目覚めのデッドエンド
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せっかく手に入れた仮拠点をこんなにも早く手放すことになろうとは。その代わりと言っちゃなんだけど、雨がやむのを待ってうろうろとさまよった結果、始まりの公園を無事に見つけ出すことができた。そして振り出しに戻るわたし。
雨の名残りも消え去ったベンチに座り、また公園生活が始まるのかあ……と青い空を仰ぐ。違うことと言えば手荷物が増えた。タオルと傘。これを返さないことには目を覚ますに覚ませない気がする。
確認済みとはいえ本当に失くしてしまったのかと、いくらか諦め切れない気持ちでポケットに手を突っ込んだ。紙と鍵だってどうやって手に入れたか謎なんだから、もう一回同じことが起こってもおかしくはない。――と、見下ろした先で白い手が腹部から紙を引っ張り出した。もはや見慣れた紙、のはずが。……ちが、う?掴んだのは長方形の紙の束で、表に印刷されているのはお馴染みの野口英世さんだった。千円紙幣、がおよそ十枚。急にお金が湧いた、だと。なんで。住所の紙はどこに行った。じゃあ安室さんの名刺は?と思えば、それはちゃんと残っていた。
いろいろ言いたいことはあれど、これで無一文から脱却できたわけだ。やったぜ。……で、このパーカーは四次元ポケットと呼べばいいのかな?
手元に現金があるかどうかで気の持ちようは大きく変わってくる。降って湧いたそれを素直に喜んで、わたしは借りたタオルの対処に着手することにした。アパートにある洗濯機を使おうと思ってたんだけど、お金も手に入ったことだし、業務用のタオルなら個人で洗濯するよりもクリーニングに出したほうがいいんじゃないか?と考え直した。
あ、ちなみに濡れ鼠のわたし自身はその後の時間経過でさらっさらヘアーの貞子に戻っていた。服も乾いて特に汚れも見当たらない。これは夢であるがゆえのご都合展開というか、特典みたいなものだろう。お風呂に入る手間も洗濯も省けてまさにいいこと尽くめ……だよね?
そんなわけでわたしは晴れ渡る空の下、傘を片手にクリーニング屋さん探しの旅に出た。手がかりもなく歩き回るのはさすがに避けようという気が芽生えて、今度こそ見知らぬ人を頼ることにする。さて、どのモブさんを選ぼう。
試しにそこらを歩いていた外回り中らしいスーツ姿の男性に声をかけてみたんだけど、めちゃくちゃ驚かれてしまい罪悪感が生まれた。結構長い時間口を開きっぱなしにした後、つっかえながらも質問に答えてくれたが近場のクリーニング店は知らないとのこと。残念。男性の寿命を無駄に縮めただけだった。反省しつつ頭を下げて別れた先に、見知った人の姿があったことでわたしも驚かされた。これでおあいこね。相手は違うけど。
「……こんにちは、沖矢さん。この間は送っていただいて、ありがとうございました」
「どういたしまして、●●さん。この間のように名前で呼んではくれないんですね」
――げ。忘れてた。動かないはずの表情が引き攣りそうになる。この人が『コナン』の“沖矢昴”だと気づいたあのときのことを蒸し返されると分が悪い。なんて答えようか焦っていると、神出鬼没の知り合いはわたしの返答を欲することなく早々に話題を変更した。
「ところで……ついさっきまで一緒にいた彼とは、どういったご関係で?」
はい……?彼ってさっきのサラリーマンのこと?どういったもなにも、通行人AとBの関係ですが。質問の意味がわからず道を尋ねていたのだと話すわたしの頭越しに、彼はじっと鋭くなにかを見据えつつ「そうですか」と呟いた。……なんだろ。
気を取り直したように沖矢さんは口元を和らげる。あ、いつもの雰囲気が戻ってきた。
「それで、本日はどちらへ?喜んでお供しますよ」
またそういうこと言うー。なにがなんでも沖矢さんを頼れってか。ていうか中の人、赤井さんもやることがないわけじゃないだろうに。まさかとは思うけどわたしを探して歩き回ってたり……違うよね。ね?
