春の段
主人公の名前をどうぞ
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廊下を進んでしばらく行くと、六年生の長屋 にたどり着く。
その一角 で足を止める。普段通りに気配はある程度殺しているが、ここに来ていることはバレているはずだ。
音を立てずにため息を落とし、戸に手をかける。
「立花は居るか」
スッと扉を開けーー
「よく来たな珠雪」
ーースパンと思い切り閉める。
「いきなり扉を開けたのに閉めるとは何事だ」
「いきなり目の前に立っているとは思わないだろうが、普通」
何事も無かったかのように扉を開け直した立花仙蔵に言い返すが、本人はどこ吹く風。こちらの気配を察知 して扉の前に立っていたのだろうが、本気で気配も何も無いのが恐ろしい。
そっと扉を閉めようとするが、それを阻 むのは白魚 のような白い指。
「なぜもう一度閉めようとする」
「こうしなければいけない気がしてな!お約束だろう?!」
「1年生のような事をするな!6年生になってまでそんなお約束をしているバヤイか」
肌も白く、やわに見えるが、存外 に力は強い。
同学年の中では線は細いが、決して見た目で判断出来ないのが立花仙蔵だ。
五年前なら負けはしなかったのに、と思い浮かんだ負け惜しみを打ち消すように、戸を閉める手に力を込める。
「珠雪!お前いい加減に…」
「いい加減にせんかバカタレ!部屋の入り口でいつまでも騒がしい」
「あ、潮江。居たのか」
響 響く恫喝 に教科書通りコケてから、ひょい、と立花越しに部屋の奥を覗く。
そこには、もう一人の住人、潮江文次郎が呆れたようにこちらを見ていた。
「相変わらず立派なクマだな」
「誰が猛獣 だバカタレ」
「いや、そうじゃないだろう文次郎。珠雪が言っているのはお前の目の下だ」
「そうそう」
立花の冷静なツッコミに同意をこめて頷 いてみせると、学園一ギンギンに忍者している男はバツが悪そうに頭を掻いた。
その姿は忍者というより、どこかの武士か武将のような貫禄 がある。
五年前には無かった貫禄に時の重みを感じていると、不機嫌な視線が突き刺さってくる。
「珠雪。お前、なんで文次郎には優しい視線を向けているんだ」
「…優しい視線に見えるんなら、今すぐ保健室で目の検査をして来い」
「私の視力は悪く無いぞ。検眼表 も一番小さいものの方向までバッチリだ」
「だったら次は頭の検査だな」
「ほう…」
不穏 な気配。
どうにもこの男の挑発は乗りやすいせいで落とし所を見失う。
自分のペースに持っていけてると思っていても、気づけばこの男のペースだ。
立花仙蔵。肝心 な場面で焙烙火矢 を投げ入れるこの男は、今日もニヤリと笑って言葉の爆弾を投げ入れる。
「名付け親に随分 な態度じゃないか、なぁ。屋根の上の猫、珠雪」
視界の隅 に腰を浮かせた潮江が映った。
仲裁 ? そんな事はさせない。
小さく鋭い金属音が鳴り響く。
「…ここ数日、行方をくらましていたのは個別の課題か?珠雪」
「関係無いだろ。名付け親の立花仙蔵殿 」
懐 から瞬時に取り出し、立花の首に一撃を加え損ねた苦無 を握り直して構 える。
同じく懐から出した苦無で、こちらの一撃を受け止めた立花仙蔵は、すっと目を細めた。
「かわいくないな。名前をつけてやった五年前と変わらん」
「可愛がられる気は元より無い」
呼吸を悟られないようにしつつ、重心を低くする。
狙いはーーー
「止めんかバカタレ」
静かな一言と共に、頭に衝撃 。
その一撃が全身に響き、言葉を失う。
「ーーーっ!?」
挑発に乗ってすっかり忘れていたが、今は全身傷 と薬と包帯塗 れの満身創痍 。
潮江の掌 で軽く叩かれただけなのに、全身が悲鳴を上げた。声もなく悶絶 する。
「まったく。見え透 いた挑発に乗って周りが見えなくなるのは悪い癖だな、珠雪」
腕を組んだ潮江が呆れたように言うが、返す言葉が無い
というより、言葉を返す余裕も無い。
「文次郎、お前なかなか鬼だな」
「怪我人相手に挑発して戦わせようとするお前に言われたくないな、仙蔵」
同組コントは後にして、ちょっとは助けようとして欲しい。
涙目で訴えてみるものの、六年い組の二人はどこ吹く風。
知っているが再確認。この二人は揃って鬼だ。
特に、同学年には容赦が無い。
「ところで、結局何の用で来たんだ?珠雪は」
「ああ、そういえばそれを聞くのを忘れていたな。まぁ恐らくは私が図書室から借りていた本の回収に来たんだろう」
分かっているならとっとと出せ、この確信犯。
言ってやりたいが、ようやく収まってきた痛みに耐えつつ体を起こすので精一杯。
「大丈夫か?珠雪」
大丈夫じゃない。
一応屈 みこんで聞いてくる文次郎に睨み返し、ようやく立ち上がると、目の前に本が差し出される。
