怪我の功名
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気が付くとそれは薄暗い部屋の天井が見える。
「知らない天井だ…」
「何ですそれ」
横を向くと心配そうに座っているギャルソンの姿があった。
全身に走る痛みと体に巻かれている包帯からは少しだけ血がにじんでいる。
「大丈夫ですか?他にどこか痛みます?」
「いえ、もうへい…痛」
「起きちゃダメですって!魔女から薬を貰ったので飲んで休んで下さい」
差し出された謎の液体を飲むのに戸惑ったが、一気に飲み干すと痛みはみるみるうちに失せていった。
「ナナシさん、階段を踏み抜いて落ちたのですよ」
「…太ってたから?」
「違います!階段は元から朽ちていたので…申し訳ございません、私の不注意で…」
謝罪をするギャルソンに慌てながら首を振る。痛くはないが傷が所々にあるようだ。服も破けているようで、布団の中でどう帰ろうかと悩んでいると、ギャルソンは一着の服を渡してきた。
「傷が癒えるまでここにいてください。安静が一番ですから」
「え?」
服は可愛らしいパジャマだった。こんなものがここにあるのも不思議だが、動けないもの事実。それに魔女からの薬で治療が受けられるというのも自らの好奇心に火がついてしまい、一泊だけさせてもらうことになった。
「さ、食事の用意も出来ていますから、口明けてください」
「いや、自分で」
「…ご自身の両手、見えてます?」
包帯ぐるぐるの両手は希望もスプーンも掴めなさそうだった。
「…んあー」
「よろしい」
気恥ずかしいが素直に口を開けると、ギャルソンは嬉しそうに食事を口へと運んだ。
「うっっま」
「美味しいと言いなさいな、はしたない」
「あ、すみません…いやあ、至れり尽くせり!もう一生ここに住んじゃおうかな!」
半日居て思ったが、何か少しでもしようものならギャルソンが飛んできて介抱してくれる。飯はうまいし動けないのは難点だが静かでいい場所だ。
冗談めいてそんなことを笑って言い放った。
「じゃあ住んでください。もう出なくていいですよ」
微笑みながら言うギャルソンは、リンゴを一欠片差し出した。
「噓噓、明日には」
「帰れませんよ」
差し出されたリンゴを口に入れたが、咀嚼は出来なかった。
ギャルソンの目が、本気なのだ。
「階段一つで死にそうになるならここに居てください、知らない場所で死なれたら魂が追えないじゃないですか」
微笑んでいるのに目が据わっている。こんな表情を見たことがなくて、冷や汗が出てくる。
ふと気が付いたのだが、何故彼は自分にぴったりのパジャマ何て持っていた?それにこの部屋、鏡台やらブラシやら生活するのに不自由のない品ばかりではないか。
「心底思っていたのです。ナナシさんがどこかに行ったきり、ここへ来なくなるのではないのかと」
扉に目をやると、鍵の数が尋常ではない事にも気が付いた。そしてここは世に言う廃屋。人は滅多に来ることはない。
「胃袋から掴もうかと思っていたのですが、こんなに早くここに居てくれることになるとは思いませんでしたよ」
足は思い通りに動かない。痛みも、否、感覚がないのだ。
「美味しいですか?」
何を飲まされたのか、何を食べさせられたのか、思い出せない。何の躊躇もなく口に運んでしまった。
「何でもして差し上げます。私とナナシさんの箱庭で、ね?」
リンゴを飲み込めないでいると、不意に口づけをされ、口内のリンゴを舌で絡めとられた。
「…甘い、甘い生活、始めましょうか」
その目は漸く嬉しそうに、そして楽しそうに笑っていた。
Fin.
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