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氷の獣に気をつけろ

「グルーシャさんの印象、ですか?」

 とある日。喫茶店でアオイは雑誌の取材を受けていた。
 そのインタビューの内容としてはありきたりなものだ。新チャンピオンに上り詰めたアオイのプライベートに迫るといったシンプルなものだ。アオイは未だ慣れない取材対応により緊張の面持ちを浮かべながら対応していたが、とある人物のアオイから見た印象により記者たちの食いつきが一変した。

「とても良い人ですよ。いつも親身になって色々相談を受けてくれます」

 と、アオイは答えたのだが……パルデアに引っ越して早々に宝探しに参加しジムチャレンジをして回ったアオイは、彼女と出会う前のグルーシャのことをよく知らない。それ故に、彼女は知らなかったのだ。この回答が記者たちの取材熱にも火をつけたことを。

「あのグルーシャさんが、ですか?」
「あの……?は、はい。グルーシャさんです」

 途端に食いつきが良くなった記者たちの熱量に押されながらも、アオイは頷く。

「グルーシャさんとはプライベートではどのような話を?」
「普通ですよ。ポケモンのお世話でどういうことを気をつけてるかーとか。この間はグルーシャさんおすすめのブラシが売ってるお店を教えてもらいました」
「一緒に行ったんですか?」
「?はい。結構奥まったところにあるからって」

 一緒にお出かけするの楽しかったです!とアオイは満面の笑みで答えたのだが……その答えを聞いた記者たちは、あー……と空を仰いだ。そしてアオイに悟られないようアイコンタクトで意思を通わせた。時に記者とは言葉にせずとも意図を読み取れる生き物なのである。知らないが。

──絶対グルーシャさんこの子のこと好きだよね?

──それな。

 アオイは知らないが、彼女とポケモン勝負をし負かされるまでグルーシャは誰にも興味を示さないまさしく氷のような人間だったのだ。そのモデル顔負けの整った顔立ち故に言い寄られることは数知れず、しかし真偽を確かめるためその度に取材が来ようと

「誰?それ」

でバッサリと切ってきたような男である。そんな彼が、親身に相談に乗る?一緒にお出かけ?いや絶対アオイのこと好きやんけ……。あまりのわかりやすさに記者たちは肩を落としそうになる。これまでどれだけの記者がグルーシャの心のうちに迫ろうとして玉砕したかわからないので。

「えー……と。今日はありがとうございました。良い記事が書けそうです」
「それは良かったです!」

 アイスココアの入ったコップを両手で持ちながら満面の笑みを浮かべたアオイを見ながら、記者たちの心は再び通じ合った。

──グルーシャさん苦労してそうだなぁ。
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