愛され少女の日常
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「思っていた以上に早く片付いてしまったな」
郊外の街の一角に降ろされた帳。
その帳の中にある薄暗い廃れた雑居ビルの中で傑は、ぽつり独り言をこぼし、ふう、と肩の力を抜いた。
いつもは悟と二人で任務を任されることがほとんどだったせいか、単独の任務はなんだか少し妙な感じがしてならない。それはともかく、予定していた時間よりも早めに終わったんだ。さっさと出るとしよう。
この後の予定は任務も授業も入っていない。だからといって、特に寄り道をする気分でもないから、このまま高専に戻ろうかと思った矢先、ポケットにしまっておいた携帯が目を覚ますように鳴り響いた。
「あ、傑?ごめんね、ちょっといま時間ある?」
電波越しから聞こえてきたのは久しく聞いていない母の声だった。
「ああ、うん。大丈夫だけど。どうかした?」
「実はついさっきパート先から召集がかかっちゃって。それがすぐには終わらないみたいなのよ。父さんに頼もうにも出張だし。だから、優のお迎えがうんと遅くなりそうなの」
徐々に声のトーンが小さくなっていく。
「あのね、そこでちょっとお願いしたいんだけど、私の代わりに優のお迎え行ってくれないかしら?あ、学校の用事があるっていうのであれば、そっち優先してもらって―――」
「全然いいよ、お迎えくらい。ちょうど今任務で近くに来ているし。なんなら、母さんが帰ってくるまで、優の面倒見ておくから、安心して」
「本当?ごめんね、ありがとう。今度帰省したときには何かたーんとお礼しなきゃね」
「そんなことしなくたっていいよ。母さんこそ頑張るのはいいけど、無理は禁物だよ?倒れたりなんかしたら、みんなに心配かけるんだから」
「もう、相変わらず心配性なんだから、アンタって子は」
誰に似たのかしらと笑う母。一言二言、言葉を交わし、電話を切った。
ひさびさに聞く母の声は懐かしく、何よりも落ち着いた。
任務終わりで帰宅した寮の自室に向かって、ただいまと言っても、(当たり前だが)笑顔と共におかえりと出迎えてくれる人がいないことに、ほんの少し物寂しさを覚える時がある。慣れたと思っていたけど、度々なんとも言えない虚無感がぐわっとやってくるのだ。
生まれた時から毎日聞いていた声なのに、入学と同時に寮生活をするようになってから、いかにその存在が大きなものだったのかと。母の偉大さに気がついた。
「……今度の連休にでも帰るか」
◆◇◆
「あ、おにいちゃん!」
ついさっきまで絵本に夢中だった[#dc=1#]がこちらの存在に気がつくなり、本を持ったまま元気よく走って来た。
「おかえり。どんな本を読んでいたんだい?」
「はらぺこあおむし!」
と、笑顔で優が見せる本の表紙にはカラフルな大きなイモムシが。一度見たら忘れない目の映えるイモムシの姿に、食べ過ぎで腹を壊す未来が見えた。
懐かしいな。自分も子供の頃に読んだ記憶がある。今でもまだ読まれているんだ。
「あれ、ママはー?」
「母さんは急に仕事が入っちゃって、帰るのが遅くなるんだって。だから、お兄ちゃんが代わりに迎えにきた」
「そうだったんだ。ママ、お仕事頑張って、えらいね」
「うん。だから、今日は帰ったら、洗濯畳みと風呂掃除。晩御飯を作っておこうと思うんだ。仕事で疲れた母さんが楽できるようにね。優も手伝ってくれるかな?」
「もちろん!手伝うよ!」
どうだと誇らしげに胸を張る姿は、いたいけで愛くるしいという言葉以外何も見つからない。真面目な話、毎日、この子のそばにいてやれたらどれほど良いことかと思う。
悟や硝子からはやれシスコンだのセコムだと口を揃えて言われるが、逆にこれほどまでに可愛らしい子を放って置けるだろうか?いや、そんなこと誰もできるはずない。
手を繋いで家へと続く道を歩いていく。道中、他愛のない話をしては笑っていたが、河原の堤防沿いに差し掛かった頃、突然[#dc=1#]がぴたりと話すのをやめた。そして、どこか気まずそうにソワソワしては落ち着きのない様子を見せ始めた。
さっきまであんなに嬉しそうに保育園での出来事を話していたのに。
どうかしたのかと尋ねれば、優は小さな声でぽつりと口を開いた。
「おにいちゃん。駄菓子屋さん行きたい」
「駄菓子屋さん?ああ、小学校前の?なら、今から引き返そうか」
「あ、ううん。家に帰ってからでいい!」
「え、でも」
「カバン!この前、ママに作ってもらったカバンを持って行きたいの!」
お願い!と大きな瞳でこちらを見上げてくる。
優にしては随分と頑固だ。そんなにお気に入りのカバンなのだろうか。まあ、だが、ここまで必死に頼まれてしまったなら仕方ない。特に都合が悪いわけでもないし。家に一旦帰って、優の準備ができる間、洗濯物を取り込んで、畳んでおこう。
