短編集
仰向けに組み敷かれた私は彼の髪へと腕を伸ばす。
こめかみから、後頭部へ。彼の髪に指を差し込み、頭皮をなぞる。コシのある、うねった漆黒の癖毛は指によく絡んだ。
黒い天井から喰むような口づけが降る。
彼の髪はカーテンのように外界を遮断させ、私の視界を黒く染める。
それは長髪というほど長くはないけれど、短髪ともいえない長さ。肩にかかるか、かからないほどの中途半端な長さ。
唇に、頬に、目尻に、額に、首すじに、口づけの雨が降るたびに、彼の髪は私の顔をくすぐる。
熱のこもる、かさついた唇の感覚よりも、彼の髪がちくちくと頬を刺すむず痒さの感覚の方がまさってしまい、私は耐えきれず「ふふ」と声を漏らした。
「何だ?」
「だって、くすぐったくて」
「……我慢しろ」
我慢しろだって?こんなにくすぐったいのに。
これじゃあ集中できないじゃないか。
ああ……この長さじゃ結えないのか。
彼の頭の横で、私はくるくると指で円を描く。
すると彼の癖毛は素直に指に巻かれていく。巻き付いたまま、離れないで、絡みついたままでいてくれる。それは自分の、さらりと指から抜ける直毛と違って、どこか執念深さのようなものを感じた。
そっと指を離してみれば描いた円の回数だけ、縦に巻き跡が残った。
健気な髪だ。
「そんなに楽しいか?」
「ええ。君の髪は素直だから」
「俺は素直じゃないのか?」
「素直じゃないのは私です」
対して私の髪はというと、昔から人に褒められた髪質だが、ひねくれた私からすると、いうことをきかない、癖のつかない強情な直毛だ。
彼だって、いうことをきかない髪だと同じ悩みを漏らしていた。彼なりに悩んでいるのだ。
ただ彼の一部だと思うと、たしかに指通りはなめらかではない悩ましい癖毛すらも愛おしく思ってしまうのだ。
「ん……髪、伸ばさないんですか?」
「いっそ伸ばして、結った方が楽かもなと思って迷ってる」
そういえば先月会った時よりも少し伸びたような気もする。
このまま伸ばして結んでくれたら、このくすぐったさから解放されるかもしれない。見慣れた今の長さも好きだけれど、長髪もきっと色気が増して似合うだろう。
「もういいだろう」
「あ……ン……」
しびれを切らした熱い舌がついに口内へと侵入する。
私の躰を撫でていた厚い手は、寝間着のボタンを外していく。
彼から与えられる快楽はすべて享受するつもりの私はされるがままで、抵抗はしない。しかし、頬をくすぐる髪だけはどうにもできず、私の両手は彼の癖毛から離せないでいた。
私の両手が塞がっていることをいいことに、彼の舌は好き勝手に口内をまさぐる。
その先の刺激を私の躰はすでに知っている。
期待に揺れそうになるはしたない腰を、私は薄れつつある理性で必死に抑える。
「ふ……、ンぁッ……!」
器用に動く彼の舌は、私の舌先を絡めて音を立てて吸い上げる。唾液をじゅっと吸われる快感に背筋がぞくぞくと粟立ち、無意識に背中が浮く。すると、彼の太い腕が即座に腰に回された。
こうなったら、もう、逃げることなどできない。
思わず指先に力を込めると彼の——オルトの、コシの強い漆黒の癖毛がまた、指に絡んだ。
「引っ張って抜くなよ」
「はぁ……、善処、します」
厚い胸、硬い掌、私を射抜く、黒曜の鋭い眼。
全てが正反対の私と君。
搦め捕られたのは、はたして私の方か。
こめかみから、後頭部へ。彼の髪に指を差し込み、頭皮をなぞる。コシのある、うねった漆黒の癖毛は指によく絡んだ。
黒い天井から喰むような口づけが降る。
彼の髪はカーテンのように外界を遮断させ、私の視界を黒く染める。
それは長髪というほど長くはないけれど、短髪ともいえない長さ。肩にかかるか、かからないほどの中途半端な長さ。
唇に、頬に、目尻に、額に、首すじに、口づけの雨が降るたびに、彼の髪は私の顔をくすぐる。
熱のこもる、かさついた唇の感覚よりも、彼の髪がちくちくと頬を刺すむず痒さの感覚の方がまさってしまい、私は耐えきれず「ふふ」と声を漏らした。
「何だ?」
「だって、くすぐったくて」
「……我慢しろ」
我慢しろだって?こんなにくすぐったいのに。
これじゃあ集中できないじゃないか。
ああ……この長さじゃ結えないのか。
彼の頭の横で、私はくるくると指で円を描く。
すると彼の癖毛は素直に指に巻かれていく。巻き付いたまま、離れないで、絡みついたままでいてくれる。それは自分の、さらりと指から抜ける直毛と違って、どこか執念深さのようなものを感じた。
そっと指を離してみれば描いた円の回数だけ、縦に巻き跡が残った。
健気な髪だ。
「そんなに楽しいか?」
「ええ。君の髪は素直だから」
「俺は素直じゃないのか?」
「素直じゃないのは私です」
対して私の髪はというと、昔から人に褒められた髪質だが、ひねくれた私からすると、いうことをきかない、癖のつかない強情な直毛だ。
彼だって、いうことをきかない髪だと同じ悩みを漏らしていた。彼なりに悩んでいるのだ。
ただ彼の一部だと思うと、たしかに指通りはなめらかではない悩ましい癖毛すらも愛おしく思ってしまうのだ。
「ん……髪、伸ばさないんですか?」
「いっそ伸ばして、結った方が楽かもなと思って迷ってる」
そういえば先月会った時よりも少し伸びたような気もする。
このまま伸ばして結んでくれたら、このくすぐったさから解放されるかもしれない。見慣れた今の長さも好きだけれど、長髪もきっと色気が増して似合うだろう。
「もういいだろう」
「あ……ン……」
しびれを切らした熱い舌がついに口内へと侵入する。
私の躰を撫でていた厚い手は、寝間着のボタンを外していく。
彼から与えられる快楽はすべて享受するつもりの私はされるがままで、抵抗はしない。しかし、頬をくすぐる髪だけはどうにもできず、私の両手は彼の癖毛から離せないでいた。
私の両手が塞がっていることをいいことに、彼の舌は好き勝手に口内をまさぐる。
その先の刺激を私の躰はすでに知っている。
期待に揺れそうになるはしたない腰を、私は薄れつつある理性で必死に抑える。
「ふ……、ンぁッ……!」
器用に動く彼の舌は、私の舌先を絡めて音を立てて吸い上げる。唾液をじゅっと吸われる快感に背筋がぞくぞくと粟立ち、無意識に背中が浮く。すると、彼の太い腕が即座に腰に回された。
こうなったら、もう、逃げることなどできない。
思わず指先に力を込めると彼の——オルトの、コシの強い漆黒の癖毛がまた、指に絡んだ。
「引っ張って抜くなよ」
「はぁ……、善処、します」
厚い胸、硬い掌、私を射抜く、黒曜の鋭い眼。
全てが正反対の私と君。
搦め捕られたのは、はたして私の方か。
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