赤い糸
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは突然だった。
お客様の中に特殊な力を持った方が居たからか、はたまた私自身に元からその力が備わっていたのか。
他人の運命の糸が視えるようになっていた。
あるお客様はお連れの方と、従業員達にも長くどこかに繋がったその糸が、私にだけはっきりと見えた。その日は混乱したが、薬指から長く伸びる赤い糸は自分にしか見えておらず、誰に聞いてもそんなものは見えないと言う。
おかしくなったのかと不安になったが、自分の薬指に巻かれた赤い糸が外へと繋がっているのを見て、また今夜くる彼女を思い浮かべては胸を高鳴らせた。
嗚呼、私にもお相手が存在するのか。それが嬉しくて、あの人を待つ。
「こんばんは!」
これほど緊張したのは久しぶりで、彼女の顔を見ても挨拶がまともにできなかったほどだ。
糸は、彼女と繋がっている。
「ギャルソンさん?」
しっかりと、小指に。
「どうしたの?何かあった?」
私の左手の薬指の赤い糸は、彼女の小指に無茶苦茶に巻かれている。本物の糸であったなら、欝血して指が壊死するであろう程、ぐるぐるに巻かれている。
「あ、ネイル?新しくしたの」
そして、彼女の左手の薬指に一本の赤い糸。それは外へと延びていた。
「…顔色悪いですけど、本当に平気ですか?ねえ」
悲しくて、許せなくて、辛くて、許せなくて許せなくて。
「っなに!え!?」
思いっきり彼女の薬指に繋がる糸を手に持ち、引きちぎった。
すんなり切れたそれに息を荒くしながら何度も何度も足で踏みつけ叩きつけ、彼女の薬指を握った。
「どうしちゃったの?変だよ!」
どうしてこの糸は小指に巻かれている?どうして私は薬指なのに、彼女の小指にしがみつくように巻かれているのだ。
理不尽な糸を取りたくても、あまりに無茶苦茶に巻かれた赤い糸は取れなくて、薬指につけて差し上げたいのに切ることも敵わなかった。
「…何してるの?」
優しく諭すような声が耳に心地よい。私の名を呼ぶその声も、見つめてくれるその瞳も、細く白い指先も、全てが愛おしくて堪らないのに、何故、私と同じ指に繋がってないのだ。
必死に糸を取り除くしぐさは、糸の見えていない彼女には意味不明だったようで、怯えながらも手を差し出したまま呆気に取られていた。
その日は体調がすぐれないと言い、別日に来てもらう事となった。
大丈夫、私は彼女と繋がっている。そして私は彼女の左手の薬指の糸を切ることができるのだ。大丈夫、大丈夫だ。
何度も自分に言い聞かせ、自分の赤い糸を見つめながら彼女の事を想い続けた。
「…こんばんはー」
明くる日、恐る恐る入ってきた彼女は少し気まずそうで、こちらの様子をちらちらと伺っていた。
腹が立つとはこのことで、性懲りもなくまた彼女の薬指には赤い糸が外へと繋がっている。
今度は表情に出さず、ゆっくりと力を入れて丹念に切ってやった。今回も文字通りいとも簡単に切れていった。私の糸と違って脆いものだ。
「何かのおまじないですか?」
やはり事情を知らない彼女は不安そうにこちらを見ている。
私はずっと考えていた。
「…な、なんか息苦しいような」
私は私の赤い糸を彼女の全ての指に絡め、そして彼女の首にくるくると何重にも巻いて差し上げた。
首に食い込みが入るほど、体中に巻き付いたそれはまるで彼女がプレゼントになってしまったかのようで、嬉しくて笑みをこぼした。
「変なギャルソンさん…でも笑ってくれて良かった、心配したんですからね」
「ねえナナシさん」
「ん?」
首から延びる糸はまるでペットでも繋いでいるみたいで愛らしい。
「運命の赤い糸は、案外容易いものなのですね」
「赤い、糸?」
大丈夫。貴女に絡みつく邪魔な糸はいつでも切り取って差し上げますから。
そして、永久にこの糸を紡いでいけばよいのですから。
薬指は見えなくなっていたが、私は幸せであった。
Fin.
2/2ページ
