Op.4: 汀の錬金術師
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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オリヴィエとあの夜会で出会ってから、一年ほどが過ぎた。
長期化するイシュヴァール内乱では、戦火そのものに加え、慢性的な医療人員の不足が深刻になっていた。
前線から運び込まれる負傷者に対して軍医も衛生兵もまるで足りず、野戦病院では処置の順番を待つわずかな時間さえ、生死を分けることがある。
まだメディカルスクールを卒業しておらず、正式な医師免許すら持たないセシリアまで徴用対象となったのは、そんな最中だった。
医学界の権威であるビル・バーク=フロストの孫として幼い頃から医術を学び、医療錬金術まで扱える。猫の手すら奪い合うような戦場では、学生という肩書きに構っている余裕などなかった。
そしてセシリア自身も、そこへ行けば自分は人を救えるのだと思っていた。
最初の数日で、その自信は呆気なく砕けた。
「おいそこに立つな!次の担架が入れん!」
「っ、す、すみません!」
「謝る暇あったら次の患者運んで来い!」
「おいATSまだか!」
「アンプテ待ちはそっちじゃねぇこっちの部屋連れてこい!」
前線から十数キロと離れた場所に設けられた野戦病院は、セシリアが知っている病院とは似ても似つかなかった。
徴用された民家や学校、それだけでは足りず張り巡らされた天幕。手術室、病床、薬品庫、器械の滅菌を行う区画、負傷兵をさらに後方へ送るための待機場所。そのすべてが一つの巨大な生き物のように休みなく動いている。
ここへ届く頃には、負傷兵はすでに前線の救護所で最低限の止血や固定を施されていた。
だからといって、安心できる状態という意味ではない。
銃弾が腹腔内に残っている者。砲撃で頭部を損傷した者。壊死を始めた四肢を切断しなければ生きられない者。感染を起こし、高熱の中で譫言を繰り返す者。
ここは前線から引き渡された命を繋ぐ場所だった。
傷を見れば、何を調べるべきかは分かる。脈、呼吸、意識、出血。祖父の研究所へ出入りすることを許され、貴族の令嬢なら聞いただけで顔を青くしそうな年頃から、動物を使った解剖や外科手技にも触れてきた。その積み重ねには、密かな自負もあった。
けれど、知識があることと、この場所を動かせることはまるで別だった。
一人の手術が始まっている傍らで、次の患者が運び込まれる。
別室では切断術の準備が進み、病床では術後の患者が発熱し、衛生兵が呼びに来る。
縫合糸や麻酔薬の残量を気にしながら、使い終えた器械は直ちに滅菌へ回され、空いた寝台には次の負傷者が入る。
手術が終われば、それで一人の治療が終わるわけでもない。
出血は再開していないか。創感染していないか。熱は上がっていないか。食事を摂れるか。傷を抱えたまま長距離の後送に耐えられるか。
数日、時には数週間をここで過ごし、回復した兵士は原隊へ。より長い療養を要する者は、病院列車や輸送車両に乗せられてさらに後方へ送られる。

長期化するイシュヴァール内乱では、戦火そのものに加え、慢性的な医療人員の不足が深刻になっていた。
前線から運び込まれる負傷者に対して軍医も衛生兵もまるで足りず、野戦病院では処置の順番を待つわずかな時間さえ、生死を分けることがある。
まだメディカルスクールを卒業しておらず、正式な医師免許すら持たないセシリアまで徴用対象となったのは、そんな最中だった。
医学界の権威であるビル・バーク=フロストの孫として幼い頃から医術を学び、医療錬金術まで扱える。猫の手すら奪い合うような戦場では、学生という肩書きに構っている余裕などなかった。
そしてセシリア自身も、そこへ行けば自分は人を救えるのだと思っていた。
最初の数日で、その自信は呆気なく砕けた。
「おいそこに立つな!次の担架が入れん!」
「っ、す、すみません!」
「謝る暇あったら次の患者運んで来い!」
「おいATSまだか!」
「アンプテ待ちはそっちじゃねぇこっちの部屋連れてこい!」
前線から十数キロと離れた場所に設けられた野戦病院は、セシリアが知っている病院とは似ても似つかなかった。
徴用された民家や学校、それだけでは足りず張り巡らされた天幕。手術室、病床、薬品庫、器械の滅菌を行う区画、負傷兵をさらに後方へ送るための待機場所。そのすべてが一つの巨大な生き物のように休みなく動いている。
ここへ届く頃には、負傷兵はすでに前線の救護所で最低限の止血や固定を施されていた。
だからといって、安心できる状態という意味ではない。
銃弾が腹腔内に残っている者。砲撃で頭部を損傷した者。壊死を始めた四肢を切断しなければ生きられない者。感染を起こし、高熱の中で譫言を繰り返す者。
ここは前線から引き渡された命を繋ぐ場所だった。
傷を見れば、何を調べるべきかは分かる。脈、呼吸、意識、出血。祖父の研究所へ出入りすることを許され、貴族の令嬢なら聞いただけで顔を青くしそうな年頃から、動物を使った解剖や外科手技にも触れてきた。その積み重ねには、密かな自負もあった。
けれど、知識があることと、この場所を動かせることはまるで別だった。
一人の手術が始まっている傍らで、次の患者が運び込まれる。
別室では切断術の準備が進み、病床では術後の患者が発熱し、衛生兵が呼びに来る。
縫合糸や麻酔薬の残量を気にしながら、使い終えた器械は直ちに滅菌へ回され、空いた寝台には次の負傷者が入る。
手術が終われば、それで一人の治療が終わるわけでもない。
出血は再開していないか。創感染していないか。熱は上がっていないか。食事を摂れるか。傷を抱えたまま長距離の後送に耐えられるか。
数日、時には数週間をここで過ごし、回復した兵士は原隊へ。より長い療養を要する者は、病院列車や輸送車両に乗せられてさらに後方へ送られる。

