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弾いた弦と

放課後を知らせるチャイムが鳴る。
今日も一日めんどくさいことをよく頑張ったな、とぐーんと伸びをした。
正直このまま直帰して夕食まで昼寝をしたいところだが。

紅聖こうせいー!音楽室行こーぜ!」
すぐさま俺の元へ飛んで来るテンションバカこと親友優輔ゆうすけ

こいつの言うとおり、放課後は軽音部の活動のため音楽室へ向かうのが常である。

「おー」
カバンを肩にかけ、二人で廊下へ出た。


優輔とは中学のときにクラスが一緒になり、音楽の趣味が同じ事を理由に仲良くなった。
優輔は小学生の頃からギターをやっていたらしく今では作曲もこなすレベルである。
そんなこいつの誘いもあり、父親がベースをやっていたこともあり、で、そのころから俺はベースを触るようになった。
そして高校に入ってからは先輩たちとバンドを組んでちまちまと活動している。

俺は人とコミュニケーションを取るのがいまいち上手くなく、話せる友人は多くはない。
しかし、優輔のように大胆で能天気なやつは俺がいちいち細かいことを気にする必要がないので接しやすい。
周りにもう少し感情を表に出せと言われ、「怖い」と言われることもしばしば。
それもこいつといると話しかけやすいのか二人でいるときはわりとクラスメイトと会話を交わす。

「おっ軽音部~!今度の文化祭はなんかやんのー?」
「もちろんやるよ!見に来いよな!」
「おー行くわー」
こんな感じに。まあ主に話しかけられるのは優輔なのだが。

「そういやさ、新曲一番だけ作ったんだけど聴く?」
前を歩いていた優輔が振り返って携帯を差し出す。
「ん、音楽室行ってから聴かして」
横に並んで再び歩き始める。
「りょうかーい」


見慣れた『音楽室Ⅰ』の文字。
「こんちゃー」
「ちは」
勢いよく部屋のドアを開け挨拶をする。
部屋に入ると既に他の部員たちが何やら話し合っていた。
「「ちはー」」

ウチの部は俺らのバンドともう一つのバンドが所属している。
こっちは二年生と三年生だが、向こうは二年生と一年生で構成されていた。
交流は深い方ではないが、文化祭やイベントの発表曲が被らないように調整し合ったり、アンプを使う時間帯をあらかじめ決めておくなど、お互いが気持ちよく練習できるような環境作りは欠かさずしている。

去年までいた先輩たちと俺らのバンドの先輩たちの相性がすこぶる悪く、部の空気が最悪だった経験もあり、今年は部の雰囲気をよりよく保つ努力をしていた。

「は~!今日も疲れたねぇ」
カバンを雑に机へ置くとイスを引っ張り出して窓際へ二人で座る。
「つか、久しぶりにサッカーなんてしたな」
「おー確かに」
脚に若干の筋肉痛を感じて今日の体育を思い出す。
別に運動が嫌いなわけではないが、普段は家に籠りきりだからああいうのはすぐに体に来る。

「ほれ」
優輔はそういうと片方のイヤホンを差し出した。
「お、サンキュー」
優輔は曲を作ると大抵俺に聴かせてくれる。
バンドでも今まで三曲ほどオリジナルとして文化祭などで演奏していた。
お、このフレーズかっけえな。


一通り聴き終わると優輔と感想を言い合い、この曲を完成させて二ヶ月後の文化祭で演奏してはどうかという話になった。
まあこれは俺たちだけでは決められないが。
なにはともあれ、こいつの才能の片鱗を一番に見れたことが嬉しくもあり頼もしくもあった。

こいつと付き合うようになって、自分は案外社交的になれると気づかされた。
大勢の前に立つようなことは似合わないし、得意ではないと思っていたがそうでもないらしい。
「そういや今日も紅聖に会いたいって子が俺んとこ来たぞ?」
携帯をいじりながら声だけをこちらに向ける。
「まじか。直接来りゃいいのに。」
「それが出来ねーから俺んとこ来んだろーが」
そう、人前で演奏するようになってからこういうことが起こるようになった。
自分でもびっくりだが女子にモテるようになったのだ。
と言っても先ほど優輔が言ったように、直接伝えられることはまずなく、必ずと言っていいほど友人を通されるのだが。

こんな変化をくれたのも優輔である。
こいつといると色々なことに気づかされる。
人と話す楽しさも、音楽のおもしろさも、誰かと青春する嬉しさも。


はじいたこの弦とお前がいれば、それで。
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