Op.4: 汀の錬金術師
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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「エアハート!こっちへ来てくれ!」
「はい!」
「下腹部の銃創。救護所で止血はしてあるが、血圧が落ちてる」
差し出された記録へ目を走らせながら、セシリアは患者の腹部へそっと触れた。
「腹腔内出血の可能性があります。手術室2へ。輸液もこのまま続けてくださいすぐに準備に入ります」
「よし。衛生兵、運べ!」
以前なら指示を待って立ち尽くしていた場所で、自分の判断を待つ者がいる。
怒鳴りつけるために呼ばれていた名が、いつしか助けを求めて呼ばれるようになった。
交代の休憩でようやく腰を下ろしていると、最初の頃ひときわ厳しかった軍医が隣へやって来た。
「あんた、ドクター・バーク=フロストの孫だったんだな」
「え、ええ……」
「道理で学生でもこんなところへ引っ張り出されるわけだ。お前の手技にもっと早く気づいて部屋を一つ任すべきだった。」
「え…?」
「悪かったよ。俺も余裕がなくて、随分きつく当たっちまった」
「そんな……私が邪魔をしていたのは、ほ本当ですから…。あちこち任せてもらえなかったら、ここの機能を知らないままで、ですからその……ご指摘、ぁ、ありがとうございます」
少し詰まりながらも真面目に礼を言うセシリアを、軍医はしばらく妙なものを見るように眺めた。
やがて、肩を揺らして小さく笑う。
「変わったお嬢さんだな、あんた」
初めて「ありがとな、先生」と呼ばれたのは、それから間もなくのことだった。
腹部の手術を終え、何日も高熱と戦った兵士が、ようやく後送される朝だった。
「世話になったな」
「先生ではありません。私、まだ学生で……」
反射的に訂正すると、男は呆れたように笑った。
「腹ァ開かれて、死にかけて、またこうやって喋れるようになった。その間ずっと診てくれたのはあんただろ?」
「それは……はい」
「なら、俺には先生だ」
その一言が、ひどく嬉しかった。
清潔な診察室とは程遠い。
窓の外では次の輸送車両が唸り、廊下には消毒薬と汗、それでも消し切れない血の匂いが薄く残っている。
白衣の袖口には何度洗っても落ち切らない染みが増え、指先は消毒液で荒れていた。
それでも祖父が何度もそうしていたように、自分の手で一人の人間を、生と死の境からこちら側へ連れ戻せた。
幼い頃に母に聞かせられた童話の、民に愛される王様や宝石をまとった姫君よりも、ずっと眩しく見えた、自分だけの英雄。
そこへ、ほんの少し近づけた気がした。
「はい!」
「下腹部の銃創。救護所で止血はしてあるが、血圧が落ちてる」
差し出された記録へ目を走らせながら、セシリアは患者の腹部へそっと触れた。
「腹腔内出血の可能性があります。手術室2へ。輸液もこのまま続けてくださいすぐに準備に入ります」
「よし。衛生兵、運べ!」
以前なら指示を待って立ち尽くしていた場所で、自分の判断を待つ者がいる。
怒鳴りつけるために呼ばれていた名が、いつしか助けを求めて呼ばれるようになった。
交代の休憩でようやく腰を下ろしていると、最初の頃ひときわ厳しかった軍医が隣へやって来た。
「あんた、ドクター・バーク=フロストの孫だったんだな」
「え、ええ……」
「道理で学生でもこんなところへ引っ張り出されるわけだ。お前の手技にもっと早く気づいて部屋を一つ任すべきだった。」
「え…?」
「悪かったよ。俺も余裕がなくて、随分きつく当たっちまった」
「そんな……私が邪魔をしていたのは、ほ本当ですから…。あちこち任せてもらえなかったら、ここの機能を知らないままで、ですからその……ご指摘、ぁ、ありがとうございます」
少し詰まりながらも真面目に礼を言うセシリアを、軍医はしばらく妙なものを見るように眺めた。
やがて、肩を揺らして小さく笑う。
「変わったお嬢さんだな、あんた」
初めて「ありがとな、先生」と呼ばれたのは、それから間もなくのことだった。
腹部の手術を終え、何日も高熱と戦った兵士が、ようやく後送される朝だった。
「世話になったな」
「先生ではありません。私、まだ学生で……」
反射的に訂正すると、男は呆れたように笑った。
「腹ァ開かれて、死にかけて、またこうやって喋れるようになった。その間ずっと診てくれたのはあんただろ?」
「それは……はい」
「なら、俺には先生だ」
その一言が、ひどく嬉しかった。
清潔な診察室とは程遠い。
窓の外では次の輸送車両が唸り、廊下には消毒薬と汗、それでも消し切れない血の匂いが薄く残っている。
白衣の袖口には何度洗っても落ち切らない染みが増え、指先は消毒液で荒れていた。
それでも祖父が何度もそうしていたように、自分の手で一人の人間を、生と死の境からこちら側へ連れ戻せた。
幼い頃に母に聞かせられた童話の、民に愛される王様や宝石をまとった姫君よりも、ずっと眩しく見えた、自分だけの英雄。
そこへ、ほんの少し近づけた気がした。
