眠りから醒めるまで
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●●という名前はいつの間にか、銀時の付けたりんごというあだ名に吞まれてしまい、本名で呼ぶ者は限られた人間だけになっていた。
松下村塾という学び舎において、●●は違和感なく周囲に溶け込んでいた。というか、溶け込みすぎて逆に存在感がなかった。
他の生徒がグループを作って中や外で遊んでいるときも、自分の定位置である隅の席で書物を読んでいた。
いじめられているわけでも相手にされないわけでもない。あまりにも自然に一人でいるのだ。
それもこれも●●が自己を主張しないせいだ、と銀時は木の上を見上げて思う。
「そんなとこでなにしてんだ」
「えーっと、かくれんぼ……?」
●●は太い枝に腰かけ、落ちないようにしっかり幹にしがみついている。もっと手軽に隠れられる場所がいくらでもあるだろうに。
思ったことをそのまま尋ねると「この世界なら、わたしにもできるんじゃないかなーと思って」と照れる●●。この世界ってどの世界だよ。
ちなみに●●をかくれんぼに誘った子ども達は疾うに解散していて、またそれぞれが別の遊びに興じていた。
銀時の知る限り間々あることだった。まるで思い出したように、りんごちゃん遊びましょーとたまに誘われるたび、断れずに律儀に応じては毎度忘れ去られてしまう。誘ったほうに悪気がないのだからなおさら不憫だ。
自分から積極的に輪に入らないのは、子どもの扱い方がわからないからだという。ガキ同士のくせに何言ってんだか。
「下りられねーんなら最初から登るなよ。むしろよく登れたな。俺が気づかなかったら猿みてェに一生そのままだったんだぞ」
感謝しろよと恩着せがましく言う銀時に、●●は本当に嬉しそうに礼を述べた。そしてその赤い顔のままで言う。
「いつか先生が見つけてくれるかもって……先生に頼ってばかりじゃ駄目だよねえ」
途端に銀時はぶすりと不機嫌になった。先生じゃなくて悪かったなコノヤロー。
このまま放置してやろうかとも思ったが、そうすれば本当に●●の言うとおりになるだろう。それはそれで癪である。
銀時は見上げることに疲れた首をこきりと鳴らしてから、ほらよと両腕を広げた。え?と首を傾げる●●に、
「飛べよ」
「とべ……って、いやいやいや無理無理無理」
「他にどうすんだよ。猫じゃあるめェし、俺が登っても抱えて下りられねーんだから」
「いやでもこれ、ニュースでよくあるやつだよ。飛び降り自殺を図って下にいた人を巻き込むやつ!」
「よくあんのそれ?つーか、こんくらいの高さならイケるって。お前くらい俺がどーんと受け止めてやるって」
「どーんって行ったら駄目でしょ、銀ちゃん死んじゃう……!」
人様の顔面を踏みつけて飛び降りる奴も世の中にはいるというのに。頑として飛び込んでこない。一人で飛び降りて骨折するほうがましだ、とも。
その覚悟があるのなら飛び込んでくればいいのだ。銀時とて●●が怪我をするくらいならクッション代わりになってやる覚悟だってあったのだから。
押し問答を続けていたところに松陽がやってきて、●●は彼に救出されることになった。
あんなにも頑固だった少女は先生の一言ですんなりその腕の中に収まって事なきを得た。
ごめんね、ありがとう。向けられた言葉を無視して背を向けて歩き出す。イライラした。自分と松陽では何が違うというのか。
銀時は足を止めた。己の両手に目を落とせば、年齢のわりに無骨な手のひらがあった。刀を握り慣れた手だ。
しかし、自分と背丈のそう変わらぬ少女を受け止めるには、あまりにも小さく映った。
松下村塾という学び舎において、●●は違和感なく周囲に溶け込んでいた。というか、溶け込みすぎて逆に存在感がなかった。
他の生徒がグループを作って中や外で遊んでいるときも、自分の定位置である隅の席で書物を読んでいた。
いじめられているわけでも相手にされないわけでもない。あまりにも自然に一人でいるのだ。
それもこれも●●が自己を主張しないせいだ、と銀時は木の上を見上げて思う。
「そんなとこでなにしてんだ」
「えーっと、かくれんぼ……?」
●●は太い枝に腰かけ、落ちないようにしっかり幹にしがみついている。もっと手軽に隠れられる場所がいくらでもあるだろうに。
思ったことをそのまま尋ねると「この世界なら、わたしにもできるんじゃないかなーと思って」と照れる●●。この世界ってどの世界だよ。
ちなみに●●をかくれんぼに誘った子ども達は疾うに解散していて、またそれぞれが別の遊びに興じていた。
銀時の知る限り間々あることだった。まるで思い出したように、りんごちゃん遊びましょーとたまに誘われるたび、断れずに律儀に応じては毎度忘れ去られてしまう。誘ったほうに悪気がないのだからなおさら不憫だ。
自分から積極的に輪に入らないのは、子どもの扱い方がわからないからだという。ガキ同士のくせに何言ってんだか。
「下りられねーんなら最初から登るなよ。むしろよく登れたな。俺が気づかなかったら猿みてェに一生そのままだったんだぞ」
感謝しろよと恩着せがましく言う銀時に、●●は本当に嬉しそうに礼を述べた。そしてその赤い顔のままで言う。
「いつか先生が見つけてくれるかもって……先生に頼ってばかりじゃ駄目だよねえ」
途端に銀時はぶすりと不機嫌になった。先生じゃなくて悪かったなコノヤロー。
このまま放置してやろうかとも思ったが、そうすれば本当に●●の言うとおりになるだろう。それはそれで癪である。
銀時は見上げることに疲れた首をこきりと鳴らしてから、ほらよと両腕を広げた。え?と首を傾げる●●に、
「飛べよ」
「とべ……って、いやいやいや無理無理無理」
「他にどうすんだよ。猫じゃあるめェし、俺が登っても抱えて下りられねーんだから」
「いやでもこれ、ニュースでよくあるやつだよ。飛び降り自殺を図って下にいた人を巻き込むやつ!」
「よくあんのそれ?つーか、こんくらいの高さならイケるって。お前くらい俺がどーんと受け止めてやるって」
「どーんって行ったら駄目でしょ、銀ちゃん死んじゃう……!」
人様の顔面を踏みつけて飛び降りる奴も世の中にはいるというのに。頑として飛び込んでこない。一人で飛び降りて骨折するほうがましだ、とも。
その覚悟があるのなら飛び込んでくればいいのだ。銀時とて●●が怪我をするくらいならクッション代わりになってやる覚悟だってあったのだから。
押し問答を続けていたところに松陽がやってきて、●●は彼に救出されることになった。
あんなにも頑固だった少女は先生の一言ですんなりその腕の中に収まって事なきを得た。
ごめんね、ありがとう。向けられた言葉を無視して背を向けて歩き出す。イライラした。自分と松陽では何が違うというのか。
銀時は足を止めた。己の両手に目を落とせば、年齢のわりに無骨な手のひらがあった。刀を握り慣れた手だ。
しかし、自分と背丈のそう変わらぬ少女を受け止めるには、あまりにも小さく映った。