愛され少女の日常
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「お迎えなんてやってられっか。ほんとマジでありえねぇ」
「そんなこと言っちゃって。本当は優ちゃんと二人きりになれて嬉しいくせに」
「んなわけあるか。あのチビ、予想外の動きばっかするから大変なんだよ」
苦虫を潰したかのような顔をした悟を横目に硝子は良い気味だとクツクツと愉快そうに喉を鳴らした。
事の発端は、傑に今日このあと暇かと突然尋ねられたことだった。特に予定もなかった彼は、すんなりと頷いた。
が、それが間違いだったのだ。
彼が頷くや否や、傑は心底嬉しそうに笑顔を浮かべると、「実は急な任務が入っちゃってさ。優のお迎え、任せたよ」と肩にポンと手を置くなり、教室を出て行ってしまった。
(あの野郎、ハメやがったな)
騙した親友と疑うことなく頷いてしまった自分を心底恨みながらも、優を迎えにやって来た。
白髪にサングラス。190を越える背の高さを持つ彼は目立つ目立つ。園児たちはもちろん、保育士たちも釘付け。特に女児や女性保育士たちはサングラス越しでもわかる美貌に黄色い歓声を上げては興奮している。
「あ、さとるくん!」
熱い視線を集める中、彼の存在に気がついた優が一目散に駆けてくる。
「優ちゃんの大好きなおにーちゃんは任務があるから来れませーん。代わりにさとるくんがお迎えでーす」
「そうなんだ……」
「んだよ、その顔。文句あんのか」
ポケットに手を突っ込んだまま、優を見下ろす。
普通の子なら怯んでしまうだろう。泣き出してしまうだろう。今からちょうど一年前、出会ったばかりの優もそうだった。
しかし、月日というものは不思議なもので、今では怖がるどころか笑顔を浮かべている。
「ううん。そんなことないよ、すっごく嬉しい!」
「は?」
「だって、いっぱいおしゃべりできるなーって!」
「たくさんお話ししようね!」とポカポカと笑いながら、優は自分よりもひとまわり、ふたまわりも大きな彼の手を握ると、お家へ出発ー!と拳をグーにして上げる。
(いちいち大袈裟なヤツ)
そう内心で思いながらも、小さな彼女の愛らしい仕草に自然と口角は上がっていく。
優は嬉しそうにご機嫌な様子で歌を歌っては、その途中途中で今日あった出来事を話していく。
今日は折り紙を折った。みんなで大縄跳びをした。給食で大好きなデザートが出た。そんな他愛のない話に彼もまた相槌を打つ。
「それでね、今度はもう一回やろうってなって……あ!」
何を思い立ったのか、突然、あれほど強く繋いでいた手をするりと自ら離すと、商店街のゲートへと駆けていく。
「おい、ちょ、待て!どこ行きやがる!」
と、咄嗟に呼び止めるが効果はなし。急いで小さくなっていく背中を追う。
子供というのは常に予測不可能な生き物だ。何を考えているのか、何をするのかわからない。検討がつかない。
特に優に関してはその傾向がかなり高い。普段は大人しくちょこんと座っていてくれるのだが、何か少しでも彼女の興味を惹くようなものがあればこうだ。
そう。まさに彼はこうなることを恐れていたのだ。
「あのチビ……シカトしやがって」
軽く舌打ちしながら、その後を追っていくと、小さな雑貨屋に辿り着いた。
肝心な優はというとサングラスやら伊達メガネやらが飾られた棚をクルクルと回しながら、歓喜の声を上げている。興味の的は回転式の棚だったようだ。
「勝手にあちこち行くな。少しは子守してるこっちの身にもなってみろ」
「ごめんなさい……あ、このサングラス、さとるくんのとそっくり!」
「お前なあ……」
聞く耳持たず。馬に念仏といった様子にお手上げ状態。
好奇心の化身の前では何を言っても通じない。他の子供もそうなのだろうか。
はあ、と彼が深いため息をつく一方で優はサングラスを手を伸ばす。そして、掛けるなり、くるりと振り向いた。
「見て見て!さとるくんとおそろーい!」
ぴょこぴょこと彼の周りを飛び跳ねながら、屈託のない笑顔をサングラス越しから覗かせる。