思うところはあるも、悠然と立ちはだかるこの人を倒して(振り切って)先に進めるかと聞かれれば、否。FBIに一般人が立ち向かうなんて無謀すぎる。わたしのこの身体じゃへなちょこすぎてお話にもならない。
「……実は、クリーニング店に行きたいんです」
「ホー。クリーニングですか」
「ある人にタオルをお借りしたので、ふわふわに仕上げてから返したくて」
「ふわふわ、ね。それなら僕が一緒に頼んでおきますよ。ちょうど出そうと考えていた物が家にあるので」
なにが面白かったのかくすりと笑い、人の良さそうな顔をして手のひらを差し出す沖矢さん。そのタオルですよね、って。はい、たしかにそうなんですけど……?すでに役割を終えたタオルは使用済みの状態で変わらずわたしの肩にある。これを彼の手に直に渡せと。いやいや。不衛生だし普通に気持ち悪いだろう。わたしだったらちょっとやだ。相手にもよると思うけどさ。
「今、タオルを入れられる袋を持っていなくて」
「そのままで結構ですよ。ああ、それとも僕に借り物を預ける事は出来ませんか。信用に値しない男だと?」
いやいやいや。なんでそうなる。その顔、わかって言ってるな?
「沖矢さんのことを疑うはずがありません。ただ、本当に申し訳ないだけで」
「ほんのついでですから。……ずっと感じていましたが、●●さんは遠慮が過ぎます。慎み深いのは日本人らしいと言えばそうですが、君の場合は厚かましいくらいでちょうど良いのでは?利用出来る物は利用すべきです。貪欲にね」
クリーニングの話であるはずが意味合いが変わったような……気のせいか。そう思っている間にするりと首から抜き取られて、身体は反応できずに目だけがそれを追う。沖矢さんは躊躇いもなくタオルをしっかり手中におさめてから穏やかな声で言った。
「今から出せば翌日には仕上がると思いますよ。雨に濡れた君に親切にもタオルと傘を貸し与えたその男性には明日返すといい。待ち合わせ場所は●●さんと初めて出会ったあの公園にしましょうか。仕上がったタオルを受け取ってからお迎えに上がりますね」
では、また明日。すらすらと翌日の予定を立てた沖矢さんはだいたいの待ち合わせ時間を告げると、長い足であっという間に立ち去った。わたしはというと、ぽかんと背中を見送るだけで。口を挟む隙もなかった。……物腰は柔らかいけど結構強引だよね、沖矢さんって。中の人の影響かな。これが巷で聞くスパダリってやつ?あれ違う?
彼が今から自宅に戻ってクリーニング店に行くのも、明日車を出してくれるのも全部出会って間もないわたしのためだ。都合の悪いことなんてひとつもない。わたしの行動をまるで逐一見ていたかのように言い当てられるのは、背筋がうっすら寒くなる気持ちだけれども。
(……まあいっか。借りたものは早めに返したかったし、これで)
軽くそう考えたことを後悔するのは、ずばり翌日のことだった。
雨の名残りも消え去ったベンチに座り、また公園生活が始まるのかあ……と青い空を仰ぐ。違うことと言えば手荷物が増えた。タオルと傘。これを返さないことには目を覚ますに覚ませない気がする。
確認済みとはいえ本当に失くしてしまったのかと、いくらか諦め切れない気持ちでポケットに手を突っ込んだ。紙と鍵だってどうやって手に入れたか謎なんだから、もう一回同じことが起こってもおかしくはない。――と、見下ろした先で白い手が腹部から紙を引っ張り出した。もはや見慣れた紙、のはずが。……ちが、う?掴んだのは長方形の紙の束で、表に印刷されているのはお馴染みの野口英世さんだった。千円紙幣、がおよそ十枚。急にお金が湧いた、だと。なんで。住所の紙はどこに行った。じゃあ安室さんの名刺は?と思えば、それはちゃんと残っていた。
いろいろ言いたいことはあれど、これで無一文から脱却できたわけだ。やったぜ。……で、このパーカーは四次元ポケットと呼べばいいのかな?
手元に現金があるかどうかで気の持ちようは大きく変わってくる。降って湧いたそれを素直に喜んで、わたしは借りたタオルの対処に着手することにした。アパートにある洗濯機を使おうと思ってたんだけど、お金も手に入ったことだし、業務用のタオルなら個人で洗濯するよりもクリーニングに出したほうがいいんじゃないか?と考え直した。
あ、ちなみに濡れ鼠のわたし自身はその後の時間経過でさらっさらヘアーの貞子に戻っていた。服も乾いて特に汚れも見当たらない。これは夢であるがゆえのご都合展開というか、特典みたいなものだろう。お風呂に入る手間も洗濯も省けてまさにいいこと尽くめ……だよね?
