Op.4: 汀の錬金術師
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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北方軍の代表として式典に列席していたオリヴィエ・ミラ・アームストロングは、前へ進み出た女を遠くから眺めていた。
初めは、どこかで見た顔だと思った。
横顔が見えた瞬間、記憶の底に眠っていた色が蘇る。
「セシリア・エアハート」
キング・ブラッドレイの声が響く。
(……やはりあの女だったか)
ヒヤシンスの花を思わせるドレスをまとい、パーゴラに篭って羊皮紙の文字を食い入るように見つめていた女。
あの夜のセシリアは、人と目を合わせるだけでも緊張し、差し出した手を取る時にさえ、これでいいのかと確かめるようにこちらを見上げていたが。
ただし将来について訊いた時。
『医者になります』
あの時だけは、言葉に迷いがなかった。
社交界の輪へ入ることにはあれほど不器用なくせに、自分が進もうとしている道についてだけは、妙なほど真っ直ぐだった。
後にも先にも、言葉を交わした令嬢など他にもいたし、立場上、将校の娘も貴族の女も、顔と名を覚えておかざるを得ない相手はいくらでもいる。
それでも、"あの夜"の女は忘れようがなかった。
今のセシリアには、当時の面影が確かにある。
頬からは幼さが抜け、立ち姿も変わった。
それだけが理由なのだろうか?おずおずと差し出された記憶の中の手と、静かに指を揃えている手が、妙に重ならない。
錬金術を使える医者になる。
望み通り、医師免許を得た。国家錬金術師にまでなった。
本来なら今日こそ、語った未来へ辿り着いた日であるはずだったというのに。
東の
医師として功績を称えている人間へ、軍はナースドレスを着せ、戴帽までさせている。
試験を経ない異例の医師免許。
同じく異例の国家錬金術師資格。
一つ一つなら説明のつきそうなことが、これだけ揃うと不自然さを覚える。
そして何より。
セシリアの目に光を感じられない。大勢から称賛されているというのに、喜びを隠している顔ですらなかった。
夢を叶えた女の顔ではない。
むしろ、望んだものを一つずつ並べられ、それを自分のものだと言い聞かされているように見えた。
オリヴィエの青い目が僅かに細まる。
自分の進む道だけは迷わず口にした女と、すぐそこにいるセシリアの間に何があったのか。
知らない空白の時が三年近くある。最前列でその光景を見ていながら、その距離が遠く感じる。
その事実が、無性に気に障った。
式典が終わると、セシリアは誰とも目を合わせず、逃げるように会場を去った。
オリヴィエはその背を目で追った。
その夜の祝賀パーティーで声をかけようと思ったが、セシリアは姿を見せなかった。
(何があった?)

