貴女は転校生ちゃん(あんずちゃん)の友人です。
Dear My Hero
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昔も今も、そして未来も。
変わらない平凡な毎日が続く。
この心臓が止まるまで。
ずっとずっと、可もなく不可もなく。
そう、思ってた。
あの日までは――
::::
視界の隅を、小さな淡い色のものが飛んでいく。
つ、と窓の外に手を伸ばすと、思いがけず掴めたのは、小さな桜の花びら。
夢ノ咲学院で迎える2度目の春。
アイドル科、プロデュース科、演劇科、声楽科、音楽科、と華々しい学科があるこの学院で、
唯一名前に華の無い普通科の2年生。
それが私、すもも。
アイドルや芸能の世界に憧れたわけではなく、受かった高校にたまたま華々しい科があっただけ。
将来これをしたいって夢は特に無い。
今までの人生でも大して目立つことは無く、高校デビューもせず、平凡に過ごしてきた。
これからも目立つ事も、変わろうとする気もない。
ない無いづくしの平凡なのが私だし、これは案外気に入っている。
とは言え、私だって適度に賑やかなのは好きだ。
だから、クラス替えしたばかりだと言うのに賑やかな教室は、新しいクラスとして好ましい。
「今年もアイドル科に目立つ子入ってくるかな?」
「私もう推しメン決まってる」
「それより演劇科と音楽科のコラボした舞台やるらしいよ」
「2年目だとそろそろ新鮮味も無いよねー」
教室の中で飽きもせず繰り広げられる会話も、この学園に2年も居れば耳慣れたもの。
「ね、すももは今年のアイドル科チェックした?」
もののついでに投げられた質問に、へらりと笑う。
「まだしてなーい。ドリフェス前にチェックしよっかなって」
「わかるー!始まってみないと分かんないよねー」
そうそう、と適当な相槌で納得してもらえる、今のクラスはだいぶ優しいと思う。
去年はアイドル好きで女王様のような女生徒に振り回され、クラス全体が地獄絵図だったのだ。
一匹狼を気取るつもりはないけど、絶対権力を持ちたがる子が居る集団やグループは苦手。
特定のグループには属さないけど、孤立もしない。
そんな私には、今みたいな気楽な会話がありがたい。
「今年のドリフェスいつ始まるかな」
「もう始まってるんじゃない?去年より動き早い気がする」
「そういえば、アイドル科に転校生入ったって話じゃん」
「ああ、女の子だっけ」
あれ、と違和感。
確か、我が校のアイドル科には女子は居ないんじゃなかったっけ。
普通かとアイドル科には塀や受付といった壁があるため交流も無いし、よく知らないけど。
好奇心が動き出し、私は珍しく会話に混ざる事にした。
「女の子がアイドル科に入ったの?アイドルになるのかな」
「お、すももってば気になる?どうやらプロデューサー科っていう新しい科のテストケースなんだって」
「へー。詳しいね」
「転校生ってなったら気になるっしょ!ついチェックしちゃった」
「さっすが~!」
情報通に拍手!
