春の段
主人公の名前をどうぞ
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つめたい
さむい
くらい
なにも みえない
なにも きこえない
なにも わからない
もう このままーーー
***
カコン、と音がしたと思えば光が射した。
ようやく微睡みかけたのに、と少々ムッとする。
ここ数日、寝不足が続いていた。その分しっかりと休養を取りたくて、吟味して厳選した場所だ。
真っ暗で落ち着いた場所。あと数刻はゆっくり出来るはずだったのに。
「よっ…と。あれ、珠雪。こんな所に居たのか」
差し込む光の中からする能天気な声。
「あれ、じゃないよ食満留三郎 。何してるの」
「何って仕事だ、仕事。用具委員の仕事だよ」
見慣れた三白眼の男はそう言うと、よっ、と掛け声一つで屋根裏へと上がってくる。
相変わらず、背がでかい割に身軽な男だ。
「それにしても、こんな埃っぽい場所に居るなんて、相変わらずだな」
「放っておいてよね。この学園で落ち着ける場所なんて、数える程しかないんだから」
「ま、そりゃそうかも知れんがな」
持ってきた道具箱の蓋を開けつつ肩を竦める横顔は、呆れるほど見慣れたもの。
作業をしようとしている場所に先客が居ようが居まいがお構い無し。こういう所も仕事に対して律儀なこの男らしい。
「お。どこか行くのか、珠雪」
寝るために丸めていた体を伸ばしていると、食満 が驚いた顔をする。
「当たり前だよ。隣でトンカンやられたんじゃあ寝ようにも寝られない」
「まぁ、そりゃあそうかも知れんが」
食満が手にした金槌を指差して言えば、三白眼が意外と言わんばかりにこっちを見てくる。
なんだ、何がそんなに意外なんだ。私はただ、安眠出来る場所を求めているだけだ。
さて、次はどこへ行くかと安眠の場所へ思いを巡らせ、食満がズラした天井板へ足をかける。今の時間は事務室か、図書室でも良いかーーー
「昨晩、雨漏りしてた俺たちの部屋の屋根裏に居るもんだから、てっきり後で一緒に夕飯でも食べたいんだと思ってたんだがな」
「っ?!」
一瞬気が逸れた瞬間、重力が体を引っ張る。
足が滑った、と理解するのはほんの刹那。
「珠雪!!」
叫び声と同時、肩に衝撃が走り、落下が止まる。
「…余計な事を」
「そりゃあ悪かったよ」
ほれ、と何事も無かったかのように天井裏へと引っ張りあげられる。
「怪我が無くてよかったな」
猫みたいに身軽なお前なら、心配なかったとは思うけどさ。続く言葉の最中で、堪らず自ら飛び降りた。
足音も立たない着地のお手本を披露して、見慣れた忍たま長屋の一室を数歩で横切る。
「おい珠雪」
「食満」
部屋を出る前に屋根裏に呼びかければ、首を傾げる用具委員長。
そんなにあどけない顔、後輩には見せられないだろうに。会計委員会の委員長、潮江文二郎 とはいかないが、もう少し気を引きしめろと言いたくもなる。
思っていても顔には出さず、代わりに口を開く事にする。
「後で今日の夕飯のデザートをかけて勝負だ」
「なにっ!?勝負だと!望む所だ!!」
途端に頬を紅潮させて鼻息荒く宣言する食満に手を振り、廊下を歩く。
勝負に興奮した用具委員長の雄叫びに混じる、雨漏りが酷い箇所の補修音を背に庭を見れば、満開の桜。
「ああ…もう、こんな季節なのか」
暖かな日差しが降り注ぐ忍術学園の庭に、穏やかな風が吹く。
風に運ばれた淡い花びらは、まるで、季節外れの雪のよう。
「…寝不足がたたってるな」
ぼんやりしているせいか、感傷的だ。
目をこすり、次の昼寝場所を目指す。
夕飯前までには体力を取り戻さなければ。ただでさえ性別の壁があり、更に寝不足状態では、勝てる戦 も負けてしまう。
歩きながら伸びを一つ。遠くでどこかの保健委員長が落とし穴に落ちる叫び声がしたが、これもまた日常茶飯事。
食満留三郎、善法寺伊作 。クラスメイトの声を遠くに、思わず笑みがこぼれる。
