愛され少女の日常
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駄菓子屋に着くと、店主のおばあさんがニコニコとした笑顔で出迎えてくれた。かなりお年を召しているはずなのに、背筋は曲がることなく、機敏な動作で品出しをしている。
そんなんだからか、小学生の頃、駄菓子屋のおばあさんが妖怪なのではないかという噂が立ったことがあったっけ。
軽く挨拶をし、奥へ進んでいくと、ランドセルを背負った女の子三人組が、アイドルのプロマイドくじ引きの前に群がっている。何やら好きなアイドルのメンバーのプロマイドを狙っているようだ。
「うーん。やっぱり小野くんは出ないだろうし、やめておくよ……」
「何言ってんの!朝の星占い一位だったんでしょ?」
「そうだけど……」
「なら今引かなくちゃ。しかも、運命的な出会いがある一日!これはもう、小野くんとしか言いようがないよ」
「もう、違うって!小野くんはそんなんじゃないから!」
「またまた~」
「照れ屋さんなんだから」
優もいつか、あんな風に友達とやりとりをする日が来ると思うと、楽しみのような、少し寂しいような。
微笑ましい光景を眺めていると、[#dc=1#]に声をかけられる。手には小さな買い物カゴ。だが、中身は何も入っていない。
「はい、おにいちゃん。好きなもの何でも入れていーよ」
小さな手でカゴを握らせてきた。
どういうことなのか状況が理解できず、思わず、へ?と声を漏らしてしまう。きっと、今の自分の顔はひどく間の抜けた顔をしているに違いない。
唐突すぎる出来事にあっけらかんとしていると、さらに追い討ちをかけるかのように優が口を開く。
「今日はわたしがおにいちゃんにお菓子を買ってあげる日!好きなもの、なーんでもいいよ!」
「優、お金持っていないんじゃ」
「だいじょうぶ!お金持ってきたから!お手伝いして貯めたの!」
自信ありげにカバンから膨れ上がったガマ財布を取り出し、振ってみせる。中で小銭がジャリジャリと擦れ合う音がした。
だからか。さっき電話で母が優がここ最近手伝いをしてくれるようになったと言っていたのは。だけど、一体何故……。
「わたしね、見てたんだ。任務から帰ってきた後、おにいちゃんが、みんながいないところで、苦しそうな顔してるのを。だからね、お菓子を食べて元気になってほしいなって」
たくさん食べて元気になってね、と[#dc=1#]にしては、少し落ち着いた、穏やかな声で言う。
もう何も言葉が出てこなかった。いつもならすぐに返事をしてあげられるのに。その返事を考えることすら、放棄してしまうほどまでに、優がいたいげで愛おしくて仕方がなかった。
そして何よりも、誰にも悟られぬように隠し続けていた事実を[#dc=1#]が知っていたこと。
吐瀉物を処理した雑巾のような、想像するだけで悍ましい味のする呪霊を祓っては取り込んで祓っては取り込んでの繰り返し。
自分だけが知っている、誰も知らない呪霊の味。数をこなしていけばいつかは慣れると、そう自分に言い聞かせていたが、慣れる日が来ることは一度もなかった。
誰にも理解してもらえない。理解できるはずがない。
孤独と苦しみの渦中で不意に掛けられた優の言葉は菩薩の手のようで、温かくて、真っ直ぐに心の奥底へと染みていく。
「……ねえ、ねえってば。おにいちゃん?どうしたの?」
「ああ、ごめんね。ちょっとぼうっとしてしまっていたよ。そっか。今日は[#dc=1#]が買ってくれるんだね」
「えへへ。おにいちゃんが好きなもの何でもいいよ」
照れ臭そうにはにかんでは、好きなものをカゴに入れるように促してくる。
