赤と青から逃げたくて
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ずっと私に纏わりつく赤と青。
これから逃れられたら、どれだけ楽になるのだろう。
宮城くんが持ってきてくれたココアを一口飲む。
混乱していた心と頭が、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。宮城くんは何も言わず、隣に座っている。
「あの、さっきの人ね・・・」
「例の先生でしょ?」
宮城くんには全てがお見通しのようだ。
「・・・よく分かったね。」
「レオナちゃんの顔見て、すぐ分かったよ。」
宮城くんは肘をついて、困ったように笑う。
「分かりやすすぎ。」
「まさか、会うなんて思ってなくて、」
「そうだよね」
「・・・助けてくれて、ありがと」
「・・・いや、こっちこそ、いきなり彼女とか言って、ごめん。」
「・・・まさか俺が、ここまでちっせぇ男だったとはなぁ。」
そう言って宮城くんは、また困ったように笑って言葉を続けた。
「昔の恋愛を許容して、器のでかい男のフリして。そうすれば俺に甘えてくれるかなって。」
「本当はさっきも、あいつのこと殴りたかった。話を打ち明けてくれたときも、俺にしとけって叫びたかったよ。いつまでもレオナちゃんの中に住み着いてるあいつが憎い。」
ふぅ、と溜息をつくと、宮城くんは天を仰いた。
「いつになったら、俺のこと好きになってくれる?」
宮城くんの目が、ゆっくりと私を捕らえる。
もう逃さない、という眼差しに胸が熱くなる。
今、捕らえられた?
いや、違う。
もっと前から捕まってた。とっくに捕まってるのに、まだ捕まってないと目を背けていた。捕まって、その優しさに甘えて、弱さを見せるのが堪えられなかった。
でも、もう無理だ。
彼の優しい罠に嵌って、抜け出せない。
「ねぇ、」
「ん?」
「私のこと、好き?」
「もちろん」
「・・・あのね、宮城くん」
「何?」
「・・・私、もう、好きになってる」
「ははっ、・・・気付くの遅いよ」
___________
「ねー、レオナちゃん」
「んー?なに?」
「あとどれぐらい?」
「あと少し」
「さっきもそう言ってたよ〜」
一人暮らしをする部屋にリョータが遊びに来た。新曲の歌詞を書いてる途中だから構えないのに、それでもいいと言うから部屋に入れたけど、僅か10分でこれだ。
ローテーブルにノートパソコンを出して作業する私の後ろから、覆うようにリョータが抱きしめてくる。
「ねぇねぇ、レオナちゃん次の土曜日って空いてる?」
「土曜日?うん、何もなかったと思う。」
「マジ?練習試合あるから、見に来てよ!」
「試合?」
「俺の格好良い姿も見て欲しいからさ。」
惚れ直すよ?ニヤッと笑うリョータは既に十分格好良いと思う。
「それじゃ、格好良いリョータに期待してるね。」
「任せてよ。」
リョータの顎が私の肩に乗る。
後ろから画面を覗いたリョータの眉間が深いシワを作った。
「これって、あいつのことじゃね?!」
「よく気付きましたねー」
「いや気付くよ!!」
その通り、歌詞の内容はあの人を思わせる内容になっている。散々、私の心をざわつかせ、脳裏に居座り続けたあの人。
でも、もう過去の人だ。
さっさと出て行ってもらおう。
「声と一緒に、私の中から出てってもらおうかなって。」
「案外その方が、スッキリしちゃうかなって。」
「私には、リョータがいてくれるから。」
振り返ると、私を罠に嵌めた男と目が合った。
その瞳がゆらりと揺れたとき、唇が重なった。
過去から私を追ってきた赤と青。
それから必死に逃げてたら、別の罠に嵌った。
別の罠に嵌った私を、赤と青は見つけられず去っていく。
甘く優しい罠は、私を捕らえて離さない。
味をしめた私も、離れる気など毛頭ない。
「私を死ぬまで離さないで。」
「言われなくても、覚悟してて。」
どちらからともなく、再び唇が重なった。
(・・・やっぱこの歌詞、ちょっと嫌かも)
(ちっせぇ男だね。)
(ちょっ!酷くない!?)
(自分で言ってたじゃん。)
end
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