた●●。
道場破りと二人きりにさせるのはよろしくない、という建前でいつもこっそり様子を窺っていた銀時は知っていた。
●●と高杉は余計なことは一切話さなかった。●●は黙々と手当てをし、高杉はそれを黙って見ていた。
時折●●が気遣う言葉をかければ、高杉がそれに短く答えるだけ。
ろくなコミュニケーションをとらずとも、あの時間が二人の距離を近づけたのは傍から見ても明らかだった。
「●●殿か、りんご殿か……。やはりりんご殿と呼んでもいいだろうか。とても可愛らしい呼び名だと思う」
「あ、ありがとう、小太郎くん。呼び捨てでもいいんだよ?」
「いや、それは……」
銀時が過去を振り返っている間に、何故かいい雰囲気になっている少年と少女。
銀時は腕を伸ばすと、照れている●●の頬を両手で挟んで視線を奪い返した。手のひらから伝わる熱は色のとおりだ。
「俺抜きで和気藹々とできるなんて成長したじゃねェか。……なぁ、りんごちゃん?」
「え……」
本来なら喜ばしいことを責めるように言ってしまう。●●は困惑していた。
あだ名で呼び始めた張本人であるはずの銀時がいつの間にか呼ぶことをやめ、本名で呼ぶようになった。
意図してそうなったわけではなかったが、結果的には都合がよかった。まるで宝物を隠すように、できたから。
だが、変化は望むと望まざるとにかかわらず起こるものだ。
桂に無言で一発蹴りを入れた(そして桂の非難をあっさり無視した)高杉が、すっきりした表情を●●に向けた。
「俺も好きに呼ばせてもらうぜ。いいんだろ、●●?」
「あ、うん、晋助くんの好きにしてもらえれば……」
銀時の手のうちにあるというのにまた勝手なことを言って、微塵も気持ちを汲んでくれやしない。
やる気のない顔つきの下でどうしてやろうかと淡々と考えていると、でも、と●●が真っ直ぐな眼差しをした。
「銀ちゃんには、●●って呼んでほしいなあ」
――あ、駄目だ。これ駄目なやつだ絶対。そう悟ったところで逃れようがない。
こんなふうに、●●に何かを望まれたことがあっただろうか。
己が手の中に素直に頬を委ねながら、そんな甘い少女の声で強請られたら。
「●●さん、ちょっといいですか?」
「はい、先生」
銀時だけを見つめていた目はすんなり他所に向き、●●は自然な動作で束縛の手から抜け出していった。
残された銀時は惚けた顔をしながら、きゅっと誰かに鷲掴みにされたような胸に手を当てた。高杉が面白そうに囁いた。
「顔、真っ赤だぞ。単純なヤローだな」
「……ほっとけ」
教室の外から声をかけた松陽に呼ばれ、すぐに傍に寄った●●はしゃんとした背筋で受け答えをしている。
その様子が先生と生徒ではなく別物に映るのはこれで何度目か。今の気分に水を差す想像は控えようと目を逸らす銀時の隣で、
「りんご殿は松陽先生の前だと生徒というより……まるで人妻のようだな」
容赦なく呟いた新入りの塾生には、とりあえず蹴りをお見舞いしておくことにした。
と呼びかけたのは銀時ではない。最近松下村塾に入った高杉晋助である。
高杉が●●に何事か話し出すより先に、銀時は目の前に割って入ると不良のようにずいっとガンを付けた。
「おい●●、じゃねーよ。何馴れ馴れしく呼んじゃってんの、お前」
「は?……●●は●●だろうが。他にどう呼べっていうんだ」
「りんごでいいだろ、りんごで。みんなそう呼んでるんだし」
「お前に指図される謂れはねェよ」
腕を組んで正論を言われるとぐうの音も出ない。悔しがる銀時の横から会話に加わったのは高杉と同じ新入りの桂小太郎だった。
「りんご殿はりんご殿ではなかったのか!?……すまない、ずっとりんご殿だと思っていた」
「ううん、気にしないで。好きなように呼んでね」
りんごを連呼する桂に●●はおかしそうに笑った。はにかみながら気軽に許可を出す●●に、そら見ろと高杉が視線を送ってくる。ほいほい許すんじゃねーよと銀時は●●を睨んだ。
