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氷の獣に気をつけろ

 次に記者たちが向かったのはもちろんグルーシャのもとである。元々取材の予定はなかったのだが、アオイの取材が終わった後ですぐにアポを取った。今日空いてますか空いてますよね!?と半ば強引に取材をねじ込んだとも言える。

「何なの……」

 記者たちのあまりの押しの強さに若干引き気味のグルーシャが、待ち合わせ場所に現れた。グルーシャはいつもの防寒具姿ではなく軽装だ。口元を覆うマフラーもないため、その整った顔立ちが露わになっている。メディアに出る時は決まってあの防寒具姿のためかそれとも単にジムリーダーだからかはわからないが、グルーシャは街行く人々の注目を集めながら喫茶店に入ってきた。

「急なお呼び出しにも関わらず来てくださりありがとうございます」
「ほんと急でしたね。​で、取材でしたっけ?」
「はい。どうしてもグルーシャさんに確認したいことがございまして」
「ぼくに確認?」
「グルーシャさんってアオイさんのこと好きなんですか?」

 記者の問いかけにグルーシャは口をつけたアイスコーヒーを盛大に噴き出した。顔を赤くしてゲホゲホ咳き込むグルーシャを、記者たちは

(この人わかりやすくなったなぁ……)

と暖かい目で見ていた。

「いや、は?なんでそうなるの?」
「アオイさんへの対応と他の方への対応の違いですかね。わかりやすすぎますよ」
「……」

 グルーシャは思い当たる節があったのか目を逸らした。……本当にわかりやすくなったものだ。アオイと出会う前は氷のようと揶揄され、何を考えているかわからない、人間味がないとあれほど言われていたというのに。

「それでですね」
「この取材続けるの?」
「もちろん」
「面白がってない?」
「少しは」
「この人正直だな……」
「先程アオイさんにも取材を受けていただいたんですが……」
「……ふーん」

 アオイという名を出しただけで話を聞く態勢に変わったグルーシャに、この人も正直だなと記者は思ったがあえて口には出さなかった。賢明な判断である。

「ぶっちゃけアオイさん、グルーシャさんのこと全然意識してませんでしたよ」
「……」
「たぶんあの感じだと良い人止まりってとこですかね。それか優しくしてくれる近所のお兄さんか」
「近所に住んでないけど」
「たとえですたとえ」

 グルーシャは顔には出さなかったものの、その瞳が憂いを帯びて若干伏せられたのを記者は見逃さなかった。落ち込んでるな、という雰囲気が見ただけで伝わってきた。

「……で?それを伝えてぼくにどうしろと?」
「え?もっと熱烈にアッピールしないんですか?」
「アピールの言い方のクセ強いな……。だから、なんでぼくにそれを伝えたのか聞きたいんですけど」
「やだなぁ、そんなの決まってますよ。新チャンピオンとジムリーダーの熱愛とか絶対ウケ……応援するためです!!」
「ほんと正直だな……」

 グルーシャは乱暴に頭を掻くと、またアイスコーヒーの入ったコップを手にしニヤッと口角を吊り上げた。

「ま、負けたままなのは癪だからね。ここから巻き返してみせますよ」
「おお〜」
「それで、もう帰って良いですか?これからやることできたんで」
「はい、もちろんです」

 グルーシャの背中を見送る記者たちには、彼の瞳に熱い炎が宿っているのが確かに見えていた。
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