急かされるように押し付けられるカゴを受け取り、優の熱い視線を受けながら、駄菓子を選んでいく。
「え、これ、いつもわたしが買ってもらっているお菓子……」
カゴに入れた駄菓子を見るなり、言葉を詰まらせる。
「優も好きだろう?これなら、一緒に食べれるかなって」
「わたしのはいらないよ。おにいちゃんが好きなものだけでいいのに」
「ありがとう。実はおにいちゃんもこれ好きなんだよ。それに、一人で全部食べるよりも、優と一緒に食べたいな」
しゃがみ込み、優に目線を合わせる。
優は少し困った様子で、眉毛を八の字にしては、スカートの裾を握りしめている。
「じゃあ、優は、夜ごはんを食べるとき、一人で食べるか家族みんなで食べるのとでは、どっちが美味しいって感じる?」
「みんなで食べるとき」
「それと一緒だよ」
「一緒……」
そう呟くと優は口元に手を当てて、少し考えてから、何も言わずにコクリと頷いた。
そしてカゴを店主のおばあさんのところへ持って行くと、小さな指で財布から小銭を一枚ずつ出していく。落とさないように慎重に摘んでいく手はふるふる震えており、微笑ましい。
会計を終わらせ、こちらへ戻って来るなり、半分に割った煎餅の片割れを渡してきた。
「半分こ。これで食べてくれる……?」
受け取ってくれるのか受け取ってくれないのか。どっちなのか。そんな不安を携えた瞳で見上げてくる。
「ははっ、もちろんだよ。どうもありがとう」
本人には申し訳ないが、そんな姿が面白くて、つい笑ってしまう。差し伸ばされた小さな手から受け取るや否や、優の笑顔に花咲いた。
「やった!おにいちゃんに食べてもらえた!まだまだいっぱいあるからね!」
「それは嬉しいなあ。でも、あまり食べすぎると夜ごはんが食べられなくなっちゃうからね、ほどほどにしないとね」
「はーい!」
元気よく返事をし、ぴょこぴょこと喜び跳ねる。
こんな何気ない日常がこの先もずっと続いてほしいとそう願いながら、右手に絡みつく小さな手を握り返し、すっかり茜色になった帰り道を歩んで行った。
そんなんだからか、小学生の頃、駄菓子屋のおばあさんが妖怪なのではないかという噂が立ったことがあったっけ。
軽く挨拶をし、奥へ進んでいくと、ランドセルを背負った女の子三人組が、アイドルのプロマイドくじ引きの前に群がっている。何やら好きなアイドルのメンバーのプロマイドを狙っているようだ。
「うーん。やっぱり小野くんは出ないだろうし、やめておくよ……」
「何言ってんの!朝の星占い一位だったんでしょ?」
「そうだけど……」
「なら今引かなくちゃ。しかも、運命的な出会いがある一日!これはもう、小野くんとしか言いようがないよ」
「もう、違うって!小野くんはそんなんじゃないから!」
「またまた~」
「照れ屋さんなんだから」
優もいつか、あんな風に友達とやりとりをする日が来ると思うと、楽しみのような、少し寂しいような。
微笑ましい光景を眺めていると、[#dc=1#]に声をかけられる。手には小さな買い物カゴ。だが、中身は何も入っていない。
「はい、おにいちゃん。好きなもの何でも入れていーよ」
小さな手でカゴを握らせてきた。
どういうことなのか状況が理解できず、思わず、へ?と声を漏らしてしまう。きっと、今の自分の顔はひどく間の抜けた顔をしているに違いない。
唐突すぎる出来事にあっけらかんとしていると、さらに追い討ちをかけるかのように優が口を開く。
「今日はわたしがおにいちゃんにお菓子を買ってあげる日!好きなもの、なーんでもいいよ!」
「優、お金持っていないんじゃ」
「だいじょうぶ!お金持ってきたから!お手伝いして貯めたの!」
自信ありげにカバンから膨れ上がったガマ財布を取り出し、振ってみせる。中で小銭がジャリジャリと擦れ合う音がした。
