Mean Hero
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「怖かった……」
へなへなと音を立て、腰を抜かしてしまう。ピンと張っていた緊張の糸が弛んでいくみたいに、力が抜けていく。
怖かった。本当に怖かった。
偶然とはいえ、驚かすためとはいえ、悟くんがいてくれる安心感に勝るものはないと思った。
情けなく地べたに尻をついていると、「いつまで座ってんだよ」と頭上からため息と共にスッと手を差し伸べられ、手を取るなり、ぐいと難なく引き上げられる。
少々ふらつきながらも、服についた土埃を払っていると、ん、とまたしても手を差し出される。
これはつまり……、引き上げてやった礼をしろと?自販機のジュース代奢れという意味での手なの?ううん……。
「手だよ手。わかんねえのか。ビビリなお前のことだから、足がすくんで動けないとか言い出しそうだから、手繋いで引っ張ってやろうとしてあげてんだよ」
「そういことなの?」
「は?逆にそれ以外何があるんだよ」
「え、ああ、そっか。では、お言葉に甘えて」
さっさと行くぞ、とぶっきらぼうに告げる彼の手を掴み、暗がりの中を進んでいく。
虫の音、風の音、足音。さっきまでピタリと止んでいた音が今は嘘みたいに聞こえてくる。
「だいたいお前は思い込みが激しいんだよ。ちょっと何かあれば、すぐ幽霊だと勝手に怖がってさ」
「だって、急に静かになるし、足は痛くなるし。それにめちゃくちゃ視線を感じたっていうか」
「まあ、それは言えるかも。さっきから視線をチラホラと」
「い、いるの?」
「ビビリなくせにそれ聞いちゃうの?」
「ビビリビビリって。そんなことないよ。最近は怖い話に慣れようと頑張っているし。来週は受信アリを友達と観に行く予定だし」
「わあ、瑞希ちゃんすごい!あんなに怖がりさんだったのにホラー映画を見るなんて!パチパチ〜」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。いや、撫でられるというよりかは、押しつぶされるといった方が正しいかも。
暗がりでよく見えないが、きっと隣の彼はニヤつき顔を浮かべているのだろう。声だけで容易に表情が想像できる。それに悟くんが、私を呼び捨てではなくて、ちゃん付けで呼ぶのは百パーの確率で小馬鹿にしているとき。
つくづく人を揶揄うのが好きな人だこと。
「―――まあ、だけど、仮にそういうのがここにいたとしても、俺がいるから、問題ないっしょ。手出しなんかさせねえよ」
これ以上に頼もしい言葉はないと思えるほど頼もしい言葉だった。
握られた手から伝わる体温。なんて落ち着くんだろう。昔はよくこんなふうに手を繋いで帰ったりしたなあ。
だけど小学校に上がってしばらくしてから、手を繋ぐ行為をまるっきしやらなくなった。特別何かあったわけでもない。気がついたときにはやめていた。
でも、私は好きだった。
あったかくて、優しくて、だけど力強くしっかりと包み込んでくれる彼の手が。だから、今こうして、繋がれているのがずっと続いてくれたらいいのにな、なんて身の程知らずのことすら思ってしまう。
しばらく歩いていると、出口の鳥居の真下にぽつりと二人の人影が暗がりの中から現れる。目を凝らして見てみると、夏油くんと硝子ちゃんだった。
「悟、勝手に単独行動してはいけないと言っているだろう」
腕組みをし、まったくもうと言わんばかりにため息をつく夏油くん。
今のため息一つで、常日頃から悟くんに手を焼いているんだとひしひしと伝わってきた。
「別に良くね?終わらせたから結果オーライだって」
「嘘でしょ、アンタ。もう祓ったの?この短時間で?結構数あったのに。キモっ」
「は?キモくねーし」
「規格外過ぎてキモいんだよ。あ、瑞希ちゃんもいんじゃん。どしたの?こんな時間に」
「バイトが長引いちゃって。それでこの山を突っ切って、近道していたところで、悟くんと会って」
「それは災難だったね。おつかれ。てか、さっきから言おうと思っていたけどさ―――」
硝子ちゃんの視線が徐々に下へと落ちていく。
「そんなことするなんて。お二人さん、お熱いね」
繋がれた右手を見るなり、そう口を開いた。
途端、パッと手を離され、爽やかな夜風がふわりと指の間を突き抜けていく。
「……馬鹿っ、いつまで手握ってんだよ。ガキか!いい加減離せって」
「え、ああ、ごめん」
「悟、そんな言い方したらダメだろう?私達に見られて、照れ臭いからって」