なんて遊んでいると、教室のドアから担任がひょっこりと顔をのぞかせた。
「おーい、誰かちょっと手伝ってくれる人ー」
途端、今までうわさ話に華を咲かせていたクラスメイトが一斉に忙しそうに動き始めた。
ああ、しまった。出遅れてしまった。
「お、ちょうど1人手が空いてそうだね?」
先生、なんで嬉しそうなんですか。
ニヤニヤしている先生とバッチリ目があってしまい、私はこっそり溜息をついて立ち上がった。
::::
「面倒くさい」
手にした書類に愚痴をこぼすが、誰も反応してくれない。
さっきまで会話していたクラスメイト達が知ったらすごく騒ぐだろうな、と思う。
何せ、私が今居る場所はさっきまで噂の的だったアイドル科だ。
それにしても、とため息をつく。
「なんで同じ敷地内で移動するのに、あんなに手続き面倒なの」
芸能人デビューしている生徒も居るので当然の処置かも知れないのだが。
それにしても、初めて訪れるアイドル科への道は思っていたより厳しかった。
物理的な壁よりも、手続きの面が。
先生に頼まれて書類を持ってきただけだし、私自身はアイドルに興味ないのに。
そう思うが、私の心を万人が読めるわけではないので仕方が無い。
手続きに乗っ取って受付で許可をもらい、早く用事を済ませるべく構内図を見ながらルートを進む。
なにせ普段は滅多に入らない場所なだけに、同じ敷地内にも関わらず、場所がピンと来ないのだ。
妙に心細くなり、自然と独り言が増える。
「えーっと、アイドル科の職員室はどこかな」
構内図と今いる場所を照らし合わせるべく廊下の窓を開ける。
ややこしいので建物の形から見分けようと思ったのだ。
構内図を持ち直した時、先生から預かった書類が手から滑り落ちた。
「あ」
何かを言う前に書類が風に舞って外へ飛んでいく。
「嘘でしょー!?」
コントのような展開に、思わず大声になる。
ラブコメ漫画なら、運命の人との出会いのキッカケになるかもだけど。
生憎、私はそんな展開と無縁の人生だ。
これまでも、これからも。
それに、先生から預かった書類を落としたなんてシャレにならない。
しかも、入るのに面倒な手続きを踏んだアイドル科で。
余計な騒ぎは面倒ごとを増やすだけに決まってる。
一瞬にして血の気が引いた。
「嘘でしょ!嘘でしょ嘘でしょー!?」
叫びながらも、書類の飛んで行った方向を冷静に見てから、走り出す。
敷地の外に行くような勢いではなかった。
中庭のような場所に向かっているだけ。
運が良ければすぐに見つかる。
途中、何人かの生徒とすれ違うが、アイドル科らしく見目麗しいかどうか確認している暇もない。
みっともなくバタバタと、それでも必死に宙を舞う書類の行方を追う。
「負けられないな!!」
遠くで誰かの声がする。
そうだ、その通り。
私は今、ここで書類を見失うわけにはいかない。
負けるわけにはいかないのだ。
視界の隅に、白い紙を捕らえる。
殆ど地面に近づいていたそれは、目の前で地に落ちた。
「あった!!」
白い紙は、チラッと見えた限り文字が羅列してある。
さっきまで持っていた書類で間違いないハズだ。
その書類をに伸びるそっと伸びる手。
その手の主の姿に、私はゆっくりと減速した。
「だ、大丈夫ですか?」
急に走ったせいでちょっと上がった息を整えていると、手の主は慌てた。
ああ、なんだろう。
初対面なのに、ハプニングの直後なのに。
書類が見つかった安心感より、じんわりと胸の中が熱くなった。
「大丈夫。ごめんね、ビックリさせて。それ、拾ってくれてありがと」
へらりと笑うと、彼女はふわりと笑った。
ああ、かわいいな、なんて。
柄にもなく、見惚れてしまった。
だから、かもしれない。
柄にもない事が続いた勢いが、私の背中を押した。
「ね、名前教えて?私は普通科2年のすもも」
初対面の人に名前を聞くなんて、あんまりしたことないから胸がドキドキする。
