氷の獣に気をつけろ
「最近グルーシャさんがカッコよく見える?」
「そうなんだよ〜」
アオイは友人であるボタンとともにカフェを訪れていた。目的は久々にゆっくり話をすることが一つと、もう一つは相談に乗ってもらうためである。その相談内容は恋愛相談に近かったため、ボタンはうちじゃない方が……と遠慮しそうになったが、よくよく考えたらアオイの周りに自分以外適任がいないことに気づいたため相談に乗ることにした(ネモは考えるよりバトルだ!と言い出しかねないし、ペパーは異性ということで話しづらいだろうしで)。
「なんかね、最近前にも増してお出かけすることが増えたんだけど……。わたしの荷物サラッと持ってくれたりとか、微笑みながら『今日の服も似合ってるね』って言ってくれたりとか……。なんかもう、かっこいいの!」
「あー……」
頬を赤く染めながらグルーシャのここがかっこいいと列挙していくアオイを見ながら、ボタンは一つ息を吐いた。
(少しは進展したんだなぁ)
グルーシャがアオイに対して好意を抱いているのは、アオイ以外の誰もが知っている事実である。グルーシャのわかりやすすぎるアピールをこれまで華麗にスルーし続けたアオイだが、ここ最近になって本腰を入れてアピールを始めたグルーシャの言動は流石にスルーできなかったらしい。
「で?それをうちに聞いてもらってどうすんの」
「え?」
「グルーシャさんとどうにかなりたいの?アオイは」
ボタンの問いに、アオイはうー、だのあー、だの唸ってから口を開いた。
「その、そのね……」
「うん」
「そういう思わせぶりなことはやめた方がいいですよって言ったら良いのかな……?」
…………
「は?」
アオイはとんでもないことを言い放った。え、まじかこの子。グルーシャさんの本気度合一つも伝わってないやんけ。ボタンは呆れそうになった。鈍感すぎるとは思っていたがまさかここまでとは。どうやらアオイはグルーシャは誰に対してもそういうことをすると思っているらしい。そんなわけないだろアオイに会う前のグルーシャを見せてやりてぇわ。でもこの子パルデアに引っ越してすぐに宝探し参加してたからグルーシャの変わりよう知らないのか……。ボタンは時を呪いそうになった。せめてパルデアのことを知ってからの参加なら少しは違っていただろうか。
とりあえず今はこの勘違いをどうにかするのが先だ。じゃないとグルーシャさんがかわいそうでいたたまれない。
「アオイはなんでそう思ったん?グルーシャさんそんな誰に対してもそういうことする人には見えないけど」
「だってわたしまだ子どもだよ?グルーシャさんみたいな人が本気になるわけないよ」
なるほど、一応アオイなりに考えた結果ではあったのか。ボタンは頭の中のアオイ像を訂正した。年齢の壁という現実を考えての発言だったらしい。たしかにグルーシャはアオイより年上だが、彼の氷を溶かしたのは間違いなくアオイだ。彼女が彼の心に火をつけてしまったのだから仕方ない。むしろそういう壁があるから燃える恋でもあるのだろう。
さて、どうしたものか。グルーシャのアオイへの想いが本物であることをいくら他人が説いたところで伝わるわけがない。こればっかりは当事者で話し合ってもらわねば。ボタンがスマホロトムの画面をすいすいスワイプしていると。
「……あ」
「?どうかしたの?」
「いや、うちの手持ちのケアする用のブラシ買い忘れてたこと思い出して」
「え、それは大変だ!今すぐ買いに行こ!」
「ん。あ、アオイおすすめのところ連れてってくれる?あそこの良かったから」
「わかった!」
アオイとボタンは会計を済ませ、早足でブラシの売ってる店へ向かった。
「ここここ!ここグルーシャさんにおすすめしてもらって──」
カランカラン
「……あ」
アオイが店のドアを開けようとした時。先程まで話題の中心だった人物──つまりグルーシャだ──が店から出てきた。グルーシャは想い人のアオイにすぐ焦点を合わせたが、アオイはぴたりと固まってしまった
「ぐ、グルーシャさ……」
「奇遇だね、アオイ」
「急いで来て良かった」
「へ?ぼ、ボタン……?」
「グルーシャさんナッペ山から降りてるの珍しいねって、ピーちゃんから来てたから。ああいうのは当事者同士で話し合うのが一番かと思って、連れてきた」
「は、図ったなー!」
「なに、どういうこと?」
知らぬはグルーシャばかりである。ボタンはグルーシャの近くに寄ると、スマホロトムの画面を彼に見せた。グルーシャは屈んでスマホロトムの画面に目を通すと──途端に目が据わった。
「じゃ、後はごゆっくり」
「え、ボタン!?」
一仕事終えたと言わんばかりにボタンはさっさと帰ろうとする。そんなボタンを引き留めようとしたアオイの手を、グルーシャが掴んだ。
「アオイ」
「な、なんですか?」
「話がある。一緒に来てくれるよね?」
──逃げられると思うなよ。
笑顔を浮かべたグルーシャの言葉にしない圧力に、アオイは冷や汗をかきながら頷くしかなかった。