●●のことをりんごと呼ぶのは銀時が始めたことだったと思うが、今ではそれが浸透して当たり前になっていた。
そうなると本名で呼ぶことのほうが特別に思えて、なんとなく優越感を覚えていたのだ。
それを他人に横取りされたような気持ちになったとは、あまりにも子どもじみている。
しかし、気に食わないものは気に食わないのだからしかたない。
あの日、道場破りにやってきた高杉は銀時の剣を受けて気を失った。道場から運び出したのは松陽だが、手当てを施したのは●●だった。
それ以来、勝負を挑みにやってきては負傷する高杉を●●は毎度甲斐甲斐しく世話してやっていた。
こちらに身に覚えのない傷を増やしてくれば、家で折檻されてるんじゃないかな、と心配そうにしていた●●。
道場破りと二人きりにさせるのはよろしくない、という建前でいつもこっそり様子を窺っていた銀時は知っていた。
●●と高杉は余計なことは一切話さなかった。●●は黙々と手当てをし、高杉はそれを黙って見ていた。
時折●●が気遣う言葉をかければ、高杉がそれに短く答えるだけ。
ろくなコミュニケーションをとらずとも、あの時間が二人の距離を近づけたのは傍から見ても明らかだった。
「●●殿か、りんご殿か……。やはりりんご殿と呼んでもいいだろうか。とても可愛らしい呼び名だと思う」
「あ、ありがとう、小太郎くん。呼び捨てでもいいんだよ?」
「いや、それは……」
銀時が過去を振り返っている間に、何故かいい雰囲気になっている少年と少女。
銀時は腕を伸ばすと、照れている●●の頬を両手で挟んで視線を奪い返した。手のひらから伝わる熱は色のとおりだ。
「俺抜きで和気藹々とできるなんて成長したじゃねェか。……なぁ、りんごちゃん?」
「え……」
本来なら喜ばしいことを責めるように言ってしまう。●●は困惑していた。
あだ名で呼び始めた張本人であるはずの銀時がいつの間にか呼ぶことをやめ、本名で呼ぶようになった。
意図してそうなったわけではなかったが、結果的には都合がよかった。まるで宝物を隠すように、できたから。
だが、変化は望むと望まざるとにかかわらず起こるものだ。
桂に無言で一発蹴りを入れた(そして桂の非難をあっさり無視した)高杉が、すっきりした表情を●●に向けた。
「俺も好きに呼ばせてもらうぜ。いいんだろ、●●?」
「あ、うん、晋助くんの好きにしてもらえれば……」
銀時の手のうちにあるというのにまた勝手なことを言って、微塵も気持ちを汲んでくれやしない。
やる気のない顔つきの下でどうしてやろうかと淡々と考えていると、でも、と●●が真っ直ぐな眼差しをした。
「銀ちゃんには、●●って呼んでほしいなあ」
――あ、駄目だ。これ駄目なやつだ絶対。そう悟ったところで逃れようがない。
こんなふうに、●●に何かを望まれたことがあっただろうか。
己が手の中に素直に頬を委ねながら、そんな甘い少女の声で強請られたら。
「●●さん、ちょっといいですか?」
「はい、先生」
銀時だけを見つめていた目はすんなり他所に向き、●●は自然な動作で束縛の手から抜け出していった。
残された銀時は惚けた顔をしながら、きゅっと誰かに鷲掴みにされたような胸に手を当てた。高杉が面白そうに囁いた。
「顔、真っ赤だぞ。単純なヤローだな」
「……ほっとけ」
教室の外から声をかけた松陽に呼ばれ、すぐに傍に寄った●●はしゃんとした背筋で受け答えをしている。
その様子が先生と生徒ではなく別物に映るのはこれで何度目か。今の気分に水を差す想像は控えようと目を逸らす銀時の隣で、
「りんご殿は松陽先生の前だと生徒というより……まるで人妻のようだな」
容赦なく呟いた新入りの塾生には、とりあえず蹴りをお見舞いしておくことにした。