ううん、これはきっとさっきまで走っていたせい。
そういう事にしておきたい。
「プロデュース科2年の、あんずです」
ああ、そっか彼女が。
この敷地に自分以外の女の子が居たから確信はあったけど、ちゃんと納得した。
普通科だって可愛い子は居るし、他の学科だって綺麗な子もかわいい子もいっぱい居る。
けど、それだけじゃない。
凛としているのにかわいくて、しっかりしてそう。
でも、なんとなく放っておけない。
言葉にするとそんな感じの、曖昧だけどしっかりしたものを彼女に感じた。
きっと、直観だと思う。
平凡な私が感じる、彼女の魅力。
だから、かも知れない。
「ハートは熱く燃えているか!」
なぜだろう、さっきから遠く聞こえる謎の声が、私の心を加速させる。
もしかしたら、幻聴だろうか。
普段体験しない事続きだからかもしれない。
今までの平凡な生活から、可もなく不可もない性格からは考えられない。
そんな衝動が、私の背中を押した。
「私と友達になってください!」
彼女のことを、もっと知りたい。
私は、にっこりと笑った。
⇒next stage
(20190318)
変わらない平凡な毎日が続く。
この心臓が止まるまで。
ずっとずっと、可もなく不可もなく。
そう、思ってた。
あの日までは――
::::
視界の隅を、小さな淡い色のものが飛んでいく。
つ、と窓の外に手を伸ばすと、思いがけず掴めたのは、小さな桜の花びら。
夢ノ咲学院で迎える2度目の春。
アイドル科、プロデュース科、演劇科、声楽科、音楽科、と華々しい学科があるこの学院で、
唯一名前に華の無い普通科の2年生。
それが私、すもも。
アイドルや芸能の世界に憧れたわけではなく、受かった高校にたまたま華々しい科があっただけ。
将来これをしたいって夢は特に無い。
今までの人生でも大して目立つことは無く、高校デビューもせず、平凡に過ごしてきた。
これからも目立つ事も、変わろうとする気もない。
ない無いづくしの平凡なのが私だし、これは案外気に入っている。
とは言え、私だって適度に賑やかなのは好きだ。
だから、クラス替えしたばかりだと言うのに賑やかな教室は、新しいクラスとして好ましい。
「今年もアイドル科に目立つ子入ってくるかな?」
「私もう推しメン決まってる」
「それより演劇科と音楽科のコラボした舞台やるらしいよ」
「2年目だとそろそろ新鮮味も無いよねー」
教室の中で飽きもせず繰り広げられる会話も、この学園に2年も居れば耳慣れたもの。
「ね、すももは今年のアイドル科チェックした?」
もののついでに投げられた質問に、へらりと笑う。
「まだしてなーい。ドリフェス前にチェックしよっかなって」
「わかるー!始まってみないと分かんないよねー」
そうそう、と適当な相槌で納得してもらえる、今のクラスはだいぶ優しいと思う。
去年はアイドル好きで女王様のような女生徒に振り回され、クラス全体が地獄絵図だったのだ。
一匹狼を気取るつもりはないけど、絶対権力を持ちたがる子が居る集団やグループは苦手。
特定のグループには属さないけど、孤立もしない。
そんな私には、今みたいな気楽な会話がありがたい。
「今年のドリフェスいつ始まるかな」
「もう始まってるんじゃない?去年より動き早い気がする」
「そういえば、アイドル科に転校生入ったって話じゃん」
「ああ、女の子だっけ」
あれ、と違和感。
確か、我が校のアイドル科には女子は居ないんじゃなかったっけ。
普通かとアイドル科には塀や受付といった壁があるため交流も無いし、よく知らないけど。
好奇心が動き出し、私は珍しく会話に混ざる事にした。
「女の子がアイドル科に入ったの?アイドルになるのかな」
「お、すももってば気になる?どうやらプロデューサー科っていう新しい科のテストケースなんだって」
「へー。詳しいね」
「転校生ってなったら気になるっしょ!ついチェックしちゃった」
「さっすが~!」
情報通に拍手!
