左様なら
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ハピエンver.
酷い夕立がこの建物の雨漏りの箇所を教えてくれる。急に降り出した雨に、ふと、彼女は今何をしているのかと思う。馬鹿だ。自分から追い出しておいて待つのは。
玄関のマットを出しっぱなしだったことを思い出し、外扉を開けるとそこに一人の女性が立っている。
女性は驚いたかのように振り返り、髪から滴る水滴に体中を濡らしていた。
「あ…」
「あ」
目が合った瞬間、彼女は走り出しそうになり、思わず腕を掴んでしまった。
「は、離し…!」
「ちょ、ちょっと待って!待ちなさい!」
「嫌です!雨宿りしたの謝りますから離して!」
彼女だ、嗚呼、嫌がる表情は初めて見たが、確かにずぶ濡れの彼女だった。
かなり嫌がっているが力で敵わないようで、無理やり店の中に引きずり込むと、涙目でまだ腕を振り払おうとしている。
「暴れないでくださいって」
「嫌!離してって!もう行きますからっ…」
「こんな雨の中走ったら危ないでしょう!いいから中に」
「ごめんなさいっ…お願い離して、もう会いたくないの!」
「っ…」
拒絶。かなり抵抗してくるあたり彼女らしいが会いたくないと面と向かって言われると胸が抉られる様な痛みに苛まれた。
それでも離したくなくて、無理やり小脇に抱えて部屋に持って行った。気を利かせた従業員がタオルを持ってきてはごゆっくりなんて言葉を残し、消えていった。
「・・・」
むすっとした顔で大人しく拭かれる彼女は一言も発せず。こちらもあの日以来なためかなり気まずいが、これを逃してしまったら本当に二度と会えない。それだけは分かった。
「…あれからどうしてたのです」
「・・・」
「私が言った言葉ですが…その」
無表情でうつむき、何も言わない彼女。あの日、あんなことを言われたのだ。怒っても無理はない。ふと水滴がぽろぽろとまだ落ちてくるので拭こうとすると、それは水滴ではなく彼女の目から溢れた涙だと理解すると、込み上げた感情が一気に噴出した。
「…すみませんでした、あんなひどい言葉をかけて。ずっと、ずっと貴女が帰ってくるのを待っていました。謝っても謝り切れません。本当にごめんなさい」
今更彼女の愛を知り、その愛を欲しているのなんて馬鹿の極みで、自分から捨てたのに今になって後悔しているのは彼女にも失礼でしかない。
「貴女の言葉、嬉しかったのです。でも人間はすぐに飽きたりころころ好きを変えて押し付けたりする生き物だから、貴女もそれだと思ったのです。でも…貴女は違っていましたね、私のためと真に愛してくれたから、身を引いたのですよね」
後ろからそっと抱きしめると、更に涙が溢れていた。嗚呼、泣かせたくない。彼女にはあの笑顔が一番素敵で似合うというのに、奪ったのは私なのだ。
「充分伝わりましたから、今度は私がお返しをしたい。…また会いに来てくれませんか?」
ぼろぼろ涙を流す彼女は何も言わなかったが、一回だけ首を縦に振ってくれた。嬉しくて、本当はあの声で明るく愛を聞きたかったが、これは罰だ。彼女がもう一度私を愛してくれるまで、私はお返しをしよう。濡れた彼女は私のせいで更に寒そうだったが、お構いなしに抱きしめ続けた。
左様ならば、またあの声を。
Fin.
酷い夕立がこの建物の雨漏りの箇所を教えてくれる。急に降り出した雨に、ふと、彼女は今何をしているのかと思う。馬鹿だ。自分から追い出しておいて待つのは。
玄関のマットを出しっぱなしだったことを思い出し、外扉を開けるとそこに一人の女性が立っている。
女性は驚いたかのように振り返り、髪から滴る水滴に体中を濡らしていた。
「あ…」
「あ」
目が合った瞬間、彼女は走り出しそうになり、思わず腕を掴んでしまった。
「は、離し…!」
「ちょ、ちょっと待って!待ちなさい!」
「嫌です!雨宿りしたの謝りますから離して!」
彼女だ、嗚呼、嫌がる表情は初めて見たが、確かにずぶ濡れの彼女だった。
かなり嫌がっているが力で敵わないようで、無理やり店の中に引きずり込むと、涙目でまだ腕を振り払おうとしている。
「暴れないでくださいって」
「嫌!離してって!もう行きますからっ…」
「こんな雨の中走ったら危ないでしょう!いいから中に」
「ごめんなさいっ…お願い離して、もう会いたくないの!」
「っ…」
拒絶。かなり抵抗してくるあたり彼女らしいが会いたくないと面と向かって言われると胸が抉られる様な痛みに苛まれた。
それでも離したくなくて、無理やり小脇に抱えて部屋に持って行った。気を利かせた従業員がタオルを持ってきてはごゆっくりなんて言葉を残し、消えていった。
「・・・」
むすっとした顔で大人しく拭かれる彼女は一言も発せず。こちらもあの日以来なためかなり気まずいが、これを逃してしまったら本当に二度と会えない。それだけは分かった。
「…あれからどうしてたのです」
「・・・」
「私が言った言葉ですが…その」
無表情でうつむき、何も言わない彼女。あの日、あんなことを言われたのだ。怒っても無理はない。ふと水滴がぽろぽろとまだ落ちてくるので拭こうとすると、それは水滴ではなく彼女の目から溢れた涙だと理解すると、込み上げた感情が一気に噴出した。
「…すみませんでした、あんなひどい言葉をかけて。ずっと、ずっと貴女が帰ってくるのを待っていました。謝っても謝り切れません。本当にごめんなさい」
今更彼女の愛を知り、その愛を欲しているのなんて馬鹿の極みで、自分から捨てたのに今になって後悔しているのは彼女にも失礼でしかない。
「貴女の言葉、嬉しかったのです。でも人間はすぐに飽きたりころころ好きを変えて押し付けたりする生き物だから、貴女もそれだと思ったのです。でも…貴女は違っていましたね、私のためと真に愛してくれたから、身を引いたのですよね」
後ろからそっと抱きしめると、更に涙が溢れていた。嗚呼、泣かせたくない。彼女にはあの笑顔が一番素敵で似合うというのに、奪ったのは私なのだ。
「充分伝わりましたから、今度は私がお返しをしたい。…また会いに来てくれませんか?」
ぼろぼろ涙を流す彼女は何も言わなかったが、一回だけ首を縦に振ってくれた。嬉しくて、本当はあの声で明るく愛を聞きたかったが、これは罰だ。彼女がもう一度私を愛してくれるまで、私はお返しをしよう。濡れた彼女は私のせいで更に寒そうだったが、お構いなしに抱きしめ続けた。
左様ならば、またあの声を。
Fin.
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