Op.6 : 熾天使のカラー
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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午後の付帯協議には、人事局、軍医監部、中央司令部、それに指定研究の関係者としてガードナー准将が残った。
軍医としてセシリア・エアハートを指名すると、前夜の根回しが効き、適性については思いのほか早く過半数の賛同が集まった。
「要塞軍医官としての適性、定員上の配置について異論なし。ただし、セシリア・エアハートの所属・諸条件を踏まえ、最終決定を大総統府に委ねる」
残った最後の障壁を取り除きに、オリヴィエはその足で大総統執務室へ向かった。
「入りたまえ」
「失礼します」
すでにブラッドレイの机の上にはオリヴィエの上申書が置かれていた。当の部屋主は、執務室の窓からの景色を、紅茶片手に見下ろしている。
「セシリア・エアハートを希望しているそうだね」
「はい」
カチャリと陶器が触れ合う音と遅れて豊潤なアッサムの、どこか燻りを帯びた重厚な香気が執務室を満たしていく。
「君は…東の熾天使を随分高く買っているようだ」
「我が国を守るためならば、天使だろうと悪魔だろうと、使えるものは使うのみです」
不退転の決意が籠った返答に、ブラッドレイは老獪な笑みを浮かべた。
「よろしい。ただし、最長“4年”だ」
「……1914年まで、ですか」
「左様」
ブラッドレイは椅子へ腰掛けると、紅茶を端に置いてオリヴィエの提出した書面にペンを走らせた。
もう一押し、説得が必要だと踏んでいた。
あっさり承認されたものの、そのあまりにも具体的な期限にオリヴィエの眉が僅かに寄った。
「雪解けまでとしようかの。研究は継続。定期報告も従来通り。必要資材は中央より適宜支給。研究上必要なら第三研究所へ一時帰還。国家上の必要が生じれば、期限内でも中央へ召還する」
それなりの条件は想定していた。
だが、ここまで明確に期限を区切るとは、相当手放したくないらしい。
「なぜ“4年”なので?」
「君の手腕なら、それくらいの期間で北方の医療体制を整えられるだろう?君も知っての通り、貴重な人材なのでな。無期限でという訳にはいかんのだよ」
「…」
大総統の言葉に納得が行ったわけではないものの、たしかに一から医療体制を作るわけでもない。
4年あれば、北方の医療へ変革をもたらすには十分な時間だろう。
「どうするね?嫌だと言うなら、別の医者を充てても構わんが」
書き上げた書類を片手でオリヴィエの前へ差し出す。
取るも取らぬも自由だと碧眼が告げている。
この条件を飲まなければ、今後セシリアを引き抜くことは、ほぼ不可能になるだろう。
「……いえ。閣下のご高配に感謝いたします」
「うむ。4年で、彼女が北で何を成すのか。私も興味があるよ」
オリヴィエはついに、この半年求めていた書類を手にした。
たった1枚の紙切れ。たった1人の人材。
そのために、随分と多くの手間と人間を動かされた。
だが、これもあくまでスタートラインだ。
相手が国家錬金術師である以上、軍から異動を命じられれば、従うほかない。
だが、あれほど愚直に己の道を選ぶ人間へ、今度は自分が行き先を押しつけては、中央が彼女にしていることと本質的には大差がない。
次に必要なのは認可印ではない。
紙の上の署名でも動かせない、セシリア・エアハート本人の意思だ。
オリヴィエは廊下で控えていたマイルズを率いて、セントラル病院へ足を向けた。
軍医としてセシリア・エアハートを指名すると、前夜の根回しが効き、適性については思いのほか早く過半数の賛同が集まった。
「要塞軍医官としての適性、定員上の配置について異論なし。ただし、セシリア・エアハートの所属・諸条件を踏まえ、最終決定を大総統府に委ねる」
残った最後の障壁を取り除きに、オリヴィエはその足で大総統執務室へ向かった。
「入りたまえ」
「失礼します」
すでにブラッドレイの机の上にはオリヴィエの上申書が置かれていた。当の部屋主は、執務室の窓からの景色を、紅茶片手に見下ろしている。
「セシリア・エアハートを希望しているそうだね」
「はい」
カチャリと陶器が触れ合う音と遅れて豊潤なアッサムの、どこか燻りを帯びた重厚な香気が執務室を満たしていく。
「君は…東の熾天使を随分高く買っているようだ」
「我が国を守るためならば、天使だろうと悪魔だろうと、使えるものは使うのみです」
不退転の決意が籠った返答に、ブラッドレイは老獪な笑みを浮かべた。
「よろしい。ただし、最長“4年”だ」
「……1914年まで、ですか」
「左様」
ブラッドレイは椅子へ腰掛けると、紅茶を端に置いてオリヴィエの提出した書面にペンを走らせた。
もう一押し、説得が必要だと踏んでいた。
あっさり承認されたものの、そのあまりにも具体的な期限にオリヴィエの眉が僅かに寄った。
「雪解けまでとしようかの。研究は継続。定期報告も従来通り。必要資材は中央より適宜支給。研究上必要なら第三研究所へ一時帰還。国家上の必要が生じれば、期限内でも中央へ召還する」
それなりの条件は想定していた。
だが、ここまで明確に期限を区切るとは、相当手放したくないらしい。
「なぜ“4年”なので?」
「君の手腕なら、それくらいの期間で北方の医療体制を整えられるだろう?君も知っての通り、貴重な人材なのでな。無期限でという訳にはいかんのだよ」
「…」
大総統の言葉に納得が行ったわけではないものの、たしかに一から医療体制を作るわけでもない。
4年あれば、北方の医療へ変革をもたらすには十分な時間だろう。
「どうするね?嫌だと言うなら、別の医者を充てても構わんが」
書き上げた書類を片手でオリヴィエの前へ差し出す。
取るも取らぬも自由だと碧眼が告げている。
この条件を飲まなければ、今後セシリアを引き抜くことは、ほぼ不可能になるだろう。
「……いえ。閣下のご高配に感謝いたします」
「うむ。4年で、彼女が北で何を成すのか。私も興味があるよ」
オリヴィエはついに、この半年求めていた書類を手にした。
たった1枚の紙切れ。たった1人の人材。
そのために、随分と多くの手間と人間を動かされた。
だが、これもあくまでスタートラインだ。
相手が国家錬金術師である以上、軍から異動を命じられれば、従うほかない。
だが、あれほど愚直に己の道を選ぶ人間へ、今度は自分が行き先を押しつけては、中央が彼女にしていることと本質的には大差がない。
次に必要なのは認可印ではない。
紙の上の署名でも動かせない、セシリア・エアハート本人の意思だ。
オリヴィエは廊下で控えていたマイルズを率いて、セントラル病院へ足を向けた。
