Op.2: D.S. Waltz
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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その掉尾 の一音が空間を支配した刹那の静寂の後、大公会堂に拍手が広がった。
「ぁ…………」
そこでようやく魔法が解けたように、セシリアは目の前の女性の肩章 に目が向く。
(女性の…“准将“さん…?私、こんな方と踊っていたの……?)
出会った場所が暗がりだったことと緊張が重なり、セシリアからは長身な彼女の肩章がよく見れていなかったのだ。本来ならダンス手帖 に名前も階級も記されるものだが、型破りなお誘いのおかげでここまで気づきようがなかったのだ。
血の気が引き、次いで一気に顔が熱くなる。
社交がメインとされる夜会。それも年に一度の大規模な催しの日に。
こんな“無名の“医学生に時間を割いてくれた。そう思うと胸がいっぱいになった。
「あ、あの……貴重なお時間をいただき、ありがとうございました……!アームストロング閣下。」
オリヴィエの口元が僅かに上がった。
「こちらこそ、退屈せずに済んだ。礼を言う、セシリア嬢」
オリヴィエはそれだけ返して踵を返す。
「あ……」
呼び止めるべきでないのに、それでも一歩だけ追いかけそうになった。
けれど、その前に。
「エアハート嬢!」
「先ほどのダンス、実に見事でしたな」
「ヴィンセント准将の御息女…お会いできて光栄です」
「バーク=フロスト博士のお孫様で?」
「次のポルカの予約は埋まっていましょうか?」
「あなたのカルネの15番目に、私の名を連ねさせていただく栄誉をー」
「え……あ……!」
セシリアに声をかけようと順番待ちが出来始めた。
(どうしよう……!?)
頭が真っ白になり思わず助けを求めるように振り返った。
オリヴィエはもう会場の出口へ向かっていて、金色の三日月だけが、人々の間から一瞬見えた。
『なら、顔を上げろ』
その声が蘇る。
「…………」
セシリアは小さく息を吸った。
怖い。やっぱり怖い。でも、ほんの少しだけ顔を上げた。
「……お誘いいただき光栄ですが、少し休ませていただこうと思っております」
声はまだ小さい。完璧な淑女の断り方でもない。
それでも、さっきまでの自分なら曖昧に笑って頷いていたより幾分かの進歩を遂げた。
何人かへ頭を下げ、ようやく父のもとへ戻る。
「おかえり、セシリア」
「お、遅くなってごめんなさい……」
「なーんのなんの」
ヴィンセントがぶどうジュースの入ったグラスを渡して娘の頑張りに小さな祝杯をあげる。
「ありがとうございます」
一口飲むと喉はからからだったようで場を忘れて飲み干しそうになった。
そんな娘をヴィンセントは愉快そうに見る。
「しかし、アームストロング家の御令嬢をたらし込むとは、さすが私の娘♪」
「た、たらし込んでなんかいません…!」
「違うのかい?」
「ただ…お誘いくださっただけです」
「向こうから?」
「はい」
「………ふぅん?」
ヴィンセントが妙な顔をした。
「どうかしたのですか?」
「いや?珍しいこともあるものだと思ってな」
「……?」
父は楽しそうに笑っているが、セシリアにその意図は分からなかった。
「ぁ…………」
そこでようやく魔法が解けたように、セシリアは目の前の女性の
(女性の…“准将“さん…?私、こんな方と踊っていたの……?)
出会った場所が暗がりだったことと緊張が重なり、セシリアからは長身な彼女の肩章がよく見れていなかったのだ。本来ならダンス
血の気が引き、次いで一気に顔が熱くなる。
社交がメインとされる夜会。それも年に一度の大規模な催しの日に。
こんな“無名の“医学生に時間を割いてくれた。そう思うと胸がいっぱいになった。
「あ、あの……貴重なお時間をいただき、ありがとうございました……!アームストロング閣下。」
オリヴィエの口元が僅かに上がった。
「こちらこそ、退屈せずに済んだ。礼を言う、セシリア嬢」
オリヴィエはそれだけ返して踵を返す。
「あ……」
呼び止めるべきでないのに、それでも一歩だけ追いかけそうになった。
けれど、その前に。
「エアハート嬢!」
「先ほどのダンス、実に見事でしたな」
「ヴィンセント准将の御息女…お会いできて光栄です」
「バーク=フロスト博士のお孫様で?」
「次のポルカの予約は埋まっていましょうか?」
「あなたのカルネの15番目に、私の名を連ねさせていただく栄誉をー」
「え……あ……!」
セシリアに声をかけようと順番待ちが出来始めた。
(どうしよう……!?)
頭が真っ白になり思わず助けを求めるように振り返った。
オリヴィエはもう会場の出口へ向かっていて、金色の三日月だけが、人々の間から一瞬見えた。
『なら、顔を上げろ』
その声が蘇る。
「…………」
セシリアは小さく息を吸った。
怖い。やっぱり怖い。でも、ほんの少しだけ顔を上げた。
「……お誘いいただき光栄ですが、少し休ませていただこうと思っております」
声はまだ小さい。完璧な淑女の断り方でもない。
それでも、さっきまでの自分なら曖昧に笑って頷いていたより幾分かの進歩を遂げた。
何人かへ頭を下げ、ようやく父のもとへ戻る。
「おかえり、セシリア」
「お、遅くなってごめんなさい……」
「なーんのなんの」
ヴィンセントがぶどうジュースの入ったグラスを渡して娘の頑張りに小さな祝杯をあげる。
「ありがとうございます」
一口飲むと喉はからからだったようで場を忘れて飲み干しそうになった。
そんな娘をヴィンセントは愉快そうに見る。
「しかし、アームストロング家の御令嬢をたらし込むとは、さすが私の娘♪」
「た、たらし込んでなんかいません…!」
「違うのかい?」
「ただ…お誘いくださっただけです」
「向こうから?」
「はい」
「………ふぅん?」
ヴィンセントが妙な顔をした。
「どうかしたのですか?」
「いや?珍しいこともあるものだと思ってな」
「……?」
父は楽しそうに笑っているが、セシリアにその意図は分からなかった。