「そうなんだよ〜」
アオイは友人であるボタンとともにカフェを訪れていた。目的は久々にゆっくり話をすることが一つと、もう一つは相談に乗ってもらうためである。その相談内容は恋愛相談に近かったため、ボタンはうちじゃない方が……と遠慮しそうになったが、よくよく考えたらアオイの周りに自分以外適任がいないことに気づいたため相談に乗ることにした(ネモは考えるよりバトルだ!と言い出しかねないし、ペパーは異性ということで話しづらいだろうしで)。
「なんかね、最近前にも増してお出かけすることが増えたんだけど……。わたしの荷物サラッと持ってくれたりとか、微笑みながら『今日の服も似合ってるね』って言ってくれたりとか……。なんかもう、かっこいいの!」
「あー……」
頬を赤く染めながらグルーシャのここがかっこいいと列挙していくアオイを見ながら、ボタンは一つ息を吐いた。
(少しは進展したんだなぁ)
グルーシャがアオイに対して好意を抱いているのは、アオイ以外の誰もが知っている事実である。グルーシャのわかりやすすぎるアピールをこれまで華麗にスルーし続けたアオイだが、ここ最近になって本腰を入れてアピールを始めたグルーシャの言動は流石にスルーできなかったらしい。
「で?それをうちに聞いてもらってどうすんの」
「え?」
「グルーシャさんとどうにかなりたいの?アオイは」
ボタンの問いに、アオイはうー、だのあー、だの唸ってから口を開いた。
「その、そのね……」
「うん」
「そういう思わせぶりなことはやめた方がいいですよって言ったら良いのかな……?」
…………
「は?」
アオイはとんでもないことを言い放った。え、まじかこの子。グルーシャさんの本気度合一つも伝わってないやんけ。ボタンは呆れそうになった。鈍感すぎるとは思っていたがまさかここまでとは。どうやらアオイはグルーシャは誰に対してもそういうことをすると思っているらしい。そんなわけないだろアオイに会う前のグルーシャを見せてやりてぇわ。でもこの子パルデアに引っ越してすぐに宝探し参加してたからグルーシャの変わりよう知らないのか……。ボタンは時を呪いそうになった。せめてパルデアのことを知ってからの参加なら少しは違っていただろうか。
とりあえず今はこの勘違いをどうにかするのが先だ。じゃないとグルーシャさんがかわいそうでいたたまれない。
「アオイはなんでそう思ったん?グルーシャさんそんな誰に対してもそういうことする人には見えないけど」
「だってわたしまだ子どもだよ?グルーシャさんみたいな人が本気になるわけないよ」
なるほど、一応アオイなりに考えた結果ではあったのか。ボタンは頭の中のアオイ像を訂正した。年齢の壁という現実を考えての発言だったらしい。たしかにグルーシャはアオイより年上だが、彼の氷を溶かしたのは間違いなくアオイだ。彼女が彼の心に火をつけてしまったのだから仕方ない。むしろそういう壁があるから燃える恋でもあるのだろう。
さて、どうしたものか。グルーシャのアオイへの想いが本物であることをいくら他人が説いたところで伝わるわけがない。こればっかりは当事者で話し合ってもらわねば。ボタンがスマホロトムの画面をすいすいスワイプしていると。
「……あ」
「?どうかしたの?」
「いや、うちの手持ちのケアする用のブラシ買い忘れてたこと思い出して」
「え、それは大変だ!今すぐ買いに行こ!」
「ん。あ、アオイおすすめのところ連れてってくれる?あそこの良かったから」
「わかった!」
アオイとボタンは会計を済ませ、早足でブラシの売ってる店へ向かった。
「ここここ!ここグルーシャさんにおすすめしてもらって──」
カランカラン
「……あ」
アオイが店のドアを開けようとした時。先程まで話題の中心だった人物──つまりグルーシャだ──が店から出てきた。グルーシャは想い人のアオイにすぐ焦点を合わせたが、アオイはぴたりと固まってしまった
「ぐ、グルーシャさ……」
「奇遇だね、アオイ」
「急いで来て良かった」
「へ?ぼ、ボタン……?」
「グルーシャさんナッペ山から降りてるの珍しいねって、ピーちゃんから来てたから。ああいうのは当事者同士で話し合うのが一番かと思って、連れてきた」
「は、図ったなー!」
「なに、どういうこと?」
知らぬはグルーシャばかりである。ボタンはグルーシャの近くに寄ると、スマホロトムの画面を彼に見せた。グルーシャは屈んでスマホロトムの画面に目を通すと──途端に目が据わった。
「じゃ、後はごゆっくり」
「え、ボタン!?」
一仕事終えたと言わんばかりにボタンはさっさと帰ろうとする。そんなボタンを引き留めようとしたアオイの手を、グルーシャが掴んだ。
「アオイ」
「な、なんですか?」
「話がある。一緒に来てくれるよね?」
──逃げられると思うなよ。
笑顔を浮かべたグルーシャの言葉にしない圧力に、アオイは冷や汗をかきながら頷くしかなかった。