赤と青から逃げたくて
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「落としたよ?」
「えっ?」
五月の連休が終わり、また日常が戻ってきた。
大学生活2年目、1年生のときにあった真面目さはすっかり無くなり、少しずつサボることも覚えた。
本来なら講義がある時間だけど、敷地内のカフェテリアでアイスコーヒーを飲みながら、一息つく。
この時間の講義はあと2回はサボれるな、期末のレポートを出せばギリギリ単位はもらえるだろう。
(そろそろ行こう。)
荷物を持ち直したとき、声をかけられた。
振り返り、その人が視界に入ったとき、息が詰まった。
「これ、違う?」
「・・・あ、」
ツーブロックに丸いサングラス、ちょっと派手めな服装に、赤いスポーツバックを肩にかけ、青い缶コーヒーを左手に持った男子学生が、私の自宅の鍵を拾ってくれていた。
「違うの?」
「・・・そ、そうです。ごめんなさい、ありがとう。」
「いえいえ、どーいたしまして。」
サングラスを上げてニカっと笑った彼の顔は、服装などからの雰囲気とは違って、人懐っこい感じだった。
「軽音部?」
「え?」
「それギターじゃないの?」
彼は私が背負う荷物を指差す。
確かにこれはエレキギターだ。小6から始めて、今も続けている。お陰様でまぁまぁ腕前には自信がある。
「うん、エレキギター。でも部には入ってないの。」
「そうなの?」
「高校から同じメンバーでやってるから。」
「すごいね。」
何だろう、この感じ。
これって・・・ナンパ?
「あ、ごめんね、足止めして。」
「いえ、ありがとうございました。」
あ、そんなチャラい感じではないのか。
彼はそれじゃ、と身を翻し体育館の方へ歩いて行った。スポーツバック持ってたし、運動部に所属してるのかもしれない。
彼のいで立ちを見たとき、忘れかけていた記憶が蘇った。
赤いスポーツバック、青い缶コーヒー。
赤と青
『C7が弾けるようになったらな』
あの声を思い出す。
「レオナ、遅刻だよー。」
「ごめん、ごめん」
繁華街から少し離れたところに、高校時代からお世話になってるスタジオがある。
当時組んだ女子三人のバンド。大学はそれぞれ違うけど、結局この面子が一番やりやすいとなり、解散することなく続けている。
「何かあった?元気なくない?」
「あー、ちょっと昔の苦い記憶を思い出して。」
「なんじゃそら」
その苦い記憶は中学時代のことだから、二人は知らないし話してもいない。
「新曲のベースラインどう?」
「もうちょっと良くなりそうなんだよねー、聞いてくれる?」
コピーばっかりやってた高校時代から成長して、今はオリジナルも作るようになった。この前スタジオ主催のライブに参加して歌ったら、なかなか好評だった。
これで食べていこうとは思わないけど、出来る限り続けたいなと思っている。
「レオナは歌詞進んでる?」
「大変申し訳無いけど、進んでません!」
「おーい!頼むぞぉ!」
五月病かなぁ、なんて笑って言ってみる。
あぁ、あの赤と青が頭から離れない。
スタジオ練習を終えて、一人暮らし先へ帰る。
実家も都内だけど、両親から老後に備えて、二人住まいにちょうどいいマンションへ引っ越したいから、お前は一人暮らしをしろ。と半ば強引に家を出された。
老後とか早くない?と思ったけど、一人娘に少しでも負担を掛けまいと思う親心だと気付いたのは最近だ。
カチャ
昼間に拾ってもらった鍵で扉を開ける。
彼は違う、あの人ではない。
自分に言い聞かせる。
たまたま、偶然。その色が重なっただけ。
ベッドに座り、ギターを持つ。
C7を押さえる。
「もう余裕で弾けるよ・・・先生」
「えっ?」
五月の連休が終わり、また日常が戻ってきた。
大学生活2年目、1年生のときにあった真面目さはすっかり無くなり、少しずつサボることも覚えた。
本来なら講義がある時間だけど、敷地内のカフェテリアでアイスコーヒーを飲みながら、一息つく。
この時間の講義はあと2回はサボれるな、期末のレポートを出せばギリギリ単位はもらえるだろう。
(そろそろ行こう。)
荷物を持ち直したとき、声をかけられた。
振り返り、その人が視界に入ったとき、息が詰まった。
「これ、違う?」
「・・・あ、」
ツーブロックに丸いサングラス、ちょっと派手めな服装に、赤いスポーツバックを肩にかけ、青い缶コーヒーを左手に持った男子学生が、私の自宅の鍵を拾ってくれていた。
「違うの?」
「・・・そ、そうです。ごめんなさい、ありがとう。」
「いえいえ、どーいたしまして。」
サングラスを上げてニカっと笑った彼の顔は、服装などからの雰囲気とは違って、人懐っこい感じだった。
「軽音部?」
「え?」
「それギターじゃないの?」
彼は私が背負う荷物を指差す。
確かにこれはエレキギターだ。小6から始めて、今も続けている。お陰様でまぁまぁ腕前には自信がある。
「うん、エレキギター。でも部には入ってないの。」
「そうなの?」
「高校から同じメンバーでやってるから。」
「すごいね。」
何だろう、この感じ。
これって・・・ナンパ?
「あ、ごめんね、足止めして。」
「いえ、ありがとうございました。」
あ、そんなチャラい感じではないのか。
彼はそれじゃ、と身を翻し体育館の方へ歩いて行った。スポーツバック持ってたし、運動部に所属してるのかもしれない。
彼のいで立ちを見たとき、忘れかけていた記憶が蘇った。
赤いスポーツバック、青い缶コーヒー。
赤と青
『C7が弾けるようになったらな』
あの声を思い出す。
「レオナ、遅刻だよー。」
「ごめん、ごめん」
繁華街から少し離れたところに、高校時代からお世話になってるスタジオがある。
当時組んだ女子三人のバンド。大学はそれぞれ違うけど、結局この面子が一番やりやすいとなり、解散することなく続けている。
「何かあった?元気なくない?」
「あー、ちょっと昔の苦い記憶を思い出して。」
「なんじゃそら」
その苦い記憶は中学時代のことだから、二人は知らないし話してもいない。
「新曲のベースラインどう?」
「もうちょっと良くなりそうなんだよねー、聞いてくれる?」
コピーばっかりやってた高校時代から成長して、今はオリジナルも作るようになった。この前スタジオ主催のライブに参加して歌ったら、なかなか好評だった。
これで食べていこうとは思わないけど、出来る限り続けたいなと思っている。
「レオナは歌詞進んでる?」
「大変申し訳無いけど、進んでません!」
「おーい!頼むぞぉ!」
五月病かなぁ、なんて笑って言ってみる。
あぁ、あの赤と青が頭から離れない。
スタジオ練習を終えて、一人暮らし先へ帰る。
実家も都内だけど、両親から老後に備えて、二人住まいにちょうどいいマンションへ引っ越したいから、お前は一人暮らしをしろ。と半ば強引に家を出された。
老後とか早くない?と思ったけど、一人娘に少しでも負担を掛けまいと思う親心だと気付いたのは最近だ。
カチャ
昼間に拾ってもらった鍵で扉を開ける。
彼は違う、あの人ではない。
自分に言い聞かせる。
たまたま、偶然。その色が重なっただけ。
ベッドに座り、ギターを持つ。
C7を押さえる。
「もう余裕で弾けるよ・・・先生」
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