その手をよく見せて
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その手は私より遥かに大きく、力強い。
そして、とても繊細で、美しい。
それが三井くんの手だ。
描きたいものが見つからず、前期の課題がかなり遅れてしまった。私は毎日のように最後までゼミ室に残り筆を動かしていた。写真を見て、更に自分のイメージを加えて、絵の具を重ねていく。
(・・・もし、この手に触れてもらえたら)
そんなことを考えてしまうと、胸がキュッとなる。
例え写真でも、例え手だけでも、これが三井くんだと思うだけで、心が満たされる感覚になる。
ダメダメ、集中しなきゃ。
ふぅと一息ついて、キャンバスを見つめる。
3年になって最初の制作だ、しっかり向き合わないと。この1年は来年の卒業制作に向けての準備と言っていい。まだ前期といえ中途半端な作品は許されない、講評でボロカスに言われるのは避けたい。
(まぁ、好きな人の手ですって言った時点でボロカスに言われそう。)
そんなこと言わないけどね。と自分にツッコミを入れる。
時計を見ると、針は20時半を指していた。
「おい」
「!!」
突然、男の人の声がして驚き振り返ると
「よう、さっきぶり。」
「・・・もう、ビックリした」
ゼミ室の出入り口から、三井くんがこちらを見ていた。
「進み具合、見に来てやったぜ。」
「上からだなぁ、ちゃんと描いてるよ。」
「入っていいか?」
「どうぞ、いらっしゃいませ。」
三井くんは物珍しそうにキョロキョロしている。
石膏像や自分と同じぐらい高さのあるキャンパスなんて、あんまり観たことないだろうな。
私の後ろで絵を見つめる三井くんの口から「すげぇ」と声が漏れた。三井くんからお褒めのお言葉を頂戴した。モデルにそう言ってもらえると、素直に嬉しい。
「ありがと。でも、まだ途中だよ。」
「これで途中とか、完成したらどうなんだよ。」
「どうもしないよー」
思わずクスッと笑ってしまう。
芸術、美術といったものに、あまり触れてこなかった三井くんの言葉は純粋で面白い。
「・・・なぁ、」
「ん?」
「その・・・しばらく見てていいか?」
「え?」
「桐生が描いてるとこ」
三井くんは首に手を当て、少し恥ずかしそうにしている。もちろん構わない、いてくれたら私も嬉しい。だって三井くんのこと好きだから。
三井くんは何でここに来たの?
本当に絵を見に来ただけ?
少しだけ期待してもいいの?
「・・・うん、いいよ。」
「おう」
「そこ、椅子使って。」
「どーも」
精一杯なんとも思ってないフリをする。不自然じゃなかったかな。見られながら描くのは恥ずかしいけど、少しでも三井くんと一緒にいたいという邪な気持ちが恥ずかしさを上回った。
集中集中と自分に言い聞かせ筆を進めれば、段々と邪な気持ちは落ち着いていき、言葉通り目の前のことに集中できた。
(・・・あ、そろそろ。)
視界に時計が入ったとき、その針はもうすぐ22時になろうとしていた。タイムリミットだ。片付けないと見回りの守衛さんが来てしまう。
「三井くん、じか・・・ん」
時間だから終わるね、と振り返る。
三井くんは腕を組んで寝てしまっていた。
(・・・練習した後だもんね)
疲れてたに違いない。それでもここへ来てくれた。
そう思うと口元がニヤけてしまう。
目を閉じて、スースーと眠る三井くんの前にしゃがんで顔を覗く。可愛い顔してるな。
「好きだよ、三井くん。」
ポロリと本心が口から飛び出した。
三井くんが起きてるときに言ったらどうなるのかな。
顔を真っ赤にして恥ずかしがるかな。
「よし」と立ち上がり、片付けようと体を返したとき、ガシッと何かに腕を掴まれた。