サイズも合っておらず、ブカブカ。今にも落っこちてしまいそうなサングラスを掛けたまま彼の腰にギュッと抱きつき、へにゃりと満足気に笑う。
「お揃いだよ!お揃い!似合ってるー?」
「あー、うん。まぁ……、似合ってんじゃねーの」
「本当?!やったー!」
褒めてもらい、さらに上機嫌になる優。
感情のまま素直に体現する姿に「おおげさだっつーの」とツンとした口ぶりで言いながらも、その表情はやはり蕩けていた。
初めて会った頃は、顔も合わせてくれやしなかったのに今となってはどうだ。仔犬のようにちょこまかとついて回っては、愛くるしい笑顔を見せてくれる。
ぎこちなく辿々しい口調や少しぐぐもった鼻に詰まった声。バランスがうまく取れない身体でフラつきながらも懸命について走る姿。
その全てが愛らしくて仕方がないことを彼はしみじみと実感した。
言動こそは三人の中でも素っ気なかったり、意地の悪いことをしたりするものの、ただ素直になれないだけ。実際には完全に骨抜きにされている。
「何。それが欲しいの?」
「うーん、欲しいけどいいや。お誕生日でもなんでもないんだし」
「散々振り回しておきながら、なに急に大人ぶってんだよ。欲しいんだろ?」
「うん……。でも、さとるくんに買ってもらったって知ったら、おにいちゃん怒らないかな」
「あーもう、わかったよ、傑には黙っててやるから。安心しろ」
(まあ、アイツがこんなことで怒るとは思えないけど)
「ふふふ。さとるくんとおそろい、嬉しいなぁ」
買ってもらったサングラスを掛け、笑顔を向ける優の顔は夕日に照らされ、茜色に染め上がっていた。
「大事にしろよ。特別に買ってやったんだから」
「うん!ありがとう!さとるくんと会うときは掛けていくね!」
「いや、それだと傑に即バレるだろ」
「あ、じゃあ、おにいちゃんがいなくなったら掛けて、おにいちゃんが来たら隠す!」
それなら大丈夫でしょ?と自信満々に胸を張る優。そんな姿に稚拙な考えだと思いながらも、同時に彼女の純粋さに触れた。
「いいんじゃねーの」
西の空に溶けていく、太陽を見つめながら、柔く笑った。
「そんなこと言っちゃって。本当は優ちゃんと二人きりになれて嬉しいくせに」
「んなわけあるか。あのチビ、予想外の動きばっかするから大変なんだよ」
苦虫を潰したかのような顔をした悟を横目に硝子は良い気味だとクツクツと愉快そうに喉を鳴らした。
事の発端は、傑に今日このあと暇かと突然尋ねられたことだった。特に予定もなかった彼は、すんなりと頷いた。
が、それが間違いだったのだ。
彼が頷くや否や、傑は心底嬉しそうに笑顔を浮かべると、「実は急な任務が入っちゃってさ。優のお迎え、任せたよ」と肩にポンと手を置くなり、教室を出て行ってしまった。
(あの野郎、ハメやがったな)
騙した親友と疑うことなく頷いてしまった自分を心底恨みながらも、優を迎えにやって来た。
白髪にサングラス。190を越える背の高さを持つ彼は目立つ目立つ。園児たちはもちろん、保育士たちも釘付け。特に女児や女性保育士たちはサングラス越しでもわかる美貌に黄色い歓声を上げては興奮している。
「あ、さとるくん!」
熱い視線を集める中、彼の存在に気がついた優が一目散に駆けてくる。
「優ちゃんの大好きなおにーちゃんは任務があるから来れませーん。代わりにさとるくんがお迎えでーす」
「そうなんだ……」
「んだよ、その顔。文句あんのか」
ポケットに手を突っ込んだまま、優を見下ろす。
普通の子なら怯んでしまうだろう。泣き出してしまうだろう。今からちょうど一年前、出会ったばかりの優もそうだった。
しかし、月日というものは不思議なもので、今では怖がるどころか笑顔を浮かべている。
「ううん。そんなことないよ、すっごく嬉しい!」
「は?」
「だって、いっぱいおしゃべりできるなーって!」
「たくさんお話ししようね!」とポカポカと笑いながら、優は自分よりもひとまわり、ふたまわりも大きな彼の手を握ると、お家へ出発ー!と拳をグーにして上げる。
(いちいち大袈裟なヤツ)
そう内心で思いながらも、小さな彼女の愛らしい仕草に自然と口角は上がっていく。
