Op.6 : 熾天使のカラー
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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次の標的を探してホールを抜けた。
とある部屋のアーチ状の広い開口部を抜けると、鮮やかな2台のビリヤード台が鎮座する、男たちのための遊戯場があった。
撞球の乾いた音が小気味よく響き、アーチウェイを挟んだ奥には紳士たちのための喫煙室が広がっている。
立ち上る葉巻の青い煙がガス灯の光まで薄く霞ませていた。
オリヴィエは、そんなゲームに興じる若手将校たちの賑やかな笑い声を見守りながら、ブランデーを嗜む軍医監部の高官を見つけた。
煙の向こうでその男と静かに言葉を交わす氷の女王を眺めながら、革張りの深いソファへ腰掛けた男たちが、煙草を片手に琥珀色を傾けていた。
「あれはブリッグズの……やはり北壁が例の東のに目をつけているというのは本当なんでしょうかね」
「お飾りをあの現金な女郎が欲しがるものですかねぇ」
「それも国家錬金術師だ。そう簡単に動かせるものか……」
「だから見物というもの」
オリヴィエは聞こえてきた下卑た声に仄かに冷えた笑みを浮かべ、軍医監部の高官へ歩み寄った。
一方、その喫煙室の隅。
将校らの話を聞いていたマスタングが、すぐ隣のグラマンへ小声で尋ねた。
「中将。あちらの話……誰のことです?」
「あぁ、例の熾天使ちゃんのことだね」
「……! セシリア・エアハートですか」
「前から寒冷地特有の傷病対策が不十分だってんで、北方から医療面のテコ入れの話は上がってた。ブリッグズのご指名は、あの子が最有力候補ってわけだ」
マスタングの脳裏に数日前のヒューズとの電話が蘇る。
“異動“
その手があったのか。
「けど、どうだかねぇ」
グラマンは髭を摘み、宙へ漂う煙を眺めた。
「というと?」
「タイミングが悪い。時の人になってるあの子をこの時期に掻っ攫っちゃ、方々からいい顔されない。それが分からない女じゃないはずだ。自身の宣伝道具に使うのか、研究の盗用が狙いか……邪推されても文句は言えまい」
「……なるほど」
「あっちには実戦経験豊富な軍医が1人いたはずなのに…何を急いでるのやらね」
「……」
グラマンの話を聞く限り、確かにこれほど急いて彼女を引き抜くメリットが、ブリッグズの北壁にあるとは思えない。
それでも彼女の噂が出回っているということは、すでに何かが動き出しているということだ。
オリヴィエの話を直接聞いてみたくなった。
「……すみません、閣下。少し失礼します」
オリヴィエと軍医監部の高官がホールの方へ出ていくのを見て、マスタングは立ち上がった。
グラマンに馳走になったシガレットは、まだ半分も吸っていない。
それを気にする様子もなく、グラマンは眼鏡越しにマスタングへ悪戯っぽい笑みを向けた。
「“社会科見学”かな?」
「そんなところです」
「殺されんようにの〜」
グラマンの揶揄を背に受け、マスタングは喫煙室を出た。
とある部屋のアーチ状の広い開口部を抜けると、鮮やかな2台のビリヤード台が鎮座する、男たちのための遊戯場があった。
撞球の乾いた音が小気味よく響き、アーチウェイを挟んだ奥には紳士たちのための喫煙室が広がっている。
立ち上る葉巻の青い煙がガス灯の光まで薄く霞ませていた。
オリヴィエは、そんなゲームに興じる若手将校たちの賑やかな笑い声を見守りながら、ブランデーを嗜む軍医監部の高官を見つけた。
煙の向こうでその男と静かに言葉を交わす氷の女王を眺めながら、革張りの深いソファへ腰掛けた男たちが、煙草を片手に琥珀色を傾けていた。
「あれはブリッグズの……やはり北壁が例の東のに目をつけているというのは本当なんでしょうかね」
「お飾りをあの現金な女郎が欲しがるものですかねぇ」
「それも国家錬金術師だ。そう簡単に動かせるものか……」
「だから見物というもの」
オリヴィエは聞こえてきた下卑た声に仄かに冷えた笑みを浮かべ、軍医監部の高官へ歩み寄った。
一方、その喫煙室の隅。
将校らの話を聞いていたマスタングが、すぐ隣のグラマンへ小声で尋ねた。
「中将。あちらの話……誰のことです?」
「あぁ、例の熾天使ちゃんのことだね」
「……! セシリア・エアハートですか」
「前から寒冷地特有の傷病対策が不十分だってんで、北方から医療面のテコ入れの話は上がってた。ブリッグズのご指名は、あの子が最有力候補ってわけだ」
マスタングの脳裏に数日前のヒューズとの電話が蘇る。
“異動“
その手があったのか。
「けど、どうだかねぇ」
グラマンは髭を摘み、宙へ漂う煙を眺めた。
「というと?」
「タイミングが悪い。時の人になってるあの子をこの時期に掻っ攫っちゃ、方々からいい顔されない。それが分からない女じゃないはずだ。自身の宣伝道具に使うのか、研究の盗用が狙いか……邪推されても文句は言えまい」
「……なるほど」
「あっちには実戦経験豊富な軍医が1人いたはずなのに…何を急いでるのやらね」
「……」
グラマンの話を聞く限り、確かにこれほど急いて彼女を引き抜くメリットが、ブリッグズの北壁にあるとは思えない。
それでも彼女の噂が出回っているということは、すでに何かが動き出しているということだ。
オリヴィエの話を直接聞いてみたくなった。
「……すみません、閣下。少し失礼します」
オリヴィエと軍医監部の高官がホールの方へ出ていくのを見て、マスタングは立ち上がった。
グラマンに馳走になったシガレットは、まだ半分も吸っていない。
それを気にする様子もなく、グラマンは眼鏡越しにマスタングへ悪戯っぽい笑みを向けた。
「“社会科見学”かな?」
「そんなところです」
「殺されんようにの〜」
グラマンの揶揄を背に受け、マスタングは喫煙室を出た。