「さて、6年は組の屋根上 珠雪。いざ行こう、安息の昼寝場所へ」
滅多に出さない独り言すらも出てしまう。
そんな気にさせる、陽気な春の空。
ーー屋根の上の猫ーー
さむい
くらい
なにも みえない
なにも きこえない
なにも わからない
もう このままーーー
***
カコン、と音がしたと思えば光が射した。
ようやく微睡みかけたのに、と少々ムッとする。
ここ数日、寝不足が続いていた。その分しっかりと休養を取りたくて、吟味して厳選した場所だ。
真っ暗で落ち着いた場所。あと数刻はゆっくり出来るはずだったのに。
「よっ…と。あれ、珠雪。こんな所に居たのか」
差し込む光の中からする能天気な声。
「あれ、じゃないよ
「何って仕事だ、仕事。用具委員の仕事だよ」
見慣れた三白眼の男はそう言うと、よっ、と掛け声一つで屋根裏へと上がってくる。
相変わらず、背がでかい割に身軽な男だ。
「それにしても、こんな埃っぽい場所に居るなんて、相変わらずだな」
「放っておいてよね。この学園で落ち着ける場所なんて、数える程しかないんだから」
「ま、そりゃそうかも知れんがな」
持ってきた道具箱の蓋を開けつつ肩を竦める横顔は、呆れるほど見慣れたもの。
作業をしようとしている場所に先客が居ようが居まいがお構い無し。こういう所も仕事に対して律儀なこの男らしい。
「お。どこか行くのか、珠雪」
寝るために丸めていた体を伸ばしていると、
「当たり前だよ。隣でトンカンやられたんじゃあ寝ようにも寝られない」
「まぁ、そりゃあそうかも知れんが」
食満が手にした金槌を指差して言えば、三白眼が意外と言わんばかりにこっちを見てくる。
なんだ、何がそんなに意外なんだ。私はただ、安眠出来る場所を求めているだけだ。
さて、次はどこへ行くかと安眠の場所へ思いを巡らせ、食満がズラした天井板へ足をかける。今の時間は事務室か、図書室でも良いかーーー
「昨晩、雨漏りしてた俺たちの部屋の屋根裏に居るもんだから、てっきり後で一緒に夕飯でも食べたいんだと思ってたんだがな」
「っ?!」
一瞬気が逸れた瞬間、重力が体を引っ張る。
足が滑った、と理解するのはほんの刹那。
「珠雪!!」
叫び声と同時、肩に衝撃が走り、落下が止まる。
「…余計な事を」
「そりゃあ悪かったよ」
ほれ、と何事も無かったかのように天井裏へと引っ張りあげられる。
「怪我が無くてよかったな」
猫みたいに身軽なお前なら、心配なかったとは思うけどさ。続く言葉の最中で、堪らず自ら飛び降りた。
足音も立たない着地のお手本を披露して、見慣れた忍たま長屋の一室を数歩で横切る。
「おい珠雪」
「食満」
部屋を出る前に屋根裏に呼びかければ、首を傾げる用具委員長。
そんなにあどけない顔、後輩には見せられないだろうに。会計委員会の委員長、
思っていても顔には出さず、代わりに口を開く事にする。
「後で今日の夕飯のデザートをかけて勝負だ」
「なにっ!?勝負だと!望む所だ!!」
途端に頬を紅潮させて鼻息荒く宣言する食満に手を振り、廊下を歩く。
勝負に興奮した用具委員長の雄叫びに混じる、雨漏りが酷い箇所の補修音を背に庭を見れば、満開の桜。
「ああ…もう、こんな季節なのか」
暖かな日差しが降り注ぐ忍術学園の庭に、穏やかな風が吹く。
風に運ばれた淡い花びらは、まるで、季節外れの雪のよう。
「…寝不足がたたってるな」
ぼんやりしているせいか、感傷的だ。
目をこすり、次の昼寝場所を目指す。
夕飯前までには体力を取り戻さなければ。ただでさえ性別の壁があり、更に寝不足状態では、勝てる
歩きながら伸びを一つ。遠くでどこかの保健委員長が落とし穴に落ちる叫び声がしたが、これもまた日常茶飯事。
食満留三郎、
「さて、6年は組の
滅多に出さない独り言すらも出てしまう。
そんな気にさせる、陽気な春の空。
ーー屋根の上の猫ーー
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