優は嬉しそうにご機嫌な様子で歌を歌っては、その途中途中で今日あった出来事を話していく。
今日は折り紙を折った。みんなで大縄跳びをした。給食で大好きなデザートが出た。そんな他愛のない話に彼もまた相槌を打つ。
「それでね、今度はもう一回やろうってなって……あ!」
何を思い立ったのか、突然、あれほど強く繋いでいた手をするりと自ら離すと、商店街のゲートへと駆けていく。
「おい、ちょ、待て!どこ行きやがる!」
と、咄嗟に呼び止めるが効果はなし。急いで小さくなっていく背中を追う。
子供というのは常に予測不可能な生き物だ。何を考えているのか、何をするのかわからない。検討がつかない。
特に優に関してはその傾向がかなり高い。普段は大人しくちょこんと座っていてくれるのだが、何か少しでも彼女の興味を惹くようなものがあればこうだ。
そう。まさに彼はこうなることを恐れていたのだ。
「あのチビ……シカトしやがって」
軽く舌打ちしながら、その後を追っていくと、小さな雑貨屋に辿り着いた。
肝心な優はというとサングラスやら伊達メガネやらが飾られた棚をクルクルと回しながら、歓喜の声を上げている。興味の的は回転式の棚だったようだ。
「勝手にあちこち行くな。少しは子守してるこっちの身にもなってみろ」
「ごめんなさい……あ、このサングラス、さとるくんのとそっくり!」
「お前なあ……」
聞く耳持たず。馬に念仏といった様子にお手上げ状態。
好奇心の化身の前では何を言っても通じない。他の子供もそうなのだろうか。
はあ、と彼が深いため息をつく一方で優はサングラスを手を伸ばす。そして、掛けるなり、くるりと振り向いた。
「見て見て!さとるくんとおそろーい!」
ぴょこぴょこと彼の周りを飛び跳ねながら、屈託のない笑顔をサングラス越しから覗かせる。
サイズも合っておらず、ブカブカ。今にも落っこちてしまいそうなサングラスを掛けたまま彼の腰にギュッと抱きつき、へにゃりと満足気に笑う。
「お揃いだよ!お揃い!似合ってるー?」
「あー、うん。まぁ……、似合ってんじゃねーの」
「本当?!やったー!」
褒めてもらい、さらに上機嫌になる優。
感情のまま素直に体現する姿に「おおげさだっつーの」とツンとした口ぶりで言いながらも、その表情はやはり蕩けていた。
初めて会った頃は、顔も合わせてくれやしなかったのに今となってはどうだ。仔犬のようにちょこまかとついて回っては、愛くるしい笑顔を見せてくれる。
ぎこちなく辿々しい口調や少しぐぐもった鼻に詰まった声。バランスがうまく取れない身体でフラつきながらも懸命について走る姿。
その全てが愛らしくて仕方がないことを彼はしみじみと実感した。
言動こそは三人の中でも素っ気なかったり、意地の悪いことをしたりするものの、ただ素直になれないだけ。実際には完全に骨抜きにされている。
「何。それが欲しいの?」
「うーん、欲しいけどいいや。お誕生日でもなんでもないんだし」
「散々振り回しておきながら、なに急に大人ぶってんだよ。欲しいんだろ?」
「うん……。でも、さとるくんに買ってもらったって知ったら、おにいちゃん怒らないかな」
「あーもう、わかったよ、傑には黙っててやるから。安心しろ」
(まあ、アイツがこんなことで怒るとは思えないけど)
「ふふふ。さとるくんとおそろい、嬉しいなぁ」
買ってもらったサングラスを掛け、笑顔を向ける優の顔は夕日に照らされ、茜色に染め上がっていた。
「大事にしろよ。特別に買ってやったんだから」
「うん!ありがとう!さとるくんと会うときは掛けていくね!」
「いや、それだと傑に即バレるだろ」
「あ、じゃあ、おにいちゃんがいなくなったら掛けて、おにいちゃんが来たら隠す!」
それなら大丈夫でしょ?と自信満々に胸を張る優。そんな姿に稚拙な考えだと思いながらも、同時に彼女の純粋さに触れた。
「いいんじゃねーの」
西の空に溶けていく、太陽を見つめながら、柔く笑った。
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