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春色を連れて

今日は学校でサッカーの練習試合だ。
ウチはサッカー部員が多く、校庭も広いため、他二校を呼んでの試合である。
ウチらはAとBにチーム分けをされてそれぞれ二つの学校と対戦することになった。
そして今日はテニス部も学校で練習試合がある。
時間が合えば歌名かなに会いに行きたいところだ。

はる~。Aは今からだってよ」
「お?まじかラッキー」
幸運なことに歌名の試合を見に行けそうだ。
スパイクの紐をきゅっと結ぶと円陣へ加わった。


試合は3-2で俺らのチームが勝利した。
終わるや否や部員たちはまっすぐ水道へ向かい、水をかぶる。
「だーっ!あちぃー!!」
犬のように頭をぶんぶんと振るとタオルでガシガシと顔を拭く。
5月とはいえサッカーをしていればすぐに汗だくになる。

ベンチへ戻ると次のBチームが円陣を組んでいるのが目に入った。
その延長でサッカー場の時計を見る。
歌名の試合どうなったかな。

スポーツドリンクをがぶ飲みすると、ペットボトルとタオルを持ったままテニスコートへ向かう。
メンバーに、弟がいるBチームの試合はいいのかと言われたが「ちょっとだけ!」と叫んで歌名の元へ走った。


テニスコートへ近づくと、ぱこんぱこんっと小気味の良い音が聞こえ始めた。
垂れ落ちる汗を拭いながら彼女の姿を探す。

フェンスの外からコートの中を眺めていると、俺に気づいた女子が声をかけてきた。

「歌名?ちょうどあそこでやってるよ」
「おーサンキュー」
どうせなら中に入りなよ、とコートに招かれたので入ることにした。

思えば歌名がテニスをしているところをちゃんと見るのは初めてかもしれない。
淡い桜色の髪が動くたびにふわふわ揺れる。
健康的な白い脚が眩しい。

ていうか。
「ねぇ。テニスのユニフォームってあんなに丈短いもんなの?」
コートへ誘ってくれた女子に尋ねる。
「え?あぁ下?まぁそうだね。」
ふーんと相槌を打つとむむっと眉をひそめる。
短い…。

じっと彼女を見つめていると隣で笑い声が聞こえた。
「なに、あんなに短くて大丈夫なのかって?あれスカートじゃないし大丈夫だよ。」
スカートではないことはなんとなくわかっていたが、それにしても短い…。
歌名の色気が隠しきれていないではないか。

しかし恋人の試合を見るというのは少し気恥ずかしい。
普段は見せないような真剣な表情と機敏な動き。
俺がいないところではあんな顔もするのね…と、いつもとは違う一面が見られて少し嬉しくなった。

「どうよ?愛しの歌名ちゃんは」
隣の女子がニヤニヤしながら俺に言った。
どうもこうも…。
「いや、まあ、美しいですね…。」
タオルに顔を埋めて歌名を見つめる。
特別上手い方ではないのだろうが俺にはかっこよく見えた。
「歌名愛されてるねぇ」

その後試合が終わった歌名に「お疲れ様」と声をかけると、見ていたことに気づいていなかったようで顔を真っ赤にして驚いていた。

「んじゃあ俺も向こう戻るね」
「私もサッカー見に行くから」
「え、いいよ別に」
休んでいるように促すと「春だけずるい!」と怒られてしまった。
そして宣言通り、歌名は友人と俺の二試合目を見に来ていた。


午後4時。
俺も歌名も試合が終わり、二人で自転車を押して帰路につく。

「春お疲れさま~。かっこよかったよ~」
「お、おう。お疲れ様。」
女の子ってかっこいいとか簡単に言うよね…恥ずかしくないのか…。
自分も正直に感想を伝えるべきなのだろう。
いやでも女子にかっこいいって言って喜ぶもんなのか?
普段について言うわけじゃないから別にいいのかな…。
なんてあれこれ考えていると「春?大丈夫?疲れた?」と心配されてしまった。

「あ~えっと…歌名も、ね」
ようやく絞り出したかと思えばこんな気の利かない言葉。
「ん?なにが?」
案の定伝わらず、彼女は首をかしげている。
「~っだから。歌名もかっこよかったよ。テニスしてるところまともに見たの初めてだった。」

恐る恐る歌名をみると目をぱちくりとさせた後、ふふっと柔らかく笑った。
「うん、ありがと。嬉しい」
おお…。言ってよかった。
幸せそうな笑顔をみて安堵する。
「早く帰ろっ」
頷き返すと今度は疲れも吹き飛ぶような爽やかな微笑みを見せた。

そんな笑顔や真剣にテニスをする姿も。
そして照れて顔を真っ赤にするところも全部、全部。
君の全部が好き。

夕日の中を二人で帰ることが出来るこの瞬間も。
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