失せモノ
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「ナナシさん、これを」
その日、渡されたのは一本のリップ。
「…あ、これ」
つい最近、化粧ポーチから無くなっていたそれであった。
いつ無くなったのだろうと思っていたが、彼が差し出したのなら、ここで落としたのだろう。
「洗面台にありましたよ」
「そうでしたか、探してたので…ありがとうございます」
にっこりと微笑みなら渡してくれたそれは気に入ってた色なので大変助かった。
「ナナシさん、これを」
次の日、渡されたのは一冊の本だった。
「…あ、これ」
数年前に読んでいた小説だ。面白くて何度も読んで、いつかどこかで失くしたそれであった。
「こちらにあったのでもしやと思いまして」
「そう、でしたか。私のです、ありがとうございます」
何故だろう、いつか電車に忘れたと思ったそれが、ここにあったという。
「ナナシさん、これを」
別の日、渡されたのは一本のリコーダーだった。
名前は私のフルネームが油性ペンで掠れながらも刻んである。
「え…」
思い出したのは中学生の時。いつの間にか消えて買い替えたリコーダーのことだ。
「それからこれも」
小さな香りのついた消しゴム。
「これって…」
小学生の時お気に入りだった、好きな人の名前を書いたのに失くした消しゴム。
「なん…で」
彼の顔を見ると、いつものようにニコニコと微笑んでいる。
いつから、それを持っているのだろう。
「ずっと見守っていましたから」
震える手が受け取るのを拒否している。
「運命の出会いなのですよ、私達」
ポケットからどんどんモノを出す彼に、私は声を失っていった。
Fin.
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