なんて遊んでいると、教室のドアから担任がひょっこりと顔をのぞかせた。
「おーい、誰かちょっと手伝ってくれる人ー」
途端、今までうわさ話に華を咲かせていたクラスメイトが一斉に忙しそうに動き始めた。
ああ、しまった。出遅れてしまった。
「お、ちょうど1人手が空いてそうだね?」
先生、なんで嬉しそうなんですか。
ニヤニヤしている先生とバッチリ目があってしまい、私はこっそり溜息をついて立ち上がった。
::::
「面倒くさい」
手にした書類に愚痴をこぼすが、誰も反応してくれない。
さっきまで会話していたクラスメイト達が知ったらすごく騒ぐだろうな、と思う。
何せ、私が今居る場所はさっきまで噂の的だったアイドル科だ。
それにしても、とため息をつく。
「なんで同じ敷地内で移動するのに、あんなに手続き面倒なの」
芸能人デビューしている生徒も居るので当然の処置かも知れないのだが。
それにしても、初めて訪れるアイドル科への道は思っていたより厳しかった。
物理的な壁よりも、手続きの面が。
先生に頼まれて書類を持ってきただけだし、私自身はアイドルに興味ないのに。
そう思うが、私の心を万人が読めるわけではないので仕方が無い。
手続きに乗っ取って受付で許可をもらい、早く用事を済ませるべく構内図を見ながらルートを進む。
なにせ普段は滅多に入らない場所なだけに、同じ敷地内にも関わらず、場所がピンと来ないのだ。
妙に心細くなり、自然と独り言が増える。
「えーっと、アイドル科の職員室はどこかな」
構内図と今いる場所を照らし合わせるべく廊下の窓を開ける。
ややこしいので建物の形から見分けようと思ったのだ。
構内図を持ち直した時、先生から預かった書類が手から滑り落ちた。
「あ」
何かを言う前に書類が風に舞って外へ飛んでいく。
「嘘でしょー!?」
コントのような展開に、思わず大声になる。
ラブコメ漫画なら、運命の人との出会いのキッカケになるかもだけど。
生憎、私はそんな展開と無縁の人生だ。
これまでも、これからも。
それに、先生から預かった書類を落としたなんてシャレにならない。
しかも、入るのに面倒な手続きを踏んだアイドル科で。
余計な騒ぎは面倒ごとを増やすだけに決まってる。
一瞬にして血の気が引いた。
「嘘でしょ!嘘でしょ嘘でしょー!?」
叫びながらも、書類の飛んで行った方向を冷静に見てから、走り出す。
敷地の外に行くような勢いではなかった。
中庭のような場所に向かっているだけ。
運が良ければすぐに見つかる。
途中、何人かの生徒とすれ違うが、アイドル科らしく見目麗しいかどうか確認している暇もない。
みっともなくバタバタと、それでも必死に宙を舞う書類の行方を追う。
「負けられないな!!」
遠くで誰かの声がする。
そうだ、その通り。
私は今、ここで書類を見失うわけにはいかない。
負けるわけにはいかないのだ。
視界の隅に、白い紙を捕らえる。
殆ど地面に近づいていたそれは、目の前で地に落ちた。
「あった!!」
白い紙は、チラッと見えた限り文字が羅列してある。
さっきまで持っていた書類で間違いないハズだ。
その書類をに伸びるそっと伸びる手。
その手の主の姿に、私はゆっくりと減速した。
「だ、大丈夫ですか?」
急に走ったせいでちょっと上がった息を整えていると、手の主は慌てた。
ああ、なんだろう。
初対面なのに、ハプニングの直後なのに。
書類が見つかった安心感より、じんわりと胸の中が熱くなった。
「大丈夫。ごめんね、ビックリさせて。それ、拾ってくれてありがと」
へらりと笑うと、彼女はふわりと笑った。
ああ、かわいいな、なんて。
柄にもなく、見惚れてしまった。
だから、かもしれない。
柄にもない事が続いた勢いが、私の背中を押した。
「ね、名前教えて?私は普通科2年のすもも」
初対面の人に名前を聞くなんて、あんまりしたことないから胸がドキドキする。
ううん、これはきっとさっきまで走っていたせい。
そういう事にしておきたい。
「プロデュース科2年の、あんずです」
ああ、そっか彼女が。
この敷地に自分以外の女の子が居たから確信はあったけど、ちゃんと納得した。
普通科だって可愛い子は居るし、他の学科だって綺麗な子もかわいい子もいっぱい居る。
けど、それだけじゃない。
凛としているのにかわいくて、しっかりしてそう。
でも、なんとなく放っておけない。
言葉にするとそんな感じの、曖昧だけどしっかりしたものを彼女に感じた。
きっと、直観だと思う。
平凡な私が感じる、彼女の魅力。
だから、かも知れない。
「ハートは熱く燃えているか!」
なぜだろう、さっきから遠く聞こえる謎の声が、私の心を加速させる。
もしかしたら、幻聴だろうか。
普段体験しない事続きだからかもしれない。
今までの平凡な生活から、可もなく不可もない性格からは考えられない。
そんな衝動が、私の背中を押した。
「私と友達になってください!」
彼女のことを、もっと知りたい。
私は、にっこりと笑った。
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(20190318)
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