「照れてねえよ!第一、なんで俺がこんなちんちくりんに照れなきゃなんねーんだよ」
「あからさまでウケる。認めてるようなもんじゃん」
「仕方ないよ、硝子。悟は素直になれない小学生男子に変わりないんだから」
やんややんやと火花を散らし合う三人(悟くんが一方的に火花を散らしていると言った方が正しいかもしれない)を他所目におもむろに右手を見つめる。
風通しの良くなった手の平。何故だろう。なんだかちょっと名残惜しい。もうちょっとだけ、あのままでも良かったかな、なんて身の程を知らないことを考えてしまう。
「任務終わっちゃったなら、私ら出番ないじゃん。ここまでの体力と気力返せ」
「とっとと来ないお前らが悪い」
「いや、勝手に単独行動をする悟が悪い」
「そのせいで昼からなんも食べてないんだけど。はー、本当クズのそばにいるとろくなことがないわ」
「えっと……、私の家で良ければ、なんか食べていく?ほんとすぐそこなんだけど」
「お言葉に甘えたいのは山々なのだけど、家の方の迷惑にならないかい?大丈夫?」
「気にしないで気にしないで。おじいちゃんおばあちゃん、老人会の旅行で今日から家空けてるから。二人とも基本的になんでも受け入れる人達だからさ。加えて、悟くんのお友達だって知ったら、即オッケーだよ」
心配そうに尋ねる夏油くんに向かって、大丈夫の意を込めて手を振る。
「良いって言ってんだから、大丈夫だろ。それに俺、こいつの爺ちゃんと婆ちゃんに昔から可愛がられてんだよね。そんでお前らはその知り合いって訳だからさ」
だいぶ語弊を生みそうな発言に夏油くんと硝子ちゃんは同時に顔を顰めた。
「うっわ、相当猫かぶってんな、お前」「お年寄り騙すのは感心ならないね。バチが当たるよ」と二人からコテンパンに攻撃を喰らわされ、負けずと反論する悟くん。
そのやりとりが、なんかコントを見ているみたいで、面白くて、思わず笑ってしまうと、「何笑ってんだよ」とぐいっと思いっきり頬を伸ばされてしまった。
すると、「あ、また瑞希ちゃん、いじめてる。こっちおいで」と硝子ちゃんに腕を掴まれ、彼女の腕の中に引き寄せられる。「いくら幼馴染みだからって、女性をそんなふうに扱うのは良くないよ」と夏油くん。いじめてないと一点張りの悟くん。
そんな終わりを知らないやりとりにお腹を痛めながら、家路に着いた。
へなへなと音を立て、腰を抜かしてしまう。ピンと張っていた緊張の糸が弛んでいくみたいに、力が抜けていく。
怖かった。本当に怖かった。
偶然とはいえ、驚かすためとはいえ、悟くんがいてくれる安心感に勝るものはないと思った。
情けなく地べたに尻をついていると、「いつまで座ってんだよ」と頭上からため息と共にスッと手を差し伸べられ、手を取るなり、ぐいと難なく引き上げられる。
少々ふらつきながらも、服についた土埃を払っていると、ん、とまたしても手を差し出される。
これはつまり……、引き上げてやった礼をしろと?自販機のジュース代奢れという意味での手なの?ううん……。
「手だよ手。わかんねえのか。ビビリなお前のことだから、足がすくんで動けないとか言い出しそうだから、手繋いで引っ張ってやろうとしてあげてんだよ」
「そういことなの?」
「は?逆にそれ以外何があるんだよ」
「え、ああ、そっか。では、お言葉に甘えて」
さっさと行くぞ、とぶっきらぼうに告げる彼の手を掴み、暗がりの中を進んでいく。
虫の音、風の音、足音。さっきまでピタリと止んでいた音が今は嘘みたいに聞こえてくる。
「だいたいお前は思い込みが激しいんだよ。ちょっと何かあれば、すぐ幽霊だと勝手に怖がってさ」
「だって、急に静かになるし、足は痛くなるし。それにめちゃくちゃ視線を感じたっていうか」
「まあ、それは言えるかも。さっきから視線をチラホラと」
「い、いるの?」
「ビビリなくせにそれ聞いちゃうの?」
「ビビリビビリって。そんなことないよ。最近は怖い話に慣れようと頑張っているし。来週は受信アリを友達と観に行く予定だし」
「わあ、瑞希ちゃんすごい!あんなに怖がりさんだったのにホラー映画を見るなんて!パチパチ〜」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。いや、撫でられるというよりかは、押しつぶされるといった方が正しいかも。
暗がりでよく見えないが、きっと隣の彼はニヤつき顔を浮かべているのだろう。声だけで容易に表情が想像できる。それに悟くんが、私を呼び捨てではなくて、ちゃん付けで呼ぶのは百パーの確率で小馬鹿にしているとき。
つくづく人を揶揄うのが好きな人だこと。
「―――まあ、だけど、仮にそういうのがここにいたとしても、俺がいるから、問題ないっしょ。手出しなんかさせねえよ」
これ以上に頼もしい言葉はないと思えるほど頼もしい言葉だった。
握られた手から伝わる体温。なんて落ち着くんだろう。昔はよくこんなふうに手を繋いで帰ったりしたなあ。
だけど小学校に上がってしばらくしてから、手を繋ぐ行為をまるっきしやらなくなった。特別何かあったわけでもない。気がついたときにはやめていた。
でも、私は好きだった。
あったかくて、優しくて、だけど力強くしっかりと包み込んでくれる彼の手が。だから、今こうして、繋がれているのがずっと続いてくれたらいいのにな、なんて身の程知らずのことすら思ってしまう。
しばらく歩いていると、出口の鳥居の真下にぽつりと二人の人影が暗がりの中から現れる。目を凝らして見てみると、夏油くんと硝子ちゃんだった。
「悟、勝手に単独行動してはいけないと言っているだろう」
腕組みをし、まったくもうと言わんばかりにため息をつく夏油くん。
今のため息一つで、常日頃から悟くんに手を焼いているんだとひしひしと伝わってきた。
「別に良くね?終わらせたから結果オーライだって」
「嘘でしょ、アンタ。もう祓ったの?この短時間で?結構数あったのに。キモっ」
「は?キモくねーし」
「規格外過ぎてキモいんだよ。あ、瑞希ちゃんもいんじゃん。どしたの?こんな時間に」
「バイトが長引いちゃって。それでこの山を突っ切って、近道していたところで、悟くんと会って」
「それは災難だったね。おつかれ。てか、さっきから言おうと思っていたけどさ―――」
硝子ちゃんの視線が徐々に下へと落ちていく。
「そんなことするなんて。お二人さん、お熱いね」
繋がれた右手を見るなり、そう口を開いた。
途端、パッと手を離され、爽やかな夜風がふわりと指の間を突き抜けていく。
「……馬鹿っ、いつまで手握ってんだよ。ガキか!いい加減離せって」
「え、ああ、ごめん」
「悟、そんな言い方したらダメだろう?私達に見られて、照れ臭いからって」
「照れてねえよ!第一、なんで俺がこんなちんちくりんに照れなきゃなんねーんだよ」
「あからさまでウケる。認めてるようなもんじゃん」
「仕方ないよ、硝子。悟は素直になれない小学生男子に変わりないんだから」
やんややんやと火花を散らし合う三人(悟くんが一方的に火花を散らしていると言った方が正しいかもしれない)を他所目におもむろに右手を見つめる。
風通しの良くなった手の平。何故だろう。なんだかちょっと名残惜しい。もうちょっとだけ、あのままでも良かったかな、なんて身の程を知らないことを考えてしまう。
「任務終わっちゃったなら、私ら出番ないじゃん。ここまでの体力と気力返せ」
「とっとと来ないお前らが悪い」
「いや、勝手に単独行動をする悟が悪い」
「そのせいで昼からなんも食べてないんだけど。はー、本当クズのそばにいるとろくなことがないわ」
「えっと……、私の家で良ければ、なんか食べていく?ほんとすぐそこなんだけど」
「お言葉に甘えたいのは山々なのだけど、家の方の迷惑にならないかい?大丈夫?」
「気にしないで気にしないで。おじいちゃんおばあちゃん、老人会の旅行で今日から家空けてるから。二人とも基本的になんでも受け入れる人達だからさ。加えて、悟くんのお友達だって知ったら、即オッケーだよ」
心配そうに尋ねる夏油くんに向かって、大丈夫の意を込めて手を振る。
「良いって言ってんだから、大丈夫だろ。それに俺、こいつの爺ちゃんと婆ちゃんに昔から可愛がられてんだよね。そんでお前らはその知り合いって訳だからさ」
だいぶ語弊を生みそうな発言に夏油くんと硝子ちゃんは同時に顔を顰めた。
「うっわ、相当猫かぶってんな、お前」「お年寄り騙すのは感心ならないね。バチが当たるよ」と二人からコテンパンに攻撃を喰らわされ、負けずと反論する悟くん。
そのやりとりが、なんかコントを見ているみたいで、面白くて、思わず笑ってしまうと、「何笑ってんだよ」とぐいっと思いっきり頬を伸ばされてしまった。
すると、「あ、また瑞希ちゃん、いじめてる。こっちおいで」と硝子ちゃんに腕を掴まれ、彼女の腕の中に引き寄せられる。「いくら幼馴染みだからって、女性をそんなふうに扱うのは良くないよ」と夏油くん。いじめてないと一点張りの悟くん。
そんな終わりを知らないやりとりにお腹を痛めながら、家路に着いた。