Op:7 氷城の舟
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
また一つ角を曲がり、先ほどまで聞こえていた兵たちの声が石壁の向こうへ遠ざかったところで、マイルズは足を止め、セシリアの方に向き直った。
「そういえば、まだ言っていなかったな」
「?」
マイルズが自身の色眼鏡へ手をかけると、薄暗い通路の灯りを受けてレンズが一度白く光った。
その奥から現れた瞳の色を見て、セシリアは目をわずかに見開いた。
鮮やかな赤眼。イシュヴァールで、幾度となく目にした色。
「あ……」
驚きよりも先に、肌や髪の色を見て胸の片隅にあった予感へ、ようやく答えが与えられたようだった。
マイルズは淡々と続けた。
「両親も妻も違う民族だが、祖父がイシュヴァール人でね、その血が濃く出たというだけなんだが」
もしかしたら、とは思っていたが、本人の口から語られる前に、自分から尋ねていいことだとは思えなかった。
「そうだったんですね」
聞いたところで、マイルズを見る目が変わるわけでもない。
何より自分と同じように、できることならイシュヴァールに関する話題に触れられたくないかもしれない。
「あの…どうして、話してくださったんですか?」
「理由は二つあるが…」
今度は少し可笑しそうに口元を緩めた。
「まず私の妻なんだが…君をブリッグズへ呼ぶにあたって、
「は、はい」
会話の文脈が読めず、何の話だろうと首を傾げるセシリアへ、マイルズはごく平然と告げた。
「でそれを辿って発覚したんだが…君のお母上と、妻の母は
「…………」
言葉の意味が頭の中で繋がるまで、数秒かかった。
「え?」
「簡単に言えば、俺と君は遠縁ということになる」
「……マイルズ少佐と、私が…?」
昨日まで知る人などほとんどいないと思っていた北の果てで、案内役を務めてくれている副官から突然そんなことを告げられても、すぐには実感が追いつかない。
ぽかんとするセシリアに、マイルズは小さく笑った。
「といっても、君と直接的な血の繋がりはないし、ここじゃ身内だからといって忖度は通用しない。だが君も知っていれば、少しは気の持ちようが変わるかと思ってね」
「マイルズ少佐……」
当然、親戚だからと甘えるつもりなどない。
ましてこの要塞の総司令官の副官である彼と、急に気安い間柄になれるわけでもないだろう。
それでも、嬉しかった。
誰とも繋がっていないと思っていた北の果てに、家族から枝分かれした細い糸が一本、思いがけずここまで伸びていた。
強張っていたセシリアの表情がかすかに和らぎ、口元に小さな笑みが浮かぶ。
「……はい。少し、ホッとしました。お気遣いいただき、ありがとうございます」
頬を緩めたセシリアに吊られるように微笑んだマイルズだが、次の瞬間には表情がふっと真剣になる。
「それと、もう一つ。これは副官としてじゃなく、イシュヴァールの血を引く一人として、“あなた“にちゃんと言っておきたかった」
呼ばれ方が変わり、セシリアも無意識に姿勢を伸ばした。
「副官という立場上、少将からあの戦いであなたがしたことは聞いている」
赤い瞳が、真っ直ぐにセシリアを見据え、そして頭を下げた。
「同胞を救おうとしてくれたことへの感謝と、心からの敬意を」
「え…!?そ、そんな……頭を上げてください」
慌てて両手を振ったものの、何と返せばいいのか分からない。戸惑いのまま視線を揺らし、かろうじて言葉を拾う。
「私は、そうしないと自分が耐えられなかっただけで…。で、ですから……」
頭を上げたマイルズは、手と目を同時に泳がせるセシリアを見て優しく笑う。
「……“あなた“なら、そう言うと思った」
マイルズは赤い瞳を暗いレンズの奥に隠し、再びブリッグズの副官へ戻る。
「いずれ、兵たちにも君の軍規違反については知らせることになる。だが、ブリ
その言葉を肯定するように、石壁の向こうから遠く誰かの号令が響いた。
「だから事情を知って君を批判したり、面白半分に揶揄したりする奴はいないと思っていい」
「……はい。ありがとうございます」
「だが、改めて言うが、階級も人種も、過去の栄光、経歴の傷…ここではどれも意味を成さない。肝心なのは、君がここに何をもたらすかだ」
「は、はい…!」
厳しい言葉のはずなのに、セシリアは少しだけ目を瞬かせた。
勝手に貼られていくレッテルなんかより、ずっと公平で心地よいものに思えたのだ。
「特に医療班はとくに長年ここを支えてきた。中央とも、君がお祖父さんから学んできたものともやり方の違いがあるだろうから、現場の彼らをよく見ておくといい。」
「はい」
「だが、合わせろとは言わない。現場を見た上で気づいたことがあれば遠慮するな。たとえDr.Dが相手でもな」
「ドクター、D……?」
「ああ。医療班のトップだ」
