Op.3: ヒヤシンスの君
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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女性でありながら将官。
しかもアームストロング家の長女となれば、格好の話題なのだろう。
「女性の身で、そのような場所へ……わたくしでしたら、とても」
そう言って扇の向こうで微笑みながら、楽団が次の曲を奏でる頃には、彼女たちの目はフロアを行き交う男たちへ向かっている。
当然だろう。この場へ来る令嬢たちが待っているのは、家柄のいい青年や将校から差し出される手であって、女の自分ではない。
女にエスコートされることを期待して、わざわざ自分の周囲をうろつくような変わり者は一人としていない。
(勝手なものだ)
別段、誘いたいとも思わなかった。だからといって、誘われるのを待つ趣味もない。
誰が誰を次期当主だと思おうが、誰の腕にぶら下がって踊りたがろうが、知ったことではない。
自分の価値を、こんな場所にいる連中の物差しで測ってもらう必要など最初からなかった。
ただ。
(時間の無駄だ)
それだけだった。
笑顔の裏を探り、言葉の端から利害を拾い、昨日まで碌に口を利かなかった者同士が今夜は旧知の友人のように笑う。
軍も大概だが、少なくとも前線では銃口を向けてくる相手が敵だと分かる。
ここではそうはいかない。
楽団の音が大きく膨らむ。
オリヴィエは空になったグラスを給仕へ預けると、誰にも断らずその場を離れた。
ホールにつながる重い扉が閉じるにつれ、背後の音楽と笑い声が遠ざかっていった。
「…………」
まだ冬の名残を感じさせる夜気が頬に触れる。
もっとも、ブリッグズの夜気に比べれば、セントラルの春など温いものだった。
回廊を歩き、中庭へ出ると、月明かりの下、春の花々が風に揺れていた。
春を告げる花々を見て、ふと実家の庭を思い出す。
そういえば妹たちは、春になるとヒヤシンスをよく摘んでいた。
一本の茎に小さな花がいくつも集まっているのが可愛らしいのだと、あれこれ色を取り合わせて花瓶に挿していたものだ。
北方配属になってそれほど経たぬというのに、つまらん感傷でも湧いたか。
オリヴィエは鼻で笑った。
そろそろ帰るか。そう思って視線を巡らせたときだった。
薔薇の蔓が絡むパーゴラの足元に、妙に色の濃い一角がある。
しかもアームストロング家の長女となれば、格好の話題なのだろう。
「女性の身で、そのような場所へ……わたくしでしたら、とても」
そう言って扇の向こうで微笑みながら、楽団が次の曲を奏でる頃には、彼女たちの目はフロアを行き交う男たちへ向かっている。
当然だろう。この場へ来る令嬢たちが待っているのは、家柄のいい青年や将校から差し出される手であって、女の自分ではない。
女にエスコートされることを期待して、わざわざ自分の周囲をうろつくような変わり者は一人としていない。
(勝手なものだ)
別段、誘いたいとも思わなかった。だからといって、誘われるのを待つ趣味もない。
誰が誰を次期当主だと思おうが、誰の腕にぶら下がって踊りたがろうが、知ったことではない。
自分の価値を、こんな場所にいる連中の物差しで測ってもらう必要など最初からなかった。
ただ。
(時間の無駄だ)
それだけだった。
笑顔の裏を探り、言葉の端から利害を拾い、昨日まで碌に口を利かなかった者同士が今夜は旧知の友人のように笑う。
軍も大概だが、少なくとも前線では銃口を向けてくる相手が敵だと分かる。
ここではそうはいかない。
楽団の音が大きく膨らむ。
オリヴィエは空になったグラスを給仕へ預けると、誰にも断らずその場を離れた。
ホールにつながる重い扉が閉じるにつれ、背後の音楽と笑い声が遠ざかっていった。
「…………」
まだ冬の名残を感じさせる夜気が頬に触れる。
もっとも、ブリッグズの夜気に比べれば、セントラルの春など温いものだった。
回廊を歩き、中庭へ出ると、月明かりの下、春の花々が風に揺れていた。
春を告げる花々を見て、ふと実家の庭を思い出す。
そういえば妹たちは、春になるとヒヤシンスをよく摘んでいた。
一本の茎に小さな花がいくつも集まっているのが可愛らしいのだと、あれこれ色を取り合わせて花瓶に挿していたものだ。
北方配属になってそれほど経たぬというのに、つまらん感傷でも湧いたか。
オリヴィエは鼻で笑った。
そろそろ帰るか。そう思って視線を巡らせたときだった。
薔薇の蔓が絡むパーゴラの足元に、妙に色の濃い一角がある。