だからか。さっき電話で母が優がここ最近手伝いをしてくれるようになったと言っていたのは。だけど、一体何故……。
「わたしね、見てたんだ。任務から帰ってきた後、おにいちゃんが、みんながいないところで、苦しそうな顔してるのを。だからね、お菓子を食べて元気になってほしいなって」
たくさん食べて元気になってね、と[#dc=1#]にしては、少し落ち着いた、穏やかな声で言う。
もう何も言葉が出てこなかった。いつもならすぐに返事をしてあげられるのに。その返事を考えることすら、放棄してしまうほどまでに、優がいたいげで愛おしくて仕方がなかった。
そして何よりも、誰にも悟られぬように隠し続けていた事実を[#dc=1#]が知っていたこと。
吐瀉物を処理した雑巾のような、想像するだけで悍ましい味のする呪霊を祓っては取り込んで祓っては取り込んでの繰り返し。
自分だけが知っている、誰も知らない呪霊の味。数をこなしていけばいつかは慣れると、そう自分に言い聞かせていたが、慣れる日が来ることは一度もなかった。
誰にも理解してもらえない。理解できるはずがない。
孤独と苦しみの渦中で不意に掛けられた優の言葉は菩薩の手のようで、温かくて、真っ直ぐに心の奥底へと染みていく。
「……ねえ、ねえってば。おにいちゃん?どうしたの?」
「ああ、ごめんね。ちょっとぼうっとしてしまっていたよ。そっか。今日は[#dc=1#]が買ってくれるんだね」
「えへへ。おにいちゃんが好きなもの何でもいいよ」
照れ臭そうにはにかんでは、好きなものをカゴに入れるように促してくる。
急かされるように押し付けられるカゴを受け取り、優の熱い視線を受けながら、駄菓子を選んでいく。
「え、これ、いつもわたしが買ってもらっているお菓子……」
カゴに入れた駄菓子を見るなり、言葉を詰まらせる。
「優も好きだろう?これなら、一緒に食べれるかなって」
「わたしのはいらないよ。おにいちゃんが好きなものだけでいいのに」
「ありがとう。実はおにいちゃんもこれ好きなんだよ。それに、一人で全部食べるよりも、優と一緒に食べたいな」
しゃがみ込み、優に目線を合わせる。
優は少し困った様子で、眉毛を八の字にしては、スカートの裾を握りしめている。
「じゃあ、優は、夜ごはんを食べるとき、一人で食べるか家族みんなで食べるのとでは、どっちが美味しいって感じる?」
「みんなで食べるとき」
「それと一緒だよ」
「一緒……」
そう呟くと優は口元に手を当てて、少し考えてから、何も言わずにコクリと頷いた。
そしてカゴを店主のおばあさんのところへ持って行くと、小さな指で財布から小銭を一枚ずつ出していく。落とさないように慎重に摘んでいく手はふるふる震えており、微笑ましい。
会計を終わらせ、こちらへ戻って来るなり、半分に割った煎餅の片割れを渡してきた。
「半分こ。これで食べてくれる……?」
受け取ってくれるのか受け取ってくれないのか。どっちなのか。そんな不安を携えた瞳で見上げてくる。
「ははっ、もちろんだよ。どうもありがとう」
本人には申し訳ないが、そんな姿が面白くて、つい笑ってしまう。差し伸ばされた小さな手から受け取るや否や、優の笑顔に花咲いた。
「やった!おにいちゃんに食べてもらえた!まだまだいっぱいあるからね!」
「それは嬉しいなあ。でも、あまり食べすぎると夜ごはんが食べられなくなっちゃうからね、ほどほどにしないとね」
「はーい!」
元気よく返事をし、ぴょこぴょこと喜び跳ねる。
こんな何気ない日常がこの先もずっと続いてほしいとそう願いながら、右手に絡みつく小さな手を握り返し、すっかり茜色になった帰り道を歩んで行った。