題名は。
「…正しい猫の飼い方」
「一応、参考にしておこうかと思ってな」
ニヤリと笑う立花から本を受け取り、ため息を一つ。
どこまで人をおちょくれば気がすむんだ、この男は。
「邪魔したな」
「仙蔵が迷惑かけたな。傷が悪化してないか、後でちゃんと伊作に診てもらえよ」
「分かってるよ、潮江」
正直このまま風呂にも入らず寝て体を休めたい。
しかし、怪我をそのままにして後で見つかると非常に厄介だ。
痛む体をさすりつつ、廊下を歩く。
図書室に本を持っていくのは、日が昇ってからでいいだろう。
ーー名付け親と猫ーー
その
音を立てずにため息を落とし、戸に手をかける。
「立花は居るか」
スッと扉を開けーー
「よく来たな珠雪」
ーースパンと思い切り閉める。
「いきなり扉を開けたのに閉めるとは何事だ」
「いきなり目の前に立っているとは思わないだろうが、普通」
何事も無かったかのように扉を開け直した立花仙蔵に言い返すが、本人はどこ吹く風。こちらの気配を
そっと扉を閉めようとするが、それを
「なぜもう一度閉めようとする」
「こうしなければいけない気がしてな!お約束だろう?!」
「1年生のような事をするな!6年生になってまでそんなお約束をしているバヤイか」
肌も白く、やわに見えるが、
同学年の中では線は細いが、決して見た目で判断出来ないのが立花仙蔵だ。
五年前なら負けはしなかったのに、と思い浮かんだ負け惜しみを打ち消すように、戸を閉める手に力を込める。
「珠雪!お前いい加減に…」
「いい加減にせんかバカタレ!部屋の入り口でいつまでも騒がしい」
「あ、潮江。居たのか」
そこには、もう一人の住人、潮江文次郎が呆れたようにこちらを見ていた。
「相変わらず立派なクマだな」
「誰が
「いや、そうじゃないだろう文次郎。珠雪が言っているのはお前の目の下だ」
「そうそう」
立花の冷静なツッコミに同意をこめて
その姿は忍者というより、どこかの武士か武将のような
五年前には無かった貫禄に時の重みを感じていると、不機嫌な視線が突き刺さってくる。
「珠雪。お前、なんで文次郎には優しい視線を向けているんだ」
「…優しい視線に見えるんなら、今すぐ保健室で目の検査をして来い」
「私の視力は悪く無いぞ。
「だったら次は頭の検査だな」
「ほう…」
どうにもこの男の挑発は乗りやすいせいで落とし所を見失う。
自分のペースに持っていけてると思っていても、気づけばこの男のペースだ。
立花仙蔵。
「名付け親に
視界の
小さく鋭い金属音が鳴り響く。
「…ここ数日、行方をくらましていたのは個別の課題か?珠雪」
「関係無いだろ。名付け親の立花仙蔵
同じく懐から出した苦無で、こちらの一撃を受け止めた立花仙蔵は、すっと目を細めた。
「かわいくないな。名前をつけてやった五年前と変わらん」
「可愛がられる気は元より無い」
呼吸を悟られないようにしつつ、重心を低くする。
狙いはーーー
「止めんかバカタレ」
静かな一言と共に、頭に
その一撃が全身に響き、言葉を失う。
「ーーーっ!?」
挑発に乗ってすっかり忘れていたが、今は全身
潮江の
「まったく。見え
腕を組んだ潮江が呆れたように言うが、返す言葉が無い
というより、言葉を返す余裕も無い。
「文次郎、お前なかなか鬼だな」
「怪我人相手に挑発して戦わせようとするお前に言われたくないな、仙蔵」
同組コントは後にして、ちょっとは助けようとして欲しい。
涙目で訴えてみるものの、六年い組の二人はどこ吹く風。
知っているが再確認。この二人は揃って鬼だ。
特に、同学年には容赦が無い。
「ところで、結局何の用で来たんだ?珠雪は」
「ああ、そういえばそれを聞くのを忘れていたな。まぁ恐らくは私が図書室から借りていた本の回収に来たんだろう」
分かっているならとっとと出せ、この確信犯。
言ってやりたいが、ようやく収まってきた痛みに耐えつつ体を起こすので精一杯。
「大丈夫か?珠雪」
大丈夫じゃない。
一応
題名は。
「…正しい猫の飼い方」
「一応、参考にしておこうかと思ってな」
ニヤリと笑う立花から本を受け取り、ため息を一つ。
どこまで人をおちょくれば気がすむんだ、この男は。
「邪魔したな」
「仙蔵が迷惑かけたな。傷が悪化してないか、後でちゃんと伊作に診てもらえよ」
「分かってるよ、潮江」
正直このまま風呂にも入らず寝て体を休めたい。
しかし、怪我をそのままにして後で見つかると非常に厄介だ。
痛む体をさすりつつ、廊下を歩く。
図書室に本を持っていくのは、日が昇ってからでいいだろう。
ーー名付け親と猫ーー
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