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あの日保健室で

あの怪我から三日が経った。
病院に行って診てもらったが、骨に異常はなく、ひどい捻挫だと診断された。
そして念のため、と一本だけ松葉杖を持たされてしまった。

部活でこんな事態になってしまうとは、情けない上に悔しい。
ただ、当日と次の日くらいまでは正直泣きたい気持ちが大きかったが、今は諦めの方が強くなってきていた。

ゆず~。今日昼休み委員会あって一緒にお昼食べられないや~。」
三限の終わり。
いつも昼食を共にする友人が声をかけてきた。
ああ、そういえば朝にいろんな委員会で集まりがあるって言ってたっけ。
「了解~」
「てか次なんだっけ?」
「世界史でしょ。毎回聞かないでよね。」
ごめんごめんと笑うと「じゃあ早く行こう」と二人で次の教室へ移動した。


「はいじゃあ解散~」
四限が終わり、お昼だ、と安心したところで今日は一人だということを思い出した。

「じゃ、いってくるね!」
「行ってらっしゃーい」
友人に手を振ると、自分もクラスに戻ろうと腰を上げた。

教室を出て階段を下りようとしたとき、あることに気づいた。
一人で下りられないのでは。

片方には教科書、片方には松葉杖。
このまま下りるのは少し怖い。

尻込みしていると後ろから「あれ?柚紀ゆずきちゃん?」と声をかけられた。
振り返るとそこには弓原ゆみはらさんが立っていた。
「足大丈夫?手貸すよ。」
私が反応するより早く、私の元へとてとてとやってきて手を差し出した。
「あ、ごめんね…。いつもは友達が手伝ってくれるんだけど今日委員会で…。」
言いながら荷物を渡す。
「ううん!気にしないで!それじゃ一人で下りるの怖いよね…。」
知り合ったばかりの子に助けてもらうなんてとても申し訳なく感じた。
階段を下りきるまで弓原さんもゆっくりと歩き、私の隣に付いていてくれた。


「ありがとう助かった!」
結局弓原さんは私の教室まで荷物を持ってついてきてくれた。
優しい…。
「いえいえ!また手伝えることがあったら言ってね。あ、そうだ。もしかして柚紀ちゃんお昼一人だったりする?」
「うん。今日は一人だね。」
お昼が一人ってわりと寂しいなあ。
教室の中を覗くと、ほとんど委員会の集まりで出払っており、まばらに人が残っているだけだった。
「わたしの友だちも集まりで、今日は一人だからよかったら一緒に食べる?」
少しだけ照れくさそうに言う彼女を見て思わず「かわいい」と思ってしまった。
「いいの?ぜひお願いします」
嬉しくてつい敬語になった私に「なんで敬語なの?」と笑う。

「じゃあお弁当持ってくるね!中で待ってて!」
そう言うと隣の教室へ足早に入っていった。
弓原さん隣のクラスだったんだ。


弓原さんのお弁当はとてもかわいらしく、それでいてどれも美味しそうだった。
自分で作ったのか尋ねると毎朝自分で作っていると言うから驚いた。
「料理好きなんだよね。楽しくて!」
ああ、そういえば料理部だとどこかで聞いたことがあったな。

かわいくて優しくて料理も出来るとは私からみたらとんだハイスペックの持ち主である。
「弓原さん羨ましい限りだよ…。そりゃモテるわ…。」
私が落胆していると「あっ」と声をあげる。
つられて顔を上げると「璃唯菜りいなでいいよ」と微笑まれた。
「え…ああ…じゃあ、璃唯菜…で」
学校でも有名な美少女と名前で呼び合う日が来るとは。
嬉しくもあったが本当にいいのだろうかと少しそわそわしてしまった。

それから昼休みの間はお互いのことについて話した。
部活のこととか進路のこととか、特別おもしろいような話はしなかったがだいぶ距離が縮まった気がした。

話をしていると私の中の璃唯菜の良いイメージはどんどん更新されていった。
素直でとても優しい性格で好奇心旺盛。
知れば知るほど欠点が見つからなかった。

「今日はありがとう。柚紀ちゃんとお話できて楽しかったよ。」
別れ際にお礼を言われてしまったがお礼を言うのはこちらの方である。
「こっちこそありがとう璃唯菜。また、ね!」
「うん!」

別れたあともしばらく話した内容を思い出していた。
変わった話しはしていないのに一つ一つが色濃く残っていて思わず頬が緩む。
「柚?なにニヤけてるの?」
「わぁ!?」
帰ってきていた友人に気づかず肩をビクつかせた。


こんな楽しい気持ちになるなら怪我をして少しラッキーかもと考えてしまった。

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