Mean Hero
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五月晴れ。午前八時ちょっと回った頃。
五月の爽やかな朝風は頬を撫でる……のではなく、何故かスカートの中に吹き込んできた。
ふぁさっと舞い上がるスカートの裾。花びらのようにヒラヒラと波を描きながら、宙に舞う様子はまるでスローモーションビデオを見ているような気分だった。
「いきなり何するの!」
すぐさま捲り上げられたスカートをバッと効果音が似合うくらいに勢いよく抑える。そして、スカートを捲った犯人こと悟くんに向かってキッと睨みこむ。
「今日は黒か」
「話聞いてる?」
「そういえばこの前も黒だったじゃん。まさかずっと同じ下着を履いてんの?うっわ女捨ててんなーお前」
「そんなわけないでしょ!これはブルマって言って、見せてもいい下着なの!」
「へー。なら、もっと見てもいいってことか。なるほどね」
「はい?!」
何を言っているんだ、この人。何言っているんだ。大事なことだから二回言った。何をどう解釈したらそういう結果になるの。
呆れて言葉も出ずにいると再びスカートの裾を捲られ、爽快感がスカートの中に停滞していく。やられっぱなしでたまるものかと此方も裾を抑える。が、同い年とはいえ、ここは男女の差。悟くんは私の手を掴むと軽々しくどかし上げてしまった。
そこまでして私のブルマを見たいのか!
もうここまで堂々とやられると清々しく感じてしまう。
それに悟くんのスカート捲りは今に始まったわけじゃない。幼稚園の時からずっとこう。小学校の頃だって。中学の頃なんてスカート丈が長いせいか、それはそれは勢いよく捲られたものだ。
過去に何でそんなにスカートを捲るのかと尋ねたら、「そこにスカートがあるから」と例え地球がひっくり返っても理解できない回答が返ってきた。
そんなスカート捲り狂の彼のおかげでクローゼットの中はズボンが殆どだ。
「悟くん、いつまでこういうことを続けるの?私たちもう十六だよ?高校生だよ?」
「俺は高専生なんだけど」
「似たようなもんだって」
変なところで細かいんだからとボソッと呟けば、「何か言った?」と頬をつねりながら、中学の頃にいた「悟くんファンクラブ」の子達が卒倒しそうなほど眩い笑顔を向けてきた。
「い、いひゃい……」
「うわ、ぶっす」
雪のような白い髪に透き通る肌。少しでも触れたら消えちゃうくらいに細い輪郭の線。サングラスの間からチラリと覗く碧色の瞳。
彼を見た女の子たちは皆口揃えて言う。「超絶イケメン!」「夢に出てきた王子様!」と。しかし、私は知っている。超絶イケメンと謳われる彼の性格がとんでもなく難ありだということを。
毒舌で辛辣。傍若無人。飄々で何を考えているのか予測がつかない。口の悪さと素行の悪さは天下一品。そして、何より人の嫌がることを進んでやる人。
そんな難あり超絶イケメン改め、悟くんと私は物心ついた頃からの幼馴染み。幼稚園に上がる前から中学まで。小学校、中学校に至っては九年間クラスが一緒だった。
そんな彼におもちゃのように扱われているわけだけど、昔はもうちょっと常識的だったような気がする(スカート捲りは目を瞑るとして)。
「お前さ、今日暇?」
その問いかけに、突然、パッと頬を摘んでいた手が離される。
「シフトも入っていないし、クラブもないし、特に予定はないけど……どうかした?」
ヒリヒリと痛む頬をさすりながら、答える。
まるで歯医者さんから帰ったときみたいな感覚だ。
「放課後、ケーキバイキングとかどう?銀座の」
「いいね……ぎぎぎ、銀座?!」
前半の言葉にパアッと心の中が一面花が咲き乱れ、後半の二文字に天井から降ってきたタライに打たれる衝撃を受けた。
「銀座はあんま好きくない?なら、白金とかは」
「しし、白金……」
候補に上がるのはどれもこれも恐ろしいものばかり。そんな場所、学校帰りに寄れるような所じゃないでしょ……。
悟くんの家はとんでもなくお金持ち。それ故に金銭感覚も少し、いや、かなりバグっている。
「なら、どこならいいんだよ」
「どこならいいって……。もうちょっと気軽に寄れるような所とか。銀座とか白金は庶民にはかなりハードルが高いと言いますか……」
「中学の体育祭のハードル走でハードル倒しまくっていたくせに何言ってんの。その勢いでやればいいんじゃない?」
「そっちのハードルじゃないよ。すぐそうやって、忘れたい記憶をほじくり返すんだから……、でも……」
先月のバイト代はまだ残っているし、全然大丈夫。
私はただ、お金の心配よりも雰囲気に押しつぶされるのが怖いんだ。
東京住みだけど、やっぱり銀座は緊張する。
「庶民はくるんじゃねーよ、あっち行ったしっしっ」言わんばかりの視線を向けられている気がしてならないのだ。だけど……。
ケーキバイキング。その言葉が心をギュッと鷲掴んで離さない。ああ、行ってみたい!マリーアントワネットが食べてそうな三段重ねの皿に乗せられたケーキに紅茶を啜って、優雅に過ごす金曜の午後……。
「や、やっぱり、お銀座に行きたい!」
「りょーかい。お銀座ね」
今更になって思う。お銀座って何。
プラスそれに特にツッコミも入れず、普通に口にしちゃっている悟くんも悟くんだ。
おをつければ何でも丁寧に聞こえるなんて話を昔聞いたことがある。お洗濯にお掃除。言われてみれば、たしかに。でも、お銀座はないだろう。
なんて下らないことを頭の中で考えていると、ふと重大なことに気がついた。
「あ、でも、悟くん。普段、銀座なんて用事がないから、行き方がちょっとわかんないや。地下鉄の乗り換えだとかが少し不安で、無事に辿り着けるかが」
「四時に迎えにいくからいいよ。それまでに曲がり角にある薬局の前にいて」
「目の前にある古本屋さんじゃなくていいの?そっちの方が待っている間も立ち読みもできて、時間も潰せるような気がするけど」
「嫌に決まってんだろ、あんないけ好かねぇところ」
ケッと吐き捨てるかのように悟くんは言った。
いけすかない……。うーん、見た限り、普通の古本屋さんだと思うんだけどなぁ。
「何気にちょっと気になっていたんだけどなぁ」
「やめとけ。埃臭いし、あと店主のジジィがすっげぇ感じ悪いから」
「うん……、わかったよ。とりあえず、四時に薬局前だね」
五月の爽やかな朝風は頬を撫でる……のではなく、何故かスカートの中に吹き込んできた。
ふぁさっと舞い上がるスカートの裾。花びらのようにヒラヒラと波を描きながら、宙に舞う様子はまるでスローモーションビデオを見ているような気分だった。
「いきなり何するの!」
すぐさま捲り上げられたスカートをバッと効果音が似合うくらいに勢いよく抑える。そして、スカートを捲った犯人こと悟くんに向かってキッと睨みこむ。
「今日は黒か」
「話聞いてる?」
「そういえばこの前も黒だったじゃん。まさかずっと同じ下着を履いてんの?うっわ女捨ててんなーお前」
「そんなわけないでしょ!これはブルマって言って、見せてもいい下着なの!」
「へー。なら、もっと見てもいいってことか。なるほどね」
「はい?!」
何を言っているんだ、この人。何言っているんだ。大事なことだから二回言った。何をどう解釈したらそういう結果になるの。
呆れて言葉も出ずにいると再びスカートの裾を捲られ、爽快感がスカートの中に停滞していく。やられっぱなしでたまるものかと此方も裾を抑える。が、同い年とはいえ、ここは男女の差。悟くんは私の手を掴むと軽々しくどかし上げてしまった。
そこまでして私のブルマを見たいのか!
もうここまで堂々とやられると清々しく感じてしまう。
それに悟くんのスカート捲りは今に始まったわけじゃない。幼稚園の時からずっとこう。小学校の頃だって。中学の頃なんてスカート丈が長いせいか、それはそれは勢いよく捲られたものだ。
過去に何でそんなにスカートを捲るのかと尋ねたら、「そこにスカートがあるから」と例え地球がひっくり返っても理解できない回答が返ってきた。
そんなスカート捲り狂の彼のおかげでクローゼットの中はズボンが殆どだ。
「悟くん、いつまでこういうことを続けるの?私たちもう十六だよ?高校生だよ?」
「俺は高専生なんだけど」
「似たようなもんだって」
変なところで細かいんだからとボソッと呟けば、「何か言った?」と頬をつねりながら、中学の頃にいた「悟くんファンクラブ」の子達が卒倒しそうなほど眩い笑顔を向けてきた。
「い、いひゃい……」
「うわ、ぶっす」
雪のような白い髪に透き通る肌。少しでも触れたら消えちゃうくらいに細い輪郭の線。サングラスの間からチラリと覗く碧色の瞳。
彼を見た女の子たちは皆口揃えて言う。「超絶イケメン!」「夢に出てきた王子様!」と。しかし、私は知っている。超絶イケメンと謳われる彼の性格がとんでもなく難ありだということを。
毒舌で辛辣。傍若無人。飄々で何を考えているのか予測がつかない。口の悪さと素行の悪さは天下一品。そして、何より人の嫌がることを進んでやる人。
そんな難あり超絶イケメン改め、悟くんと私は物心ついた頃からの幼馴染み。幼稚園に上がる前から中学まで。小学校、中学校に至っては九年間クラスが一緒だった。
そんな彼におもちゃのように扱われているわけだけど、昔はもうちょっと常識的だったような気がする(スカート捲りは目を瞑るとして)。
「お前さ、今日暇?」
その問いかけに、突然、パッと頬を摘んでいた手が離される。
「シフトも入っていないし、クラブもないし、特に予定はないけど……どうかした?」
ヒリヒリと痛む頬をさすりながら、答える。
まるで歯医者さんから帰ったときみたいな感覚だ。
「放課後、ケーキバイキングとかどう?銀座の」
「いいね……ぎぎぎ、銀座?!」
前半の言葉にパアッと心の中が一面花が咲き乱れ、後半の二文字に天井から降ってきたタライに打たれる衝撃を受けた。
「銀座はあんま好きくない?なら、白金とかは」
「しし、白金……」
候補に上がるのはどれもこれも恐ろしいものばかり。そんな場所、学校帰りに寄れるような所じゃないでしょ……。
悟くんの家はとんでもなくお金持ち。それ故に金銭感覚も少し、いや、かなりバグっている。
「なら、どこならいいんだよ」
「どこならいいって……。もうちょっと気軽に寄れるような所とか。銀座とか白金は庶民にはかなりハードルが高いと言いますか……」
「中学の体育祭のハードル走でハードル倒しまくっていたくせに何言ってんの。その勢いでやればいいんじゃない?」
「そっちのハードルじゃないよ。すぐそうやって、忘れたい記憶をほじくり返すんだから……、でも……」
先月のバイト代はまだ残っているし、全然大丈夫。
私はただ、お金の心配よりも雰囲気に押しつぶされるのが怖いんだ。
東京住みだけど、やっぱり銀座は緊張する。
「庶民はくるんじゃねーよ、あっち行ったしっしっ」言わんばかりの視線を向けられている気がしてならないのだ。だけど……。
ケーキバイキング。その言葉が心をギュッと鷲掴んで離さない。ああ、行ってみたい!マリーアントワネットが食べてそうな三段重ねの皿に乗せられたケーキに紅茶を啜って、優雅に過ごす金曜の午後……。
「や、やっぱり、お銀座に行きたい!」
「りょーかい。お銀座ね」
今更になって思う。お銀座って何。
プラスそれに特にツッコミも入れず、普通に口にしちゃっている悟くんも悟くんだ。
おをつければ何でも丁寧に聞こえるなんて話を昔聞いたことがある。お洗濯にお掃除。言われてみれば、たしかに。でも、お銀座はないだろう。
なんて下らないことを頭の中で考えていると、ふと重大なことに気がついた。
「あ、でも、悟くん。普段、銀座なんて用事がないから、行き方がちょっとわかんないや。地下鉄の乗り換えだとかが少し不安で、無事に辿り着けるかが」
「四時に迎えにいくからいいよ。それまでに曲がり角にある薬局の前にいて」
「目の前にある古本屋さんじゃなくていいの?そっちの方が待っている間も立ち読みもできて、時間も潰せるような気がするけど」
「嫌に決まってんだろ、あんないけ好かねぇところ」
ケッと吐き捨てるかのように悟くんは言った。
いけすかない……。うーん、見た限り、普通の古本屋さんだと思うんだけどなぁ。
「何気にちょっと気になっていたんだけどなぁ」
「やめとけ。埃臭いし、あと店主のジジィがすっげぇ感じ悪いから」
「うん……、わかったよ。とりあえず、四時に薬局前だね」
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