Op.6.5: 北へ北へ
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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正式な着任は明日からだ。今はまだ、ブリッグズの軍医でも、自分の部下でもない。
そのわずかな猶予を理由にするように、オリヴィエは眠ってしまったセシリアへ厚手の外套をそっと掛けた。
大きな布が華奢な身体を覆い、膝近くまで包み込む。
それから少しして、線路の継ぎ目を越えた車体が大きく左右へ揺れ、眠ったままのセシリアの身体が、オリヴィエとは反対側の空席へ崩れかけた。
倒れ込むより早く、オリヴィエの腕がその肩を抱き留めた。
「ん…」
相当疲れているのか、まったく目を覚ます様子がない。
細い身体を起こし、次に車体が揺れてもいいよう、セシリアのこめかみを自分の肩へそっと預けさせた。
彼女の長い睫毛の下では、掛けた外套のファーが寝息に合わせ、小さく規則的に揺れている。オリヴィエはそれを、なんとなく眺めていた。

通路の向こうで、マイルズは顔を上げた。
少将が優秀な人材を得るために手間を惜しまないこと自体は、何も珍しくない。
使える者なら拾うし、役に立たなければ容赦なく切る。
それが弱肉強食を掟とするブリッグズの象徴、オリヴィエ・ミラ・アームストロングだ。
だが、今回ばかりは随分と手が込んでいた。
列車事故に居合わせた女医についての記事が出回らぬよう手を回し、表向きの経歴だけでは飽き足らず、私費で公認家系図まで引っ張り出させ、素性を洗った。
普段あれほど嫌っている社交の場にまで出向き、彼女を引き抜くため、要人たちに接近した。
命令すれば容易いところを、わざわざ数日の中央滞在期間を設けて、本人が「行く」と言うのを待つ構えだった。
医療班の強化が第一の目的であることを、マイルズは疑っていない。
だがそれだけなら、眠った女の身体が傾いた程度で、ああまで自然に手を伸ばすものだろうか。
オリヴィエは肩の重みを気にする様子もなく、セシリアの寝顔へ目を落としていた。
その眼差しに何が宿っているのかまでは、マイルズにも分からない。
だが、副官の仕事は主の胸中を暴くことではない。
まして、この主に限っては、国防に障るような私情の挟み方をするわけがない。
マイルズは何事も見なかったように目を伏せた。
そのわずかな猶予を理由にするように、オリヴィエは眠ってしまったセシリアへ厚手の外套をそっと掛けた。
大きな布が華奢な身体を覆い、膝近くまで包み込む。
それから少しして、線路の継ぎ目を越えた車体が大きく左右へ揺れ、眠ったままのセシリアの身体が、オリヴィエとは反対側の空席へ崩れかけた。
倒れ込むより早く、オリヴィエの腕がその肩を抱き留めた。
「ん…」
相当疲れているのか、まったく目を覚ます様子がない。
細い身体を起こし、次に車体が揺れてもいいよう、セシリアのこめかみを自分の肩へそっと預けさせた。
彼女の長い睫毛の下では、掛けた外套のファーが寝息に合わせ、小さく規則的に揺れている。オリヴィエはそれを、なんとなく眺めていた。

通路の向こうで、マイルズは顔を上げた。
少将が優秀な人材を得るために手間を惜しまないこと自体は、何も珍しくない。
使える者なら拾うし、役に立たなければ容赦なく切る。
それが弱肉強食を掟とするブリッグズの象徴、オリヴィエ・ミラ・アームストロングだ。
だが、今回ばかりは随分と手が込んでいた。
列車事故に居合わせた女医についての記事が出回らぬよう手を回し、表向きの経歴だけでは飽き足らず、私費で公認家系図まで引っ張り出させ、素性を洗った。
普段あれほど嫌っている社交の場にまで出向き、彼女を引き抜くため、要人たちに接近した。
命令すれば容易いところを、わざわざ数日の中央滞在期間を設けて、本人が「行く」と言うのを待つ構えだった。
医療班の強化が第一の目的であることを、マイルズは疑っていない。
だがそれだけなら、眠った女の身体が傾いた程度で、ああまで自然に手を伸ばすものだろうか。
オリヴィエは肩の重みを気にする様子もなく、セシリアの寝顔へ目を落としていた。
その眼差しに何が宿っているのかまでは、マイルズにも分からない。
だが、副官の仕事は主の胸中を暴くことではない。
まして、この主に限っては、国防に障るような私情の挟み方をするわけがない。
マイルズは何事も見なかったように目を伏せた。
