Op.3: ヒヤシンスの君
ブリッグズ要塞 赴任者 名義変更
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年に一度の大夜会ともなれば、アームストロング家の長女が顔を出さぬわけにもいかない。
それが、オリヴィエ・ミラ・アームストロングがこの夜、大公会堂に立っている理由のほとんどすべてだった。
天井から幾重にも垂れるクリスタルのシャンデリアが、磨き抜かれた床へ惜しげもなく光を撒いている。
楽団の奏でる華やかな旋律に、酒と香水、葉巻の煙が入り交じる。
春を迎えたばかりのセントラルに、国軍の高官、名家、名士やその家族までが一堂に会していた。
人脈を結ぶには、さぞ都合のいい夜なのだろう。
「アームストロング少佐、先頃の働きは聞き及んでおりますぞ」
「いやはや、ますます御父君に似てこられた。実に頼もしい」
「次代のアームストロング家も安泰ですな」
今夜だけで、何度同じ言葉を聞いただろう。
「皆様のお支えあってこそ!このアレックス・ルイ・アームストロング、家名に恥じぬよう今後とも一層の精進を……!」
少し離れたところで、弟の朗々たる声が響いている。
アレックス本人に思うところはない。
むしろ、あれだけ露骨な追従を浴びせられてなお、相手一人一人へ生真面目に応対しているのだから大したものだ。
くだらないのは、周りである。
今のうちに顔を繋いでおこうという魂胆が、磨き上げられた銀食器よりよほどよく透けて見える者たちに父の隣へ立つアレックスは取り囲まれていた。
いずれ家督を継ぐのも当然我が弟であろうと、彼らは何の疑いもなく考えているらしい。
オリヴィエはグラスへ口をつけながら、その様子を横目に眺めた。
訂正してやる義理もない。好きに思っていればいい。
対して、長女である自分のもとへ寄ってくる人間は随分と種類が違う。
「准将。北方で新たな部隊編成が検討されているという噂を耳にしたのですが。」
「はて。噂程度の話を私に確認されましてもな」
家名ではなく階級を見て寄ってくる。それはそれで分かりやすくて結構なことだ。
「これは失礼を。ですが近頃、北方司令部では衛生兵を積極的に集めていると聞きます。准将ほどのお立場なら、中央より何か……」
「私が知っていたとて、場所も変えずここで話す理由がおありか?」
(その手の話をしたければ喫煙室に行ってろ)
もとより、場を変えて話してやるつもりもなければ葉巻の趣味は持ち合わせていないオリヴィエは壁にもたれてシャンパンを煽った。
「……いやはや、これは一本取られた」
男が口だけで笑うのを横目に心底呆れた。
誰がどこへ動く。どこの将軍の椅子が空く。どこの部隊へ予算がつく。法案は。北方に将来性はあるか。中央へ戻る予定はあるのか。
言葉をいくら飾ったところで、欲しいものは大抵その程度だった。
貴族の女性たちも時折、珍しいものでも見るように声をかけてくる。
「まあ、准将様ともなれば正装軍用着 もこれほどお似合いになりますのねぇ」
「北方はさぞ寒うございましょう?」
それが、オリヴィエ・ミラ・アームストロングがこの夜、大公会堂に立っている理由のほとんどすべてだった。
天井から幾重にも垂れるクリスタルのシャンデリアが、磨き抜かれた床へ惜しげもなく光を撒いている。
楽団の奏でる華やかな旋律に、酒と香水、葉巻の煙が入り交じる。
春を迎えたばかりのセントラルに、国軍の高官、名家、名士やその家族までが一堂に会していた。
人脈を結ぶには、さぞ都合のいい夜なのだろう。
「アームストロング少佐、先頃の働きは聞き及んでおりますぞ」
「いやはや、ますます御父君に似てこられた。実に頼もしい」
「次代のアームストロング家も安泰ですな」
今夜だけで、何度同じ言葉を聞いただろう。
「皆様のお支えあってこそ!このアレックス・ルイ・アームストロング、家名に恥じぬよう今後とも一層の精進を……!」
少し離れたところで、弟の朗々たる声が響いている。
アレックス本人に思うところはない。
むしろ、あれだけ露骨な追従を浴びせられてなお、相手一人一人へ生真面目に応対しているのだから大したものだ。
くだらないのは、周りである。
今のうちに顔を繋いでおこうという魂胆が、磨き上げられた銀食器よりよほどよく透けて見える者たちに父の隣へ立つアレックスは取り囲まれていた。
いずれ家督を継ぐのも当然我が弟であろうと、彼らは何の疑いもなく考えているらしい。
オリヴィエはグラスへ口をつけながら、その様子を横目に眺めた。
訂正してやる義理もない。好きに思っていればいい。
対して、長女である自分のもとへ寄ってくる人間は随分と種類が違う。
「准将。北方で新たな部隊編成が検討されているという噂を耳にしたのですが。」
「はて。噂程度の話を私に確認されましてもな」
家名ではなく階級を見て寄ってくる。それはそれで分かりやすくて結構なことだ。
「これは失礼を。ですが近頃、北方司令部では衛生兵を積極的に集めていると聞きます。准将ほどのお立場なら、中央より何か……」
「私が知っていたとて、場所も変えずここで話す理由がおありか?」
(その手の話をしたければ喫煙室に行ってろ)
もとより、場を変えて話してやるつもりもなければ葉巻の趣味は持ち合わせていないオリヴィエは壁にもたれてシャンパンを煽った。
「……いやはや、これは一本取られた」
男が口だけで笑うのを横目に心底呆れた。
誰がどこへ動く。どこの将軍の椅子が空く。どこの部隊へ予算がつく。法案は。北方に将来性はあるか。中央へ戻る予定はあるのか。
言葉をいくら飾ったところで、欲しいものは大抵その程度だった。
貴族の女性たちも時折、珍しいものでも見るように声をかけてくる。
「まあ、准将様ともなれば
「北方はさぞ寒うございましょう?」