郊外の街の一角に降ろされた帳。
その帳の中にある薄暗い廃れた雑居ビルの中で傑は、ぽつり独り言をこぼし、ふう、と肩の力を抜いた。
いつもは悟と二人で任務を任されることがほとんどだったせいか、単独の任務はなんだか少し妙な感じがしてならない。それはともかく、予定していた時間よりも早めに終わったんだ。さっさと出るとしよう。
この後の予定は任務も授業も入っていない。だからといって、特に寄り道をする気分でもないから、このまま高専に戻ろうかと思った矢先、ポケットにしまっておいた携帯が目を覚ますように鳴り響いた。
「あ、傑?ごめんね、ちょっといま時間ある?」
電波越しから聞こえてきたのは久しく聞いていない母の声だった。
「ああ、うん。大丈夫だけど。どうかした?」
「実はついさっきパート先から召集がかかっちゃって。それがすぐには終わらないみたいなのよ。父さんに頼もうにも出張だし。だから、優のお迎えがうんと遅くなりそうなの」
徐々に声のトーンが小さくなっていく。
「あのね、そこでちょっとお願いしたいんだけど、私の代わりに優のお迎え行ってくれないかしら?あ、学校の用事があるっていうのであれば、そっち優先してもらって―――」
「全然いいよ、お迎えくらい。ちょうど今任務で近くに来ているし。なんなら、母さんが帰ってくるまで、優の面倒見ておくから、安心して」
「本当?ごめんね、ありがとう。今度帰省したときには何かたーんとお礼しなきゃね」
「そんなことしなくたっていいよ。母さんこそ頑張るのはいいけど、無理は禁物だよ?倒れたりなんかしたら、みんなに心配かけるんだから」
「もう、相変わらず心配性なんだから、アンタって子は」
誰に似たのかしらと笑う母。一言二言、言葉を交わし、電話を切った。
ひさびさに聞く母の声は懐かしく、何よりも落ち着いた。
任務終わりで帰宅した寮の自室に向かって、ただいまと言っても、(当たり前だが)笑顔と共におかえりと出迎えてくれる人がいないことに、ほんの少し物寂しさを覚える時がある。慣れたと思っていたけど、度々なんとも言えない虚無感がぐわっとやってくるのだ。
生まれた時から毎日聞いていた声なのに、入学と同時に寮生活をするようになってから、いかにその存在が大きなものだったのかと。母の偉大さに気がついた。
「……今度の連休にでも帰るか」
◆◇◆
「あ、おにいちゃん!」
ついさっきまで絵本に夢中だった[#dc=1#]がこちらの存在に気がつくなり、本を持ったまま元気よく走って来た。
「おかえり。どんな本を読んでいたんだい?」
「はらぺこあおむし!」
と、笑顔で優が見せる本の表紙にはカラフルな大きなイモムシが。一度見たら忘れない目の映えるイモムシの姿に、食べ過ぎで腹を壊す未来が見えた。
懐かしいな。自分も子供の頃に読んだ記憶がある。今でもまだ読まれているんだ。
「あれ、ママはー?」
「母さんは急に仕事が入っちゃって、帰るのが遅くなるんだって。だから、お兄ちゃんが代わりに迎えにきた」
「そうだったんだ。ママ、お仕事頑張って、えらいね」
「うん。だから、今日は帰ったら、洗濯畳みと風呂掃除。晩御飯を作っておこうと思うんだ。仕事で疲れた母さんが楽できるようにね。優も手伝ってくれるかな?」
「もちろん!手伝うよ!」
どうだと誇らしげに胸を張る姿は、いたいけで愛くるしいという言葉以外何も見つからない。真面目な話、毎日、この子のそばにいてやれたらどれほど良いことかと思う。
悟や硝子からはやれシスコンだのセコムだと口を揃えて言われるが、逆にこれほどまでに可愛らしい子を放って置けるだろうか?いや、そんなこと誰もできるはずない。
手を繋いで家へと続く道を歩いていく。道中、他愛のない話をしては笑っていたが、河原の堤防沿いに差し掛かった頃、突然[#dc=1#]がぴたりと話すのをやめた。そして、どこか気まずそうにソワソワしては落ち着きのない様子を見せ始めた。
さっきまであんなに嬉しそうに保育園での出来事を話していたのに。
どうかしたのかと尋ねれば、優は小さな声でぽつりと口を開いた。
「おにいちゃん。駄菓子屋さん行きたい」
「駄菓子屋さん?ああ、小学校前の?なら、今から引き返そうか」
「あ、ううん。家に帰ってからでいい!」
「え、でも」
「カバン!この前、ママに作ってもらったカバンを持って行きたいの!」
お願い!と大きな瞳でこちらを見上げてくる。
優にしては随分と頑固だ。そんなにお気に入りのカバンなのだろうか。まあ、だが、ここまで必死に頼まれてしまったなら仕方ない。特に都合が悪いわけでもないし。家に一旦帰って、優の準備ができる間、洗濯物を取り込んで、畳んでおこう。