「・・・おい、それ、マジかよ。」
真っ赤な顔をした三井くんと目があった。
そして、とても繊細で、美しい。
それが三井くんの手だ。
描きたいものが見つからず、前期の課題がかなり遅れてしまった。私は毎日のように最後までゼミ室に残り筆を動かしていた。写真を見て、更に自分のイメージを加えて、絵の具を重ねていく。
(・・・もし、この手に触れてもらえたら)
そんなことを考えてしまうと、胸がキュッとなる。
例え写真でも、例え手だけでも、これが三井くんだと思うだけで、心が満たされる感覚になる。
ダメダメ、集中しなきゃ。
ふぅと一息ついて、キャンバスを見つめる。
3年になって最初の制作だ、しっかり向き合わないと。この1年は来年の卒業制作に向けての準備と言っていい。まだ前期といえ中途半端な作品は許されない、講評でボロカスに言われるのは避けたい。
(まぁ、好きな人の手ですって言った時点でボロカスに言われそう。)
そんなこと言わないけどね。と自分にツッコミを入れる。
時計を見ると、針は20時半を指していた。
「おい」
「!!」
突然、男の人の声がして驚き振り返ると
「よう、さっきぶり。」
「・・・もう、ビックリした」
ゼミ室の出入り口から、三井くんがこちらを見ていた。
「進み具合、見に来てやったぜ。」
「上からだなぁ、ちゃんと描いてるよ。」
「入っていいか?」
「どうぞ、いらっしゃいませ。」
三井くんは物珍しそうにキョロキョロしている。
石膏像や自分と同じぐらい高さのあるキャンパスなんて、あんまり観たことないだろうな。
私の後ろで絵を見つめる三井くんの口から「すげぇ」と声が漏れた。三井くんからお褒めのお言葉を頂戴した。モデルにそう言ってもらえると、素直に嬉しい。
「ありがと。でも、まだ途中だよ。」
「これで途中とか、完成したらどうなんだよ。」
「どうもしないよー」
思わずクスッと笑ってしまう。
芸術、美術といったものに、あまり触れてこなかった三井くんの言葉は純粋で面白い。
「・・・なぁ、」
「ん?」
「その・・・しばらく見てていいか?」
「え?」
「桐生が描いてるとこ」
三井くんは首に手を当て、少し恥ずかしそうにしている。もちろん構わない、いてくれたら私も嬉しい。だって三井くんのこと好きだから。
三井くんは何でここに来たの?
本当に絵を見に来ただけ?
少しだけ期待してもいいの?
「・・・うん、いいよ。」
「おう」
「そこ、椅子使って。」
「どーも」
精一杯なんとも思ってないフリをする。不自然じゃなかったかな。見られながら描くのは恥ずかしいけど、少しでも三井くんと一緒にいたいという邪な気持ちが恥ずかしさを上回った。
集中集中と自分に言い聞かせ筆を進めれば、段々と邪な気持ちは落ち着いていき、言葉通り目の前のことに集中できた。
(・・・あ、そろそろ。)
視界に時計が入ったとき、その針はもうすぐ22時になろうとしていた。タイムリミットだ。片付けないと見回りの守衛さんが来てしまう。
「三井くん、じか・・・ん」
時間だから終わるね、と振り返る。
三井くんは腕を組んで寝てしまっていた。
(・・・練習した後だもんね)
疲れてたに違いない。それでもここへ来てくれた。
そう思うと口元がニヤけてしまう。
目を閉じて、スースーと眠る三井くんの前にしゃがんで顔を覗く。可愛い顔してるな。
「好きだよ、三井くん。」
ポロリと本心が口から飛び出した。
三井くんが起きてるときに言ったらどうなるのかな。
顔を真っ赤にして恥ずかしがるかな。
「よし」と立ち上がり、片付けようと体を返したとき、ガシッと何かに腕を掴まれた。
「・・・おい、それ、マジかよ。」
真っ赤な顔をした三井くんと目があった。