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「ああ、ヤバいな。思っていた以上に遅くなっちゃった」
急ぎ足で歩きながら、携帯の画面を開く。
これじゃあ、九時半からの特番に間に合わない。
長引いてしまったシフト。本来なら、八時には帰れる予定だったのだけど、金曜日ってこともあり、店の中はお客さんでごった返していた。
『櫛田ちゃん、ほんと悪いんだけどさ、あともうちょっと入れないかな?』
と、申し訳なさそうに顔の前で手を合わす店長に小心者で断れない私は受け入れてしまった。
それに、店長にはまかないをもらったりするなど色々とお世話になっているし、まあ、いいかなって。だけど、予想していた以上に延長されてしまい、今に至る。
「マジでお客さん多すぎて、目回っちゃいそう」
明日、明後日の夜のシフトもちょっと憂鬱。今週頑張ったら、ご褒美にコンビニでダッツ買おうかな。新作のみたらし団子味のアイス。ちょっと気になっていたんだよね。
そう自分に言い聞かせながら、モチベーションを上げると同時にわせっわせっと歩くスピードも上げていく。
郵便局のある突き当たりを曲がった途端、赤い鳥居が目に飛び込んできた。
この町の中心には山がある。山と言っても、ちょっとした小さな山で頂上には寂れた無人神社があるくらい。その神社の入り口が今目の前にある赤い鳥居だ。
家はこの山を挟んで丁度反対にある。山をぐるりと回って帰るよりも、山を突っ切った方が断然近道。
「まあ、いっか。こんなところに人なんていないし」
夜遅く、街灯もまともにない参道を歩くのはかなり躊躇したが、一刻も帰りたい気持ちには勝てず、鳥居をくぐり、頂上へと続く参道に足を踏み入れた。
◆◇◆
ザクっザクっと小枝や落ち葉を踏む音。虫の鳴き声。それ以外は何も聞こえない山道を歩いていく。
それにしても久々に通るな。小学校の理科の課外授業で来たとき以来かもしれない。近所にあるけど、案外通らないものなんだなぁ。
たまには運動がてらにジョギングでもしてみようかな、なんて、三日坊主なことを考えていると、突然あたりがシンと静まり返った。
刹那、ピタリと足の動きが止まり、同時にどうすることもできない緊張感が背中を這い上がってくる。
静かなのは嫌いじゃないけど、こんなにも静かなのはかえって不気味に思えてくる。振り向いたら何かいるんじゃないかと良からぬ想像すら浮かんできた。
そこで私はようやく近道をしてしまったことを後悔した。
だけど、もう頂上まできてしまったし、今更引き返すのも面倒だ。
早くこの場から離れたい一心で、走ろうと足を踏み出そうとした途端、これまでにないとんでもない悪寒に襲われた。
「……っ!」
今度は足が地に根を下ろしたみたいに全然動かない。まるで誰かに強く掴まれているみたい。足首が痛くてしょうがない。
経験したことのない痛みに声も出ずにいると、耳元に生暖かい吐息が吹きかかるのを感じた。
見たらいけない。逃げろ。
理性が警告してくるのに、足は動かず、声も出ず、ただただひたすらに震えることしかできない。
なのに、何故か、足元には何があるのか。後ろには何がいるのかなんていう場違いな好奇心が芽生えてしまった。
目だけを動かし、足元を映そうとしたとき、突如背後から、わっ、と驚かす声がした。
「ほげぇっ!」
「うっわ、死ぬ寸前のカエルみたいな声でウケる」
「な、なんだ、悟くんか……。やめてよ、心臓が口から吐き出るかと思った」
「マジ?吐き出すところ見たかったな」
驚かしてきた人物の正体は悟くんだった。
ていうか、なんてこと言うんだこの人。口から心臓吐き出してくれとか。そんな手品見せてよみたいなノリで聞いてくるんじゃない。
「悟くん、なんでこんなところに?」
「任務だよ。そしたら、偶然、山ん中入ってくお前見かけて、ちょっと驚かせてやろーって尾行したわけ」
「尾行……。私いつから容疑者になったんですか」
「てか、お前こそこんな遅くに何やってんの。丑の刻参りにでも来たの?ビビリなくせに?」
「そんなんじゃないって。近道して帰ろうとしたら、足が急に動かなくなって、それっきり……」
「何言ってんの。ちゃんと動くじゃん」
といつの間にか右足首を掴み、持ち上げては、プラプラと弄んでいる。
あれ、おかしいな。さっきまでしっかりと掴まれていた感覚があったのに。一切消えて無くなってしまっている。
いつもなら、「何勝手に触ってんの!」と抵抗するのに、今はそんなことよりも、得体の知れない恐怖から解放された安堵感が強かった。
急ぎ足で歩きながら、携帯の画面を開く。
これじゃあ、九時半からの特番に間に合わない。
長引いてしまったシフト。本来なら、八時には帰れる予定だったのだけど、金曜日ってこともあり、店の中はお客さんでごった返していた。
『櫛田ちゃん、ほんと悪いんだけどさ、あともうちょっと入れないかな?』
と、申し訳なさそうに顔の前で手を合わす店長に小心者で断れない私は受け入れてしまった。
それに、店長にはまかないをもらったりするなど色々とお世話になっているし、まあ、いいかなって。だけど、予想していた以上に延長されてしまい、今に至る。
「マジでお客さん多すぎて、目回っちゃいそう」
明日、明後日の夜のシフトもちょっと憂鬱。今週頑張ったら、ご褒美にコンビニでダッツ買おうかな。新作のみたらし団子味のアイス。ちょっと気になっていたんだよね。
そう自分に言い聞かせながら、モチベーションを上げると同時にわせっわせっと歩くスピードも上げていく。
郵便局のある突き当たりを曲がった途端、赤い鳥居が目に飛び込んできた。
この町の中心には山がある。山と言っても、ちょっとした小さな山で頂上には寂れた無人神社があるくらい。その神社の入り口が今目の前にある赤い鳥居だ。
家はこの山を挟んで丁度反対にある。山をぐるりと回って帰るよりも、山を突っ切った方が断然近道。
「まあ、いっか。こんなところに人なんていないし」
夜遅く、街灯もまともにない参道を歩くのはかなり躊躇したが、一刻も帰りたい気持ちには勝てず、鳥居をくぐり、頂上へと続く参道に足を踏み入れた。
◆◇◆
ザクっザクっと小枝や落ち葉を踏む音。虫の鳴き声。それ以外は何も聞こえない山道を歩いていく。
それにしても久々に通るな。小学校の理科の課外授業で来たとき以来かもしれない。近所にあるけど、案外通らないものなんだなぁ。
たまには運動がてらにジョギングでもしてみようかな、なんて、三日坊主なことを考えていると、突然あたりがシンと静まり返った。
刹那、ピタリと足の動きが止まり、同時にどうすることもできない緊張感が背中を這い上がってくる。
静かなのは嫌いじゃないけど、こんなにも静かなのはかえって不気味に思えてくる。振り向いたら何かいるんじゃないかと良からぬ想像すら浮かんできた。
そこで私はようやく近道をしてしまったことを後悔した。
だけど、もう頂上まできてしまったし、今更引き返すのも面倒だ。
早くこの場から離れたい一心で、走ろうと足を踏み出そうとした途端、これまでにないとんでもない悪寒に襲われた。
「……っ!」
今度は足が地に根を下ろしたみたいに全然動かない。まるで誰かに強く掴まれているみたい。足首が痛くてしょうがない。
経験したことのない痛みに声も出ずにいると、耳元に生暖かい吐息が吹きかかるのを感じた。
見たらいけない。逃げろ。
理性が警告してくるのに、足は動かず、声も出ず、ただただひたすらに震えることしかできない。
なのに、何故か、足元には何があるのか。後ろには何がいるのかなんていう場違いな好奇心が芽生えてしまった。
目だけを動かし、足元を映そうとしたとき、突如背後から、わっ、と驚かす声がした。
「ほげぇっ!」
「うっわ、死ぬ寸前のカエルみたいな声でウケる」
「な、なんだ、悟くんか……。やめてよ、心臓が口から吐き出るかと思った」
「マジ?吐き出すところ見たかったな」
驚かしてきた人物の正体は悟くんだった。
ていうか、なんてこと言うんだこの人。口から心臓吐き出してくれとか。そんな手品見せてよみたいなノリで聞いてくるんじゃない。
「悟くん、なんでこんなところに?」
「任務だよ。そしたら、偶然、山ん中入ってくお前見かけて、ちょっと驚かせてやろーって尾行したわけ」
「尾行……。私いつから容疑者になったんですか」
「てか、お前こそこんな遅くに何やってんの。丑の刻参りにでも来たの?ビビリなくせに?」
「そんなんじゃないって。近道して帰ろうとしたら、足が急に動かなくなって、それっきり……」
「何言ってんの。ちゃんと動くじゃん」
といつの間にか右足首を掴み、持ち上げては、プラプラと弄んでいる。
あれ、おかしいな。さっきまでしっかりと掴まれていた感覚があったのに。一切消えて無くなってしまっている。
いつもなら、「何勝手に触ってんの!」と抵抗するのに、今はそんなことよりも、得体の知れない恐怖から解放された安堵感が強かった。