Op.3: ヒヤシンスの君
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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「すみません……! ありがとうございます」
女は慌てて受け取ると、見られたことが恥ずかしいのか胸元へ抱え込んだ。
オリヴィエは何も言わず、その姿を眺めた。前半だけ埋められたカルネ。
誰もいない庭。
こんな場所まで逃げてきて、難解な羊皮紙を開いている。
大体の事情は察せられた。
「ここは冷えましょう。何故こんなところに?」
「それは……ひ…人が……多いところが苦手で」
馬鹿正直な娘だ。
「ぁ、いえ……ダンスは好きなんです……! 父が将来の夢のための機会だからと連れてきてくれたので、本当はもう少し頑張らなければいけないのですが……」
緊張のせいか、訊いていないところまで説明してくる。
どうやら嘘をつくより、正直に喋ってしまう方が楽な性分らしい。
オリヴィエは閉ざされた大公会堂の扉へ目を向けた。
楽団の音が、壁越しに微かに届いている。
それから、もう一度女を見る。
夜会から逃げてきたくせに、戻らなければならないとは思っている。
手帖 の前半が埋まった理由も、おそらく似たようなものだろう。
オリヴィエは片手を差し出した。この女なりに励んだ結果に違いない。
「では、一曲いかがか?」
「……え?」
予想通り、目を丸くした。
だが、オリヴィエ自身も驚いていた。
(戯れにせよ、このような小娘になぜ私は興が?)
とはいえ、一度出した手を引くわけにもいかない。
退屈が限度を超えたせいだろうと雑念を片付け、女の返答を待った。女は差し出された手とオリヴィエの顔を、何度も見比べている。
「良いのですか……? 実は私は女で……」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。わかった途端、笑いが漏れる。
「フッ。見れば分かる」
女の頬がますます赤くなりながらも、まだ手は伸びてこない。
前半だけ律儀に埋めた女である。こちらから誘えば、疲れていても頷きかねない。
「ここでまだ休みたいなら、無理に付き合うことはない」
「…………」
逃げ道を作ってやると、今度はまっすぐこちらを見た。
その表情から、僅かに強張りが抜ける。
断っても構わないと理解したのだろう。
それでも、しばらくして差し出された白い手は、オリヴィエの手袋の上へそっと重なった。
手袋越しでも、その手が細く柔らかなのが伝わってくる。
「……よろこんで」
その声を聞いて、オリヴィエは彼女をパーゴラの中から連れ出した。
女は慌てて受け取ると、見られたことが恥ずかしいのか胸元へ抱え込んだ。
オリヴィエは何も言わず、その姿を眺めた。前半だけ埋められたカルネ。
誰もいない庭。
こんな場所まで逃げてきて、難解な羊皮紙を開いている。
大体の事情は察せられた。
「ここは冷えましょう。何故こんなところに?」
「それは……ひ…人が……多いところが苦手で」
馬鹿正直な娘だ。
「ぁ、いえ……ダンスは好きなんです……! 父が将来の夢のための機会だからと連れてきてくれたので、本当はもう少し頑張らなければいけないのですが……」
緊張のせいか、訊いていないところまで説明してくる。
どうやら嘘をつくより、正直に喋ってしまう方が楽な性分らしい。
オリヴィエは閉ざされた大公会堂の扉へ目を向けた。
楽団の音が、壁越しに微かに届いている。
それから、もう一度女を見る。
夜会から逃げてきたくせに、戻らなければならないとは思っている。
オリヴィエは片手を差し出した。この女なりに励んだ結果に違いない。
「では、一曲いかがか?」
「……え?」
予想通り、目を丸くした。
だが、オリヴィエ自身も驚いていた。
(戯れにせよ、このような小娘になぜ私は興が?)
とはいえ、一度出した手を引くわけにもいかない。
退屈が限度を超えたせいだろうと雑念を片付け、女の返答を待った。女は差し出された手とオリヴィエの顔を、何度も見比べている。
「良いのですか……? 実は私は女で……」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。わかった途端、笑いが漏れる。
「フッ。見れば分かる」
女の頬がますます赤くなりながらも、まだ手は伸びてこない。
前半だけ律儀に埋めた女である。こちらから誘えば、疲れていても頷きかねない。
「ここでまだ休みたいなら、無理に付き合うことはない」
「…………」
逃げ道を作ってやると、今度はまっすぐこちらを見た。
その表情から、僅かに強張りが抜ける。
断っても構わないと理解したのだろう。
それでも、しばらくして差し出された白い手は、オリヴィエの手袋の上へそっと重なった。
手袋越しでも、その手が細く柔らかなのが伝わってくる。
「……よろこんで」
その声を聞いて、オリヴィエは彼女をパーゴラの中から連れ出した。