そんなわけでわたしは晴れ渡る空の下、傘を片手にクリーニング屋さん探しの旅に出た。手がかりもなく歩き回るのはさすがに避けようという気が芽生えて、今度こそ見知らぬ人を頼ることにする。さて、どのモブさんを選ぼう。
試しにそこらを歩いていた外回り中らしいスーツ姿の男性に声をかけてみたんだけど、めちゃくちゃ驚かれてしまい罪悪感が生まれた。結構長い時間口を開きっぱなしにした後、つっかえながらも質問に答えてくれたが近場のクリーニング店は知らないとのこと。残念。男性の寿命を無駄に縮めただけだった。反省しつつ頭を下げて別れた先に、見知った人の姿があったことでわたしも驚かされた。これでおあいこね。相手は違うけど。
「……こんにちは、沖矢さん。この間は送っていただいて、ありがとうございました」
「どういたしまして、●●さん。この間のように名前で呼んではくれないんですね」
――げ。忘れてた。動かないはずの表情が引き攣りそうになる。この人が『コナン』の“沖矢昴”だと気づいたあのときのことを蒸し返されると分が悪い。なんて答えようか焦っていると、神出鬼没の知り合いはわたしの返答を欲することなく早々に話題を変更した。
「ところで……ついさっきまで一緒にいた彼とは、どういったご関係で?」
はい……?彼ってさっきのサラリーマンのこと?どういったもなにも、通行人AとBの関係ですが。質問の意味がわからず道を尋ねていたのだと話すわたしの頭越しに、彼はじっと鋭くなにかを見据えつつ「そうですか」と呟いた。……なんだろ。
気を取り直したように沖矢さんは口元を和らげる。あ、いつもの雰囲気が戻ってきた。
「それで、本日はどちらへ?喜んでお供しますよ」
またそういうこと言うー。なにがなんでも沖矢さんを頼れってか。ていうか中の人、赤井さんもやることがないわけじゃないだろうに。まさかとは思うけどわたしを探して歩き回ってたり……違うよね。ね?
思うところはあるも、悠然と立ちはだかるこの人を倒して(振り切って)先に進めるかと聞かれれば、否。FBIに一般人が立ち向かうなんて無謀すぎる。わたしのこの身体じゃへなちょこすぎてお話にもならない。
「……実は、クリーニング店に行きたいんです」
「ホー。クリーニングですか」
「ある人にタオルをお借りしたので、ふわふわに仕上げてから返したくて」
「ふわふわ、ね。それなら僕が一緒に頼んでおきますよ。ちょうど出そうと考えていた物が家にあるので」
なにが面白かったのかくすりと笑い、人の良さそうな顔をして手のひらを差し出す沖矢さん。そのタオルですよね、って。はい、たしかにそうなんですけど……?すでに役割を終えたタオルは使用済みの状態で変わらずわたしの肩にある。これを彼の手に直に渡せと。いやいや。不衛生だし普通に気持ち悪いだろう。わたしだったらちょっとやだ。相手にもよると思うけどさ。
「今、タオルを入れられる袋を持っていなくて」
「そのままで結構ですよ。ああ、それとも僕に借り物を預ける事は出来ませんか。信用に値しない男だと?」
いやいやいや。なんでそうなる。その顔、わかって言ってるな?
「沖矢さんのことを疑うはずがありません。ただ、本当に申し訳ないだけで」
「ほんのついでですから。……ずっと感じていましたが、●●さんは遠慮が過ぎます。慎み深いのは日本人らしいと言えばそうですが、君の場合は厚かましいくらいでちょうど良いのでは?利用出来る物は利用すべきです。貪欲にね」
クリーニングの話であるはずが意味合いが変わったような……気のせいか。そう思っている間にするりと首から抜き取られて、身体は反応できずに目だけがそれを追う。沖矢さんは躊躇いもなくタオルをしっかり手中におさめてから穏やかな声で言った。
「今から出せば翌日には仕上がると思いますよ。雨に濡れた君に親切にもタオルと傘を貸し与えたその男性には明日返すといい。待ち合わせ場所は●●さんと初めて出会ったあの公園にしましょうか。仕上がったタオルを受け取ってからお迎えに上がりますね」
では、また明日。すらすらと翌日の予定を立てた沖矢さんはだいたいの待ち合わせ時間を告げると、長い足であっという間に立ち去った。わたしはというと、ぽかんと背中を見送るだけで。口を挟む隙もなかった。……物腰は柔らかいけど結構強引だよね、沖矢さんって。中の人の影響かな。これが巷で聞くスパダリってやつ?あれ違う?
彼が今から自宅に戻ってクリーニング店に行くのも、明日車を出してくれるのも全部出会って間もないわたしのためだ。都合の悪いことなんてひとつもない。わたしの行動をまるで逐一見ていたかのように言い当てられるのは、背筋がうっすら寒くなる気持ちだけれども。
(……まあいっか。借りたものは早めに返したかったし、これで)
軽くそう考えたことを後悔するのは、ずばり翌日のことだった。