春色を連れて
あれは二年前の中学三年のとき。
修学旅行の自由行動中に偶然歌名たちのグループと会ったのだ。
場所は京都の茶屋。
クラスは同じであったが、それまでお互い特に意識することは無かった。
店で会った時、グループのメンバー同士で「なんでいるの?」とか「どこ行った?」とかそんな話をしていたが、俺は一人先に買った抹茶アイスを口にしながら店内の土産物を眺めていた。
「すみません、抹茶アイス一つください。」
隣からクラスメイトの声が聞こえた。
彼女もグループの輪から一人離れ、店の名物を注文していた。
「ありがとうございます。」
嬉しそうに両手でアイスを受けとった後、スプーンでアイスをすくいとる。
ぱくっと一口食べると小さな声で「うっまぁ」と呟いた。
そのままみんなの元へ戻るのかと思えば、店内の小さなベンチで一人楽しそうにアイスを食べ始めた。
俺はグループに戻ろうかと思ったが、盛り上がってる所に後から入る気にもなれず、彼女の隣へと腰を下ろした。
「抹茶うまいね。」
突然声をかけたせいかアイスの冷たさのせいかわからないが、彼女は咳き込む。
「う、うん!えっと、
「うん、そ。やっぱ京都に来たら食わなきゃだよね。あいつらも喋ってないで食えば良いのに。」
少なくなったカップの中身をかき集めて口に放り込む。
「えへへ。そうだよね。私抹茶好きで、1回京都で食べてみたかったんだぁ。」
「ん?初めて来たの?」
空のカップをベンチの側にあったゴミ箱へ捨てながら問う。
「そうなんだよー!だから楽しみにしてた!」
そこで初めて目が合う。
そのとき本当に嬉しそうにしていたことを、俺は昨日のことのように思い出せる。
「そうかー。じゃあ楽しまないとだな。」
その後も他愛のない話をいくつかした後、それぞれのグループはまた別々の行動を取った。
連絡先を交換したのはその夜のこと。
宿泊したホテルの自由時間の間に偶然顔を合わせたのだった。
「
「んー?」
なんでこんなことを思い出していたかというと歌名と一緒に学校近くのカフェで抹茶パフェを食べていたからである。
俺のパフェグラスは既に空で歌名が食べ終わるのを眺めていた。
「京都の抹茶アイスうまかったなーって。」
カランカランと氷の入ったコップを鳴らして歌名を見る。
「あぁ!修学旅行の!あっちも好きだしこっちも好きだなあ。」
目を輝かせながら残り少なくなったパフェを口にする。
そういやあの後歌名は京都に行ったりしただろうか。
二人で旅行するのもアリだな、と考えていたら歌名が「はい!」と抹茶アイスと小豆の乗ったスプーンを差し出してきた。
「え?いや俺同じの食ったけど。」
「いいんだよっ。ほら、あーん!」
「あ、あーん…」
ここは学校のすぐ近くだから周りに知り合いも多い。
恥ずかしいのでやめて欲しかったが仕方なく口を開いた。
「人前でよくやるよね…」
口を動かしながら呆れると「こ、これでも勇気だしたんだから褒めてほしいな…!」と顔を赤くして照れる歌名。
そんなことをそんな顔をして言わないで欲しい。
ただでさえ恥ずかしいのに顔がよけい熱くなる。
「ちょっと、本当に恥ずかしいからやめて。…なにやってんの俺たち…。」
コップの水をがぶ飲みすると「食い終わったんなら出るよ」とそそくさと会計を済ませて店を出た。
外に出るとふわっと暖かい風が吹いた。
冷たいものを食べたばかりなのに体は熱いもんだから正直うっとおしいと感じたが。
「春ごめんさっきの」
「え?いや謝らないでよ。悪いのは俺でしょ。恥ずかしかったけど嬉しかったよ。」
頭を撫でると歌名は「へへ…」と微笑んだ。
それから帰り道は京都旅行の話をした。
過去のこともそうだが、歌名と二人で行きたい旨を伝えると笑顔で頷いてくれた。
思い出の味を今度